2...告白
「エル・・ごめん。・・・俺は・・・エルが好きなんだ・・
男同士なのに・・・変だってわかっているんだ。・・だけど一緒にいると抱きしめたくなるし、沢山話したくなる・・」
「え?俺?・・・俺のこと・・本気で好きなのか?」
申し訳なさそうに想いを伝えてくるアルを、呆然とエルは見つめ返す。
「・・・好きだ。」
申し訳なさそうに呟くも言葉を撤回する素振りはない。
エリーザも冗談ではあったがアルの本命がエルなのではと揶揄って言ってきたが、確かに今までのアルのスキンシップが同性の友人関係の範疇を超えていることは薄々気づいてはいた。
それでもアルとのスキンシップは嫌ではなかった。むしろ最初は少し照れはするものの、居心地の良さや安心感さえ感じることはあったのだ。
「ありがとう。」
エルは素直に言葉が漏れ出ていた。
付き合えるとか付き合えないとか関係なく、好意を持ってくれていることが嬉しいと感じたからだ。
これが恋かどうかなんてわからないけど、嬉しい気持ちは伝えないといけないとエルは思った。
そんなエルの言葉に更にアルは苦しそうな表情をしたかと思うと、エルをぎゅうっと抱きしめた。
「・・だけど・・最近それだけじゃないんだ・・アリエルがエルに見えてしまうんだ・・。話すのは夕食の時位なのに、まるでエルと話しているように感じてしまうんだ。気が緩んだらエルを抱きしめるように、アリエルのことも抱きしめそうになってしまうんだ・・自分がどうしてしまったのか・・このまま共に過ごしたらいつか白い結婚を自分から破ってしまいそうで・・エル・・助けて・・私は彼女を傷つけたくない。」
「それは・・俺とアリエルに同じような感情を抱いているということか?」
エルの問いかけにアルは少し自信なさげに頷いた。
なんとゆう事だろう。
結婚してからまだ半年もたっていない夫婦生活の中で、アルはエルとアリエルが同一人物だと無意識に感じているのかもしれない。
正直エルとして告白を受け取るつもりはないのだが、アリエルとして彼と本当の夫婦になるというのも躊躇われる。
当初アルとは、白い結婚前提で契りを交わしたのだ。破ったら罰するという話は一切してはいないから、本当の夫婦になってダメなわけではない。
しかし・・・本当の夫婦になってしまったら、エルとしての仕事に支障をきたすのではないか?自分が実は兄ノエルの身代わりとなり、帝国の義務を代わりに行っているという事をバラシてよいものか?討伐隊を続けるためには、アリエルとしてアルと深く付き合うのは危険なのではないか。
頭の中は自分とアルの今後を考えた際の、ありとあらゆる障害を思い描きアルの行為を受け取るべきなのか考えを巡らせた。
「アル。この話は先に一つだけ返事をさせてほしい。お前のキモチはすごく嬉しいよ。俺も一緒にいて居心地がいいし、安心する。だけど、正直恋愛以上の感覚は俺にはわからないんだ。それに、俺は不貞をするつもりはない。だからこれまでと同じようには接するが、恋人にはなれない。」
なるべくアルを傷付けないように言葉を一つ一つ丁寧に伝えた。”エル”としてはどう考えても恋愛に結び付けるわけにはいかない。これが世間に知れ渡れば、アルは不貞をした不義理な夫となってしまう。妻として友としてそれは絶対に認めるわけにはいかないと思ったのだ。
「エル・・。ごめん。俺もわかっている。すまない。でもこれからも友でいてほしい。エルがいないなんて考えられないんだ。」
「当たり前だろ。俺にとってもアルはかけがえのない友達だ。」
友情を確認し合いながら抱擁し合うのはよいのだろうか・・と脳裏にはよぎったが、これまで通りならこの程度は良しとしておきたい。エルはそう受け止めた。
頭を使いすぎたからだろうか。抱きしめ合う温もりが温かくて瞼が重くなり、エルはいつの間にか意識を手放していたのだった。
***
翌日以降、アルもエルも今までと変わらずに戦闘に集中した。討伐中は余計な考えを巡らせている場合ではない。エルの判断ミスによってはアルや他の仲間を危険に晒すことになる。
エルの風邪魔法は範囲攻撃も近接攻撃も優秀だ。比較的離れた敵に対しても、致命傷を負わせることのできる鋭い風の刃を繰り出すことができる。この殺傷能力は討伐部隊一だと自負している。瞬時に現れた敵に対しても、自分の目で確認できる敵であれば一撃で仕留めることも状況によっては可能な程なのだ。エルが集中して敵を仕留めなければ、他の隊員が動かなければならなくなる。自分の攻撃魔法は魔力消耗が少なく負担もほとんどないので、イーシスの森までは隊員たちの体力を無駄に消耗させたくなかったのだ。
アルもそのことを理解しているからこそ連携を崩したりしない。夜は今まで通り抱き枕代わりにはされてはいるが、これまで以上でもそれ以下でもない。
しかし、アリエルのことに関してはそうはいかない。今すぐにはどうこう答えは出せないが、アルと共に夫婦であり続ける以上、向き合わなければならない。「この討伐が終わったらまずはエルとアルでもう一度しっかりと話をしよう。」その想いだけは決意した。
「エーーールーーー!やっぱお前すっげーなー!ここまでくるのに誰も負傷してないしほとんど戦わずにこれたぜ!」
軽口を叩くジークも同じ赤チームで、今はイーシスの森の入り口で作戦のための準備をしている最中だ。
イーシスの森に到着するまで共に戦闘はしてきたのだが、ほぼエルとアルが倒してしまったのでジークたちは無傷なだけでなく、体力が有り余っているようだった。
「その元気さならこっからの作戦も問題なさそうだな!」
「あったり前だ!ここまで来て遠足気分のままじゃ帰れるわけないからな!」
はははっと笑いながらジークはグイっとエルの肩に自身の右腕を回し寄り掛かった。ジークのことは良き戦友とは思ってはいるが、アルのスキンシップとは違って、ぞわぞわと背中に虫が這うような感覚が押し寄せ、思わず突き飛ばしたい衝動にかられた。
「ジーク!もうすぐ作戦開始だ!無駄口をたたかずにしっかり準備しておけ!」
エルが無意識に自身の身体に身体強化を付与し突き飛ばそうとした瞬間、後ろから想い冷気を感じ体がぶるりと震える。そして凍えそうな冷たく鋭い刃のような言葉がジークに突き刺さった。
「はっ!!か・・確認してまいります!!」
即座に空気を読んだジークは素早く踵を返して自分の装備を確認するために去っていった。
「エル。余計なことをしたか?」
「いぃや?アルが声かけなかったら、俺はジークを身体強化で吹っ飛ばしていたとこだったぜ!ジークは助かったな!」
アルの気遣うような眼差しに、エルは大きい口を開けて笑いながら答えたのだった。
「さて。いよいよ作戦開始だな。」
「あぁ。とっとと終わらせよう。」
二人はフッと微笑みあうと集合場所へ歩みを進めたのだった。