1...心の変化
「アリエル・スワント伯爵令嬢。想い人がいるから愛せないが、結婚してほしい。」
「・・どういう事でしょうか?」
「君は大切な友人の妹君だし、家族として大切にする。侯爵家でも自由に過ごして構わない。ただ想い人に操を立てたい。白い結婚でいたいのだ。」
呆然と見つめるアリエルに対し、向かいに座った男は顔合わせの席で唐突に自分の想いを吐き出した。
(そんな話俺は聞いてないけど???)
アリエルは心の中で疑問を思わず叫んでしまったのだった。
***
「ぶふふ・・・ふふっ・・ご・・ごめんなさい・・ふふふ」
「・・・・・」
向かいに座り、優雅に紅茶を啜っていた学園時代からの友人エリーザ・レキアラント侯爵令嬢は、紅茶を吹き出しはしなかったものの、アリエルの昨日の顔合わせでのロゼアルとの件を聞き、堪えきれず不躾に声を出して笑っている。アリエルはエリーザを無言で睨みつける。
「ごめんなさいアリエル。怒らないでちょうだい。これが笑えずにいられるかしら?貴方たちの噂は、今社交界で最大級の恋愛ロマンスとして話題を掻っ攫っているというのに・・ぷふふっ・・・まさか想い人がいるから、愛さないけど結婚してほしいとか意味不明な求婚されるなんて・・あはは・・」
「エリーザ・・・相談に乗るつもりあるのかしら?」
笑い続けるエリーザをじとっと見つめるが、正直自分自身も、他人事なら私も笑っていたかもしれない。
社交界一の色男ともてはやされ、侯爵という高い爵位と、稀代の魔法剣士としての実力も加わり、理想の結婚相手と言われていている男。今まで一度も浮名を流したことのなかった若き侯爵、ロゼアル・スファルティス(27)はハニーブロンドの耳にかかる長めの前髪、襟足は少し長めで瞳は美しいエメラルドのようなグリーン。鼻筋はすっと通っており、唇は薄く、見目麗しい。
彼に微笑まれようものなら、老弱男女問わず彼に惚れてしまうだろうとさえ賞賛されている。そのことを本人も自覚しているようで彼は滅多に笑うことはないのだけれど・・
なかなか結婚しないロゼアルに、皇帝陛下までお節介を焼いて次々と結婚相手を勧めた。しかし彼は迷いなく断り続け、もしや男色なのでは?と噂までたち始めていたらしい。
しかし1か月前、突然彼は結婚相手としてスワント伯爵令嬢を求めた。その令嬢こそが私、アリエル・スワント(24)だったのだ。
レイガダル帝国では、女性の結婚適齢期は22歳までと言われている。どう考えても嫁ぎ遅れた私を、何故彼が求めたのか?様々な憶測や噂でゴシップ記事や社交界は賑わい、面白おかしく連日騒ぎ立てられている。
自分でも何故見染められたのか、本人から聞くまで不思議で仕方なかった。それがまさか、【想い人】がいる為、他の女性と結婚したくないからという理由だったとは思いもしなかった。しかも、討伐遠征中にエルがアルに軽い世間話程度で話した「俺の妹は、恋愛に興味がなくて、自由気ままにすごしたいらしいから縁談がなかなかこないんだ。良い相手がいたら紹介してくれよ!」と言ったエルの冗談を、まさか真に受けるとは思いもしなかった。「それなら私が自由気ままな生活を結婚して保障してあげれば最善だろう。恋愛に興味ないのであれば私も助かる。」と、勝手に判断して、エルに相談もなしに求婚状を伯爵家に送り付けてしまったのだ。
「エルと侯爵様の仲の良さは皆知っているものね!信頼故なのでしょうけど・・侯爵様ってかなり思い込みが激しい方なのかしら。」
クスクスとまだ笑いを止められないエリーザは紅茶を啜りつつ話を楽しんでいる。
「まぁ・・アルは思い立ったらすぐ行動しちゃう行動力はあるけど・・まさか結婚っていう人生の大事な選択を、私の言葉で決めるなんて思いもしなかったね。」
はぁ。とため息をつくしかない。
「アリエルは学園時代は文武両道で、在学当時はかなりファンも多かったじゃない?きっとロマンスだって侯爵様との間に生まれるわよ!」
「・・・ファンって言っても女の子のファンだけど?」
「・・・まぁ・・他の男たちよりアリエルのほうが格好良かったもの・・ね。」
女の子に微笑みを向けられるのは気分は良いが、恋愛とは全くの別物と考えていたアリエルにとってはそのことは喜ばしいと言えるものではなかった。
