6...身を挺する愛
森の中は静まり返っているが、重い空気が自分たちの行く手を遮るかのように漂っている。すでにルシードだけじゃなく、エルですら1キロ圏内に下級魔獣以上の魔獣の気配を感じ取っているのだから、ここからのは昨日の様にはいくはずもないと皆わかっているハズ。しかし、まだ力をほんの少ししか出せていない隊員たちは、やる気に満ち溢れている。
「今日は中央区域を攻める!10キロ先まで討伐する予定だ!すでに1キロ圏内だけで数十体の中級魔獣が確認できている。作戦としてこの湖を拠点とし、【白】【橙】【黒】はここでそのまま待機とする!先発は【赤】【黄】!後方支援を【緑】!【青】はサポートだが、私が5キロ圏内で魔獣の確認を行う。その為【紫】が待機してサポートチームを護衛してくれ!【青】は5キロ先まで進めたらそこで後方支援と、サポートへの支援両方を行う!【赤】は湖の西側幅5キロ圏内の魔獣殲滅をしながら進んでくれ!【黄】は東側幅5キロ圏内だ!【緑】は【黄】の後方支援で頼む!各チーム何かあればすぐ通信で知らせてくれ!私はなるべく通信で魔獣の位置を伝えるが、正確な位置確認は3キロ以上先は不明確だ!油断せず進んでくれ!以上!!」
「「「「「 了解っ!! 」」」」」
隊員たちは各チームリーダーの指示の元出発していく。ルシードは次々と魔獣情報を各チームに伝えていくが、昨日とは段違いなほどに魔獣の数が多い。
「西側下級魔獣の群れに中級魔獣が2体以上確認!東側は下級魔獣数体だが、中級魔獣5体は確認!魔獣の状況報告を随意頼む!」
ルシードは次々と状況を通信で知らせていく。
「アル!群れは俺がやる!!」
エルはアルと並走品がら告げると風切り刃の叛意攻撃を放つ。100m近く離れた場所の下級魔獣はあっとゆうまに切り刻まれる。
「アルフォンス!状況把握と弱体化した下級の処理を頼む!エル!ジークは俺と中級魔獣をやるぞ!カーズリフはアルフォンスの援護!ハロルドは私たちの援護にまわれ!行くぞ!」
駆けながらアルは指示をだし中級魔獣を確認する。
「あれはウルフ系じゃないか?!」
「ベアウルフだな!群れがあると厄介だな。仲間を呼ぶ可能性がある!気を付けろ!」
「「「 了解 」」」
エルの問いにアルは指示を出すが、もしベアウルフが群れで縄張りとしているのであれば慎重に勧めなくてはならない。仲間を呼ばせないようにしなければならないからだ。
「今確認できているのはベアウルフ3体だ!逃がせないし即殲滅が絶対だ!エル、ジーク!それぞれ1体を確実に倒せ!ハロルドは倒し切れなかったとき頼むぞ!速やかに殲滅だ!」
ベアウルフの姿を感知すると、すかさず先制攻撃で風範囲攻撃をエルが繰り出し敵を引き付ける。弱体したところを各々が魔法剣で攻撃する。素早い連撃であっとゆう間に3体のベアウルフは絶命した。
「す・・すごいっす!!」
後方で援護予定だったハロルドは感嘆する。
「まだまだ始まったばっかだ!気を引き締めろ!!」
エルは檄を飛ばす。アルフォンスとカーズリフは下級魔獣を殲滅してすぐ合流し、皆揃って先を急ぐ。
「ルシード!魔獣の正確な情報をくれ!」
《早いねー!流石ロゼアル隊長様!》
「ふざけてないで早く教えろ!魔獣がすぐそばにいるのはわかっているんだ!」
《わーったよ!【赤】の1キロ圏内に・・うわ・・中級魔獣の群れと下級魔獣が混ざってるぞ!気をつけろよ!!》
「恐らく中級はベアウルフだ!ウルフ系の魔獣が群れでこの森に潜んでいるかもしれない!他チームも気をつけろ!」
《了解!-アル気をつけろよ!》
「心配無用だ。」
