俺の主
「そう言えば俺の主が顔を見せん」
「青いアレか?」
「俺の主をアレ呼ばわりするな。しかし、赤いアレは一向に顔を見せんな」
「俺の主をアレ呼ばわりすんじゃねーよ。俺の主は、俺を騎竜とする為に三日三晩掛けて俺と戦った凄い奴なんだぞ」
「俺の主とて、俺を騎竜とする為に三日三晩掛けて戦い続けた凄ぇ奴さ。赤いアレと一緒にすんなっつの」
「だから、アレ呼ばわりすんじゃねぇっての。凄ぇって言ったら俺の主だろ。青いアレなんざ足元にも及ばねって。何せ、青いアレの兄ってヤツだからな! 兄だから! 兄! 偉いから、兄!」
「お前馬鹿だろ、アホだろ。アレ呼ばわりすんなって何回言えば分かるんだ? 兄が偉ぇってのは認めるが、凄いかどうかはまた別だろうが、ボケ」
剣呑な眼差しで睨み合う赤と青の騎竜は、熱い鼻息を長々と吐き出し荒ぶる気を静める。
「しかし俺の主が姿を見せんのはおかしい」
「どう、おかしいんだ」
「俺の主は三日三晩戦い合った俺を認め、敬意を払い一日一度は顔を見せて挨拶にくる。それが今日は無いからおかしい」
「そういえば、俺の主の気配もないなぁ」
赤と青の騎竜は宙に鼻先を向けて己が主の気配を探り暫し無言となるが、突如騎竜達は息を呑んで叫ぶ。
「俺の嫁の気配も無い!」
「俺の嫁の気配が無ぇ!」
「「俺の嫁だっつの!!」」
相手の叫びに透かさず突っ込みをいれ睨み合う。
「「…………」」
「「てめぇの主の気配を探してたんじゃねぇのかよ!!」」
「「…………」」
「よもや……」
「……まさか」
「「主が俺の嫁攫ったんかっ!!」」
「「だから、俺の嫁だっつの!