アリエルは13~16歳の間魔法を学ぶことのできる学園に通っていた。その当時身長は他の女子生徒より高めで、運動や訓練の際には長髪を一つに束ねていた。男子生徒と並ぶと、身長は170㎝手前で成長が止まってくれたので周りの男子生徒より小柄ではあったものの、立ち振る舞いや中性的な容姿のおかげ?でそこら辺の男子生徒よりも、自分の方が容姿が良いことは自覚していた。
その為女子生徒たちにはお菓子の差し入れや花をもらったり、ファンクラブまでありかなりモテていたのは事実。しかし、そのことで男子生徒にはかなり煙たがられていたのも事実だった。
自分より優秀な女は嫌煙したくなるのか、求婚してきたのはロゼアルが初めてだったのだ。
「アリエルが、お兄様であるノエル様の代わりに討伐に参加しないとならなくなるなんてことがなければ、ここまで縁談が来なくなることもなかったんでしょうけどねえ。」
エリーザは我が家の事情を知る唯一の友人なので、私に縁談がこない理由もしっかり把握していた。
スワント伯爵家は、由緒正しい風魔法使い輩出の家紋として、皇宮から討伐参加の義務を課せられている。しかし、父は魔力が少なく名ばかりの伯爵であった為、子供たちが期待され、父は商売で生計を立てて軍事費を寄付することで討伐の義務をなんとか免れてきた。期待されていた双子の兄ノエルは、幼少期虚弱体質で魔法の才も乏しかった為、父はどうするべきか悩みに悩んだ。
学園で武術にも優れた成績を修めていたアリエルは、家族の助けになるために密かに師を見つけて鍛錬を続け、学園を卒業するころには一人前の風魔法剣士として十分の素質と、能力を証明できるまでになっていた。
家族は男としても生きようとするアリエルを心配し反対したが、帝国の義務を回避する算段が立たなかったため、アリエルがノエルの代わりに討伐隊に加わることになったのだ。
当初はバレるのではないかとヒヤヒヤしたが、兄は幼い頃から病弱で屋敷にこもり外に出ることが叶わなかった為、ノエルの顔を知っているのは家族、主治医と屋敷の使用人のみとなっている。
屋敷の使用人たちには誓約魔法を用いて秘匿としている為、口外することはあり得ない。社交界にも出てはいない。ノエルは父の商談を屋敷の中から采配を振るい、今は家にこもっているにも拘わらず、父の商会はどんどん大きく成長させている。
アリエルは伯爵令嬢として16でデビュタントを行い、今でも最低限度の夜会やお茶会にのみ参加している。自由奔放な我儘娘とあえて嫌煙される噂を流し、周りの関心を避け続けた。エルになる時には、魔導具の指輪を使用している。【幻影効果】でダークブロンドのロングヘアーは兄と同じ明るいアッシュグレーに。【幻聴効果】で声は低く男性のように変化させている。また、隠すことも困難だった人並みに育った胸も商会の伝手により、ノエルが胸を隠すプロテクターを用意してくれた。おかげで討伐隊に参加してから今までの7年もの間バレることなく、周りからは狂暴な子猿扱いでエルは戦闘に参加できている。
「まぁ男装しているときのアリエルの麗人らしさは今も健在だし、男色にもモテそうよね!ふふふ」
エリーゼはとんでもないことをさらりと言い放つ。
「ちょっと・・男色にモテるとか・・全く嬉しくないけど?私は自由奔放な野生児で狂暴な子猿扱いだから、討伐の仲間と仲は良いけど、恋愛どうこうはあり得ないよ。」
「わからないわよー?スファルティス侯爵様もアリエルに求婚する前は、討伐隊の中に男色の恋人がいるって噂も多く聞いたんだから!もしかしたら侯爵様の想い人って・・エルかもよ?ふふふ」
「ちょっと・・私をネタに楽しまないでくれない?」
苦笑いしつつも空気を悪くしない程度にエリーゼを睨み続ける。アリエルは溜息を吐かずにはいられなかったのだった。
エルは、ロゼアルとは元々は同じ第二部隊ではなく、当時は第三部隊に所属していた。討伐に参加して1年が過ぎたころ、戦闘中に加勢に来たロゼアル率いる第二部隊と共闘した事があった。誰よりも強く火と水の魔法を自由自在に繰り出す剣さばき、的確な指示を飛ばし率先して戦闘に加わる彼の姿に、魔法剣士として憧れの感情が芽生えないわけがなかった。2属性魔法を扱う魔法剣士は彼以外にはおらず、帝国では稀代の魔法剣士と賞賛されているのも納得できる。