「ここから中級ウルフの群れと下級魔獣の群れが混ざり合っている!エルは範囲攻撃で先制後、アルフォンスは残りの下級!エル、ジーク、カーズリフと私は中級魔獣だ!ハロルドは援護を頼む」
「「「「「 了解!!! 」」」」」
しばらく森の中をかけると、少し開けた場所があるようで魔獣が屯するのが見える。すかさず範囲攻撃を放つが、中級が多いのかほとんど倒し切れていない。アルフォンスは下級を次々素早い身のこなしで切り付けていくが、屯するベアウルフの数が多い。エルは敵意をこちらに向ける為、範囲攻撃を更に放ち続けていく。
「エル!魔力切れ起こすなよ!」
「アル!!----舐めんじゃねーぞ!」
エルはアルの言葉に不敵に笑うと魔法を放ち続ける。
「エルに負けてらんねーな!おるぁあっ!!」
エルの煽りに乗っかり、ジークは大きく踏み込んでベアウルフに飛び掛かり大剣を叩き下ろす。真っ二つに切り裂かれたベアウルフを気にも留めず、ジークは襲い掛かる他のベアウルフを薙ぎ払う。
「ジークナイス!俺がいただくぜ!」
すかさずジークの薙ぎ払ったベアウルフをカーズリフの火の魔法剣で焼き切って絶命させる。
「おう!どんどん薙ぎ払ってやらぁ!」
ジークとカーズリフは阿吽の呼吸で確実にベアウルフを倒していく。
アルはベアウルフを水魔法で氷漬けにしたあと剣戟で粉砕したかと思いきや、火の魔法剣でベアウルフを焼き尽くし、どんどん倒していく。
エルは先手魔法を放ち、その後は風で巻き上げ叩き落した後急所を刺し貫き華麗に倒していく。ハロルドは各々の華麗な攻撃に見惚れつつ状況把握に努め、倒しそこねることがないように様子を伺い備えていた。
《ロゼアル!恐らくその先にも中級の群れがあるぞ!多すぎる!状況把握も忘れないでくれ。》
「わかった。すぐ済ませる。」
ルシードからの通信でやはりウルフ系の群れが発生していることが確認できた。それにしても数が多すぎる。まだ西、東の区域も殲滅できておらず、本命の北区域も残っていてこの数となると、中級だけで済むはずがない。
アルの予想をルシードも感じ取ったのだろう。
【赤】はベアウルフの群れもなんのことなく素早く倒し、10キロ地点まで4時間弱で到達し、そこからは東側の応援に向かった。
結局拠点にはスムーズに戻り夕食時間に余裕をもって間に合わせることができた。
それぞれが汚れを落とし、武器を点検しつつも、敵の多さに少し疲れを感じている様子ではある。アルは作戦会議に各チームリーダーとエルを呼び、再度状況把握と今後の進め方の確認をすることにした。
「---上級はいると思うぜ。」
あっさりとエルは言葉にする。
「私も同感だ。今日の魔獣の発生レベルは、ただの中級魔獣が発生しただけという判断では済ませないレベルだ。」
アルも即座に同意する。
「まぁ中央区域がこの魔獣の発生量と考えると、西側区域も東側区域も大差はない。もしくはもっと増える可能性はあるな。一応魔獣が嫌悪する薬を撒いているから、中央区域はしばらく魔獣は戻ってこないはずだが、東西の魔獣を早めに倒さないと拠点も危険に晒されかねないだろうな。」
ルシードの見解に、リーダーたちは深刻なレベルに顔を見合わせる。
「焦ったってしかたねーんじゃねーのか?まずは確実にだろ?どっちみち時間は決まってんだし、慌てず着実に今日と同じ攻め方で行こうぜ!早く倒し終わったら助けに行ってやるからさ。」
エルの言葉は屈強な男たちからすると生意気な発言に聞こえるかもしれないが、20前半の子猿の発言であっても、他のリーダーたちは溜息を吐きながらも苦笑しつつ了解したのだった。
