4...アルの心
イーシスの森の南区域の討伐が終わり、討伐第二部隊は中央区域手前の湖の傍に野外に陣営を張って、隊員たちは武器や防具の点検や補充を行っている。
【赤】はアル、エル、ジーク、カーズリフ、アルフォンス、ハロルドの6名。【黒】が戦闘部隊のテントをそれぞれ張り、野営の準備を終わらせていた。
「あれ?体調早いですね。もうテンドネス副隊長とのミーティングおわったんですか?」
「あぁ。討伐は順調だったから今夜は早々に切り上げた。」
「確かに今日の討伐は最速でしたね!この調子なら予定より2倍の速さで追われちゃうんじゃないですか?」
アルフォンスは背はそんなに高くはない。エルほどではないが男のわりに小柄だ。くるんとカールしたふわふわの夕焼け色のようなオレンジの髪色は柔らかく年齢より幼ない雰囲気を増長させている。瞳はくりくりの透き通るような碧色のガラス玉のような美しさだった。年上の令嬢によく声をかけられると嬉しそうに自慢していた気がする。
身軽だからか動きはとても素早く、近接戦をするときは颯爽と駆け回り敵を翻弄する。エルの範囲魔法のお陰であまり近接戦はないのだが、明日以降は敵が増えるのできっと自身の利点を活かし切ることができるだろう。
しかしすぐに長身乗ることがある。甘い考えでいては命の危機すらあるのだ。上司として危険は排除しなくてはならない。
「アルフォンス。甘い考えでいると痛い目に会うぞ。本部に戻るまではきを引きしめておけ。」
「はいっ!最善を尽くします!!」
「結構。ところでエルはどこだ?私のテントか?」
「はい。早めに休みたいって言ってましたから、テントじゃないでしょうか!」
「わかった。」
隊員たちのワイワイ話す姿を通り過ぎアルは自身のテントの前まで歩みを進め、入り口の前で立ち止まった。
2日前、エルとアリエルを想うと胸がが苦しくて、思わず秘めていた想いをエルに告げてしまった。エルは驚きはしたものの嫌ったり、引いたりする様子はなかった。正直口もきいてもらえなくなるのではないかとあの告げた瞬間は生きた心地がしなかった。
しかし、エルはアルの想いを受け止めてくれた。まさか感謝までされて、大切だなんて言ってもらえるなんて思わなかった。上司であり戦友でもある同性の私が抱き着いても嫌がらないし、友人関係の時から器の大きい奴だった。話をしているとつい心を許してしまう。
だから友人以上のキモチになるのは知り合ってからさほど時間はかからなかった。一緒にいるだけで心が満たされるし、あの小さい体を抱きしめると癒される。いつも明るくて、こちらが悩み事があるとすぐに気づいてくれた。
それは言葉に表すことが難しいくらい大きな情だった。
アリエルとの結婚を決めるまでは、エルと恋人になりたいなどと思うことはなかったし、独占欲だって感じたことはなかったはず。それなのにアリエルと出会い、共に暮らすようになってからは、急激に自分の感情の起伏の乱れを感じるようになった。
アリエルは私の話を聞いてくれて、エルの話を沢山教えてくれる。夫がいつも彼女の兄の話ばかりしていたら、嫌な顔をしたっておかしくないだろうに、楽しそうに話を続けてくれる。それが日課だ。
毎日が満たされてしまってエルとも近く感じるだけじゃない。まるでアリエルとエルが二人で一人のように感じてしまうんだ。双子とは感覚や感じ方が似るというがだからなのだろうかといつも考えた。彼女と話せば話す程、彼女のことも知りたくなる。
しかし、私は約束してしまった。想い人がいるからアリエルを愛さないと。その代わり家族として大切に扱うと。
このままだと家族として接すれば接するほど距離が近くなり、本気で抱きしめてしまいかねない。最近では普段何をしているのか気になって仕方ない。【自由】を約束したのに、束縛するなんて嫌われてもおかしくない。
エルは友人で距離感が近かったから抱きしめても許してくれたかもしれないが、私がアリエルを抱きしめてしまったらそのまま押し倒しかねないし、唇も奪ってしまいかねない。
(だめだ!!かんがえるな!あのプルプルと柔らかそうな、熟れた果実のような唇に吸い付きたいなんて・・私はどうしてしまったんだ!!)
悶々と頭の中で自分自身の邪な感情と攻防し、自分が入り口の前でしばらく佇んでいたことに気づく。
(休もう。埒が明かないことばかり考えていては戦闘で失態をおかしかねないぞ!)
アルは胸に手をあてて深呼吸してエルの待つテントにはいるのだった。
「入るぞ。」
返事はなくとも否定の言葉もないのでテントに入ると、エルはアルフォンスが言っていた通り休みたかったのか、すでに横になって寝息をたてている。
アルは装備を外し、軽装に着替えると横になっているエルの頭の傍に腰を下ろし、少女のようなエルの寝顔を見つめながら優しく頭を撫でたのだった。