共闘した私と彼の相性は良かったらしく、自分の腕前を存分にアピールする結果となった。ロゼアルはそのことがきっかけでエルを第二部隊に引き抜きたいと誘ってくれた。【アル】【エル】と呼び合う程には信頼できる関係を築けるようにもなった。
5年以上の付き合いになるが、彼とは背中を預けられるほどの信頼を寄せている。アルとエルの仲の良さは周知の事実で、彼は私の前ではよく微笑む。だから、常に注目を集め続けるのに浮名を流さないアルが、エルと恋仲などという可笑しな噂を世間はでっちあげたくもなるのだろう。
「エルの妹だから結婚したいだなんて・・かなりの信頼よね!・・ふふ・・バレたら面白いことになりそうだと思わない?・・ぷふふっ」
「エリーザ!怖い事言わないでよ。確かにアルは私を信頼してくれている。エルの妹の為に今回求婚してくれたのも納得はできた。今後も討伐参加しやすいとも思う。だからバレずに一緒にいるなら白い結婚はアリなのかな・・・とは・・・思うよ。思うんだけど・・ねぇ。」
揶揄い続けるエリーザに対し不貞腐れつつも次第に口ごもる。恋をしたことはないし、今はしたいとも思ってはいない。エル(男)としては安泰な人生を送れそうな期待感はある。しかし、アリエル(女)として生まれたのに、女として愛されない人生を送る事になる現実を、どう消化して飲み込めばよいのか戸惑ってしまう自分がいるのだった。
「私にできることなら助けてあげるし、どうせ断る気はないんでしょ?なるようにしかならないんじゃない?」
「・・うん。うちは伯爵家だから侯爵家からの求婚を断ることは基本できないしね・・。討伐に行くときは、カモフラージュのお泊り先としてエリーゼを使わせてね?」
「任せてちょうだい♪折角帝国最高の色男と結婚できるんだし、雰囲気だけでも楽しめばいいのよ!歳の離れすぎた相手とか、体格が好めない相手と結婚するよりずっとマシでしょ!」
「そうね!私の年齢と、でっちあげた噂の事を考えたら今後良縁は難しいだろうし、妥協して前向きに楽しむよ!」
ふふふ。と二人はにこやかに笑い合い、先ほどまでの悲劇を喜劇としてティータイムを引き続き楽しむのだった。
***
「それでは私は魔獣討伐で3週間は戻れないので、その間も君の好きなように過ごしてほしい。」
顔合わせのあと、3か月という速さであっとゆうまに婚約から結婚まで済ませてしまった。
婚約式は書面のみ。結婚式はノエルは間違いなく参加できないので、怪しまれないように家族は参列せず、当人たちと、屋敷のもののみで簡素に行われた。
当たり前のように初夜は共に過ごさず、それぞれ別々の部屋で今も眠り、夕食の時間はなるべく共に過ごし会話をしている。その為家族としての関係ならば良好と言えるのではないかと思う。・・話す内容はエルのことばかりではあるが・・。
アルはエルとの討伐での出来事を話したり、普段のエルが何をして過ごしているのかを熱心に聞いてくるので話が途切れることはない。エルとしてはむず痒くも嬉しいのだが、妻としては複雑な心境であった。--自分のことは全くと言っていいほど聞かれないのだから。
「ー承知しました。お気をつけていってらっしゃいませ。無事のご帰還をお待ちしております!」
ふと結婚してからのあれこれを思い出しつつも、アリエルは微笑んで見送りの言葉を告げた。アルは愛想はそこまで良いとは思えないが、極稀に微笑み返してくれることはあるし、いつも配慮してくれているであろうこともよくわかる。
アルが出立すると、アリエルも「夫が不在で寂しいから、3週間程エリーザの所へ泊りに行くわね。」と執事に告げると、何も咎められることなく送り出されたのだった。
***
アリエルは馬車で一度スワント伯爵家に戻ったフリをして帝都のスファルティス侯爵邸を出ると、御者にチップを多く渡して帝都ファルムスの繁華街で降り、エルの名前で借りている花屋の二階の部屋で第二討伐部隊の制服に着替えると、厩へ向かいエルの名前で預けていた愛馬に跨り、第二部隊支部の集合場所へ馬を走らせたのだった。
第二部隊の待機場所にはすでに同じ部隊の仲間たちが集まっている。
「エルー!おせーぞー!」
「悪い!寝坊した!」