【赤】は魔獣を殲滅後、【黄】の救援に向かったのだが、あっとゆうまに魔獣を倒してしまった。正直【赤】の戦力は他の2チームよりも優れている。それを今日1日でも証明しているし、今までもそれが当たり前の流れだった。しっかり救援に駆けつけてくれていたのは事実だったからこそ、リーダーたちはエルの言葉に逆らったりはしないのだ。それに口が悪くても激励し、隊員たちを奮い立たせる底抜けの明るさをエルが持っていたからこそ、隊員たちは折れずに今日も突き進めたのだ。リーダーではないエルが会議に呼ばれるのはそのことをアルが認めているからに他ならない。
そこからは数は多かったものの、上級魔獣とは対峙せず、東西の区域を確実に討伐を進めていった。
明日からはいよいよ北区域に入るという事で、より隊員の警戒は強まっていた。スムーズに討伐は進んでいたものの、やはり【赤】の支援があって何とかなっている状況だったため、各隊員に疲れが見えてきている。
作戦で北区域はチームを分けず着実に進めることとなった。明らかに上級以上のウルフが存在する可能性を視野に入れると戦力が弱すぎる為だ。【赤】が先発先制で攻撃し、後方支援で【黄】【緑】【青】の中で、身体強化や回復、攻撃魔法に備えシールド魔法を使える隊員を控えさせた。そして【紫】はサポートチームの護衛に回ったのだった。
案の定昨日までと同じ中級のベアウルフなのにもかかわらず、身体強化を受けているのかなかなか倒し切ることができない。【赤】の体力がつきないように、後方支援は随時【赤】を手厚くサポートしていった。
北区域は思うように進撃できず、北区域の一番魔力の強く感じるエイド山脈の麓にたどり着くまでに、3日かかってしまった。
「アル。体は大丈夫か?」
エルは冗談のように笑いながら尋ねるが、冗談ではないことをアルはわかっていた。
「私は大丈夫だ。エルのほうが心配だ。無茶しないでくれよ?」
「舐めんじゃねーよ!ここまでミスなんかしてねーし、スムーズに進撃できたのは俺の先制魔法の賜物だぞ!」
ぷくっと頬を膨らませ不貞腐れたように見せるエルの頬がぷにゅっと両手で押しつぶされる。
「知ってる。だから心配してるんだ。力を使いすぎてる。」
エルの頬を両手で押しつぶしながら真剣な眼差しでアルはエルの瞳を覗き込んだ。
その瞳には紛れもなく心からエルの身を案じての言葉なのだと感じた。
強がっていたエルは視線を彷徨わせ、眉を下げながら「わかってる・・」小さく呟いた。
間違いなくこの討伐で一番力を使っているのは【赤】であり、その中でもアルとエルは別格だった。しかし、女であるエルは体力が他の男たちより持たないことを誰よりも理解している。だから、今回に限らず毎回最終の討伐の前は、嫌気がさすほどに体が自然と身震いするのだ。そんな姿を見せないように強がっているのだが、それを見透かされたような気がしてエルは動揺してしまった。
ルシードは明らかに上級魔獣がいることを感知していた。しかし問題はただの上級魔獣ではなさそうという事だった。
上級魔獣は2体いて、そのうちの1体は魔力が大きいという。更に上級魔獣を守るように中級魔獣が上級魔獣を取り囲んでいる。接戦になるのは簡単に予想できた。もしかしたらこちらの不利になる状況も考えられる。
要である【赤】には前日のうちに状況把握と対策を伝えてあるが、どう転ぶかわからない。まさに【赤】次第と言える。
それぞれが真剣な面持ちで最終討伐に備えるのだった。
***
戦いは想像していた通りの接戦となった。やはり魔力が多い上級魔獣が他の魔獣に力を付与している為、攻撃がなかなか通らない。
隊員たちの体力はどんどん奪われ士気も下がっていく。
「アル!魔力の高い奴を先に倒さなきゃだめだ!俺たちでやろう!!」
エルは直観的に感じ取り、このままではまずいと感じた。
「わかった。俺たちでやろう。だがそこまでたどり着かなきゃいけない。少なくとも中級10体は倒さないとならない!」
「俺に任せてください!隊長!俺が道を作りますよ!」
ジークがすかさず声を上げる。
「それなら俺も行かなきゃだな!」
「ルシード!盾になって先陣切れる体力残ってるやつ【赤】以外10人位いないか?」
《探していかせる!10分程待ってくれ!》
「遅い!もっと早く頼む。」
《おいおい・・探すのも大変なんだぜ?まぁ最善は尽くすわ!待ってろ!》
カーズリフの言葉にアルは即座にルシードに通信で人員確保のための連絡を入れた。
何とか集まった12人の隊員は、アルとエルを上級魔獣の前にたどり着けるように中級魔獣を抑えこむ。かなり危険な役割ではあるが、憧れのロゼアル隊長に選抜された隊員たちの士気は十分すぎるほどに高まっていた。
「君たちの力なくして上級魔獣は倒せない!危険な勝負だが、中級魔獣から縦になり戦ってほしい!頼む!!」
「「「「「「「「「「「「「 了解!!! 」」」」」」」」」」」」
隊員が道を作るべく駆け出し中級魔獣を押し飛ばし道を切り開いていく。アルとエルは上級魔獣の元まで一気に駆け抜ける。
すかさずエルは風切りの威力を最大限まで高め放つが、身体強化をかけているのか手ごたえが薄い。
「エルこの上級魔獣はサンダストウルフだ!水属性だが、魔力の強さで自身も周りも強化している!弱体化させなければならない。エルは修得しているか?!」
「俺を舐めんなよ!任せろ!だがそれだけで倒せるか?」
「エルの魔法に俺の氷魔法を上掛けして、弱体化させて攻撃を連続で放つ!行けるか?!」
「りょーかいっ!行くぞ!!」
「頼むっ!!」
「2体同時に巻き込んでやるよ!!」
エルは不敵に笑うと叫んで上級魔獣2体を大きな竜巻で包み込んだ。
「流石だ!!」
アルは頬を蒸気させ興奮しつつもつららのような大きな氷の塊をいくつも竜巻の中に放つ。氷の連撃と竜巻の弱体により上級魔獣たちの力が大幅に弱まった為、中級魔獣たちは力を失っていく。
隊員たちはここぞとばかりに畳みかけ魔獣を倒していき竜巻が収まった時上級魔獣2体は横たわっていた。
「やった・・・のか?!!」
エルは脱力し両ひざを地面について様子を伺う。
しかし魔力の強かったサンダストウルフは残りの力を使い切るようにエルに向かい、雷の刃を一重にまとめ強力な一撃を放った。
「!!!!!」
「エルっっ!!!!」
魔力を使い切り力の入らないエルは逃げる力すら残っていなかった。とっさに目を瞑り死を覚悟した時、自分の体が大きく動いたのを感じた。
時間にして数秒だったのだろうか?気づくと地面に仰向けで倒れている自身に気づく。背中は衝撃で痛いがあの雷撃を受けて生きていられるとは思っていなかった。
恐る恐る目を開けると目の前には覆いかぶさるアルの姿があった。
「アル??!!!」
起き上がろうとしてアルの背中を掴もうとするとヌルっと濡れて滑る感覚に嫌な汗が流れる。
(まさか!!!)
嫌な予感が脳裏を駆け巡り身を起こしアルを起こそうと揺さぶると背中は裂傷で多量に出血し、力が抜け真っ青な顔色で意識を失っていた。
「だめだ!!起きろ!!死ぬな!!アル!!!」
エルの悲痛な叫びにアルは微動だにせずエルの腕の中でただ横たわっていた。
3月31日本日この後18時頃もう1話更新予定です。( ;∀;)