3...討伐開始
「2時の方向に下級魔獣5体【黄】向かって!12時方向の下級魔獣10体以上【赤】向かって!【紫】は【赤】の後方支援!10時の方向の下級魔獣3体【緑】向かって!【青】は現時点待機とサポートチームの護衛!戦法は各リーダーに任せる!作戦開始!!」
「「「「「 了解!!」」」」」
今回の作戦は副隊長のルシードが探知で魔獣の場所を特定し、各チームに指示を飛ばしていく。
魔獣は現時点では下級のみのようで、【赤】のアルのチームはあっとゆう間に魔獣を殲滅していく。おかげでほぼ隊員の体力は消耗することなく、1日でイーシスの森の南区域は完了してしまった。
中級魔獣が発見されたのは北の山側。今回の討伐は5区画に分け、南→中央→西→東北で進んでいく。討伐は10日予定だが、南区域が1日で完了となると殲滅速度が速すぎる。この調子なら1週間かからない可能性もあるだろう。
「アル・・飛ばしてるよな?」
「飛ばしてない。」
アルはルシードの問いにもスンとした態度でそっけなく返すが、明らかにいつもより空気がおかしい。
「どうしたんよ?こっちは楽だから助かるけど、アルとエルの攻撃速度早すぎるんだよ。」
ルシードはアルの幼なじみであり信頼できる部下なのでアルの一挙一動はすぐ感づかれる。
「早く帰りたい。」
「え?・・・お前討伐大好きなのに?エルと喧嘩でもした?」
「してない・・・」
「したんだ。」
「‥‥」
「フラれた」
「・・・・・・・・・え?」
あっさりした会話を作戦会議中にしていたはずが、とんでもないアルの発言にルシードは固まった。
「・・誰に?」
「・・・・・」
「?!-おいおいおいおいおいおいまじかよ・・まさかエルか?」
「・・・・・」
アルはほぼ無言になっているにも拘わらず、ルシードは察してしまった。
特にアルがエルに好意を持っているように接しているわけではないのだが、普段から無表情で何を考えているかわからない態度をとっているのに、エルとは微笑みあっていることもしばしばだ。仲が良いんだろう。だが、その程度にしか周りも感じてはいないはずだ。
しかし、仲が良いのだろうと、感じる相手はエルしかいない。そのことも隊員全員が知っていることだ。消去法でいってもアルが振られるなら、相手は恋愛抜きにしてもエルしか考えられない。
「お・・お前・・・本気で男色だったのかよ・・」
「・・・・・エルだけだ」
「・・・」
否定しないアルにルシードは言葉を失う。
だってあのアルなのだ。若くして侯爵となり、容姿端麗、花が舞い散るような美貌、2属性魔法の稀代の魔法剣士、頭の回転も速く記憶力ズバ抜けているから、誰もアルと敵対しようなんて考えない。皇帝にまで気に入られ女のお節介まで焼かれるほどなのだ。世の令嬢たちの嘆きが想像できる。
「まぁたしかにエルはそこらへんの令嬢より美人だとは思うけどな?だけど討伐はまだ始まったばっかだぜ?大丈夫か?」
「問題ない。」
即答するアルにルシードは頭をかきながら気まずいながらも様子を伺う。
ルシードはアルとは学園に通っていた頃からずっと一緒にいた。美貌過ぎて老若男女問わずモテすぎてトラブルを防ぐためアルは笑うことをしなくなり、表情を隠した。相手に興味を持たれないようにするためには、そのくらいしかできることがなかったのだろう。
隠すことばかり気が向いていたから、アルは誰にも心を開くことがなかった。俺とだって一緒にいても何考えているのかわからないことが多い。
だけどエルと出会ってからアルは表情がわかりやすくなった。感情が表にでているのがわかる。だからエルとアルが男色の噂が立つことも多かった。あくまで噂だ。
・・・それが真実だなんて考えたくもない。優秀な遺伝子が・・・子孫が途絶えてしまう事は皇帝すら望まないだろう。だが頑ななアルならエルをきっと一途に想い続けるだろう
「それじゃ夫人のことはどおすんだ?」
ルシードの言葉にアルはびくっと体を震わせ固まった。
「???なんだよ?夫人ともなんかあったのか?!」
「・・・アリエルが・・エルに見えるんだ・・」
「はぁ?!」
「・・・・・」
どうやらこっちが一番の悩みらしい。ルシードは直観的に察する。
「エルに見えるってことは恋愛対象に見えるってことか?」
「・・・・・」
黙って俯く姿はどうやら図星らしい。
「何がだめなんだ?夫人のことも好きになれるならいいじゃねーか」
男色だけじゃないなら良い事のはずなのに悩みこんでいるアルの真意を測りかねる。
「私は・・彼女と白い結婚を約束したから」
「はぁぁぁぁぁぁああ?!」
ルシードは愕然とする。もう一度繰り返すが、あのアルが【白い結婚】だと??どうしたらそうなる?
「おいおい・・なんでそんな約束しちまうんだよ。俺お前の親友だと思ってたのに初耳なことだらけで落ち込むわ・・まぁ約束は撤回したらいいんじゃねーの?」
感情のジェットコースターでルシードは精神的疲労でゴリゴリ体力が奪われている感覚がする。
「アリエルは・・恋愛したくないんだ・・それに私は想い人がいるから愛せないって言ってしまったから、きっと安心してる。・・嫌われたくない・・」
「・・・・拗らせてんなー・・」
想い人がいるって言って白い結婚を迫ってスピード結婚して、半年たたずに反故にしたいアルは、きっとアリエルにどう接したらよいかわからなくなって混乱しているんだろう。それなのにエルに振られたとか・・
ルシードは状況をなかなか理解できず、しばらく黙り込んでしまった。
「俺がいけないんだ。アリエルと結婚したらエルと家族になれるし、アリエルを守れるのも自分だと信じた俺が浅はかだった・・。」
「落ち込むなって。人の感情なんて移り変わっていくもんなんだぞ?まぁこの状況で今日の戦い方だったならお前はやっぱ優秀だわ。安心したよ。」
ルシードはアルの肩をポンポンと軽くたたき慰める。
「この討伐で自分がどうしたいか向き合ってみろよ。エルもアルの夫人への想いの変化は伝えてるのか?」
「ー言った。」
「なるほどな。ならなるようになるって。エルの妹なんだからどうなるかはわからないにしても、嫌われることはないんじゃないか?」
「・・だといいな。」
「俺も協力するからさ。討伐早く終わるように頑張ろうぜ!」
「ー当然。とっとと終わらせる。」
「今夜もエルと寝るのか?」
「寝る」
「ブレてなくていいんじゃね?だったらも会議は終わりだ!エルと語り合って来いよ!」
「言われなくてもそうする。」
アルは無表情でそっけなく返事を返すが指が少し震えていることをルシードは見逃さなかった。しかし、今の状況でできることは見守る事しかないとルシードは感じていた。
「俺はお前の味方だからな。」
テントを出て行くアルの姿を見守りつつルシードは優しい声音で囁いたのだった。