軽々しい声音でエルを呼んだ男はジーク。平民出身で魔法剣の腕はそこそこなのだが、剣のスキルは優れており、機転も利く為ロゼアルの信頼を得た一人なのだ。エルとも同じ部隊で特に仲良く接しており、共に行動することも多い。
エルとしての私は、あえて不真面目を装い、寝坊常習犯でちょっといい加減な人間に見せている。しかし魔法剣士としての腕は、第二討伐部隊の中ではロゼアルの次と皆に認められていることと、周りへのさりげない配慮は気にしている為、苦言は多いものの、険悪にはならず関係も良好だ。急に討伐依頼が来たり、召集をかけられるとどうしても出足が他の隊員より遅くなってしまうので、迷惑をかけ申しわけないとは思いつつも、あえて軽口を叩き生意気なキャラを演じ耐え忍んでいた。
「第二部隊集合しろ!任務の説明をする。」
第二部隊副隊長のルシード・テンドネスが声を張り上げて隊員を招集した。
「今回は帝都ファルムスの西のエイド山脈の麓の、イーシスの森に中級以上の魔獣が出たと報告を受けている。討伐事態は10日前後で終わらせる予定。ここ第二部隊の支部より出発し、おおよそ4日でつく予定ではあるが、その途中にも魔獣が出る可能性も十分考えられる。その為余裕をもって今回は、3週間の討伐遠征とする。今回の討伐参加者は48名。6名で1チームとして、8チームに振り分けている。各リーダーはすでに決めてある。配布している第二部隊の通信用の腕輪の点灯する色で振り分けているから自分の色のリーダーの元にこれから移動するように!
赤、リーダー兼体調スファルティス侯爵
青、リーダー兼副隊長テンドネス
黄、リーダーサンダス
緑、リーダーイクリッド
紫、リーダーノストリア
白、リーダーデイデイ
橙、リーダーランディス
黒、リーダージルコット
以上!移動しろ!」
エルは腕輪を確認すると、やはり赤く点灯している。今回もアルと同じチームのようだ。
赤・青・黄・緑・紫は前衛部隊。白・橙・黒は後方支援部隊となったらしい。
前衛は魔法剣スキルや討伐スキルの高い精鋭で組み分けられ、後方支援は野営の際の準備や食事、医療チームなどのサポート全般となっている。後方からの攻撃もできる者はいるが、基本はサポートメインなのだ。
イーシスの森に向かう途中、ルシードの懸念した通り魔獣との遭遇は頻繁だった。しかしほぼアルの赤チームが撃退していくため、予定が崩れることは一切なかった。
イーシスの森までに通過する町や村は少なく、ほぼ野営テントを張っての野宿だった。戦うのは赤チームがメインなので、エルも戦いと緊張感はずっと続いている。
チームの休息も重要な為、2日目の夜はアルが赤チームの睡眠時間を確保してくれた。基本チームの隊員は6人同じテントで寝るのだが、アルやルシードは別にテントを張っている。エルは皆と同じテントに入ろうとするのだが・・いつもアルに止められて彼と同じテントに連れていかれるのだ。
アルのテントは一人用であっても、皆のテントと同じ大きさの為ゆったり過ごすことができ、布団も大きい。野宿で安眠には最高の環境だから反対はしないのだが、正直彼との距離感にはいつもと惑わされる。
「・・・アル。もう少し離れてほしいんだけど?」
苦言を呈する声に動揺することなく、アルは横になったエルを後ろから抱きしめて離さない。流石に二人だけなので狭くはないが、男同士でこの寝方はどうかと思う。
「いつもの事だろ。私は抱き枕がないと安眠できないんだ。貴重な睡眠時間なんだからこれくらい我慢してくれ。」
この調子である。
あっさりと自分の安眠の為だと主張し、毎度のことながらエルを離す気はさらさらないようだ。
「なぁ。じゃあもう寝るのか?久々に俺はアルと話したかったんだけどな。」
ぴくっとアルの方が微動したのをエルは感じ取った。
「そっかー。しょうがないよな。次の討伐までまたどの位会えるかわかんねーけど、寝るほうがいいもんな!それじゃおやす・・っうわっ!!」
就寝の挨拶をしている最中にエルの体はぐるんっとアルによって向きを変えさせられた。
「少しだけなら・・話したってかまわないんじゃないか?」
アルはエルの瞳を覗き込みながら伺うように見つめてきた。
(何この犬みたいな人懐っこいかわいい生き物!!)
普段はほとんど顔色を変えることなく淡々と指示を飛ばし、上官らしい立ち振舞いのアルが、今は飼い主に甘えたくて、許しを乞うているような少し潤んだ瞳で見つめてくるのだ。こんな表情や態度を知っているのはきっと自分だけなのだろう。人の感情に鈍いエルでも流石にわかる。
「なんだよ。寝るんじゃなかったのか?」
「エルとは滅多に会えないじゃないか。義兄になったんだから侯爵邸に遊びに来たっていいのになんで来てくれないんだ?」
さっきまで寝ると言っていたのは嘘かのように、ペラペラとアルは話始める。
「俺が結構忙しいの知っているだろ?アルだって侯爵の仕事だってあるし暇なんてねーんじゃねーの?」
自分のことはさらっと伝えてはぐらかし、アルの忙しさのせいにして胡麻化す。
「私はエルは来てくれるなら必ず時間を作る!きっとアリエルもエルに会いたいと思うぞ?」
(私はエルに会いたい何て一言も言ってないけど???)
アルは妹を出汁にしてエルを侯爵邸に誘おうと必死なようなそぶりを見せる。
「なんだよ・・俺たちは今まで討伐の時しか会ってなかったのに、プライべートでまで会わなくてもいーんじゃねーか?」
「いやだ。アリエルはエルにとても良く似ている。毎日顔を合わせていると、エルのことを思い出して会いたくなるんだ。頼むからたまには屋敷に遊びに来てくれ・・。」
軽い世間話でもしようと思っていたのに、アルはいつもは見せない憂いを帯びた瞳で、まるで想い悩む乙女のようだ。
(え?どういうこと???)
今まで抱きつかれることも一度や二度じゃなかったし、抱き枕にされることも討伐中の恒例のようになっていたのだが、アルのこんな様子は今まで一度もなかった。
「アル・・何か悩みでもあるのか?俺で良いなら話はきくぞ?」
様子のおかしい友を本気で心配し、勝手な憶測ではなく、何を思い悩んでいるのか聞いてあげたいと思った。
「エル・・俺はおかしいんだ。今までこんな苦しい想いをしたことがない。アリエルと一緒に過ごしていると、まるでエルと一緒に過ごしているように感じるんだ。
胸が苦しくなって・・こんなこと・・自分から言い出したことなのに・・俺は・・」
苦しそうに一言一言を吐き出すアルが、本当に思い悩んでいるのだと伝わってくる。しかし、何故アリエルがエルと似ているからといって、苦しくなるのかがわからない。アルの真意がエルにはどうしても掴めない。
「アル。俺はお前の友だ。背中を預けられる位信頼している。お前だってそうだろ?」
「あぁ。勿論私だってエルになら背中を任せられる。」
安心させたくて自分の想いを素直にアルに伝えると、アルも苦しそうにしながらも微笑みながら同意を返してくれる。
「俺は妹のこともアルのことも大切だから見捨てない。悩みがあるなら話してみろよ。」
「・・・・・」
エルの言葉にまたアルは口を引き結び俯くが、少しの沈黙のあとアルは口を開いた。
「エル・・ごめん。・・・俺は・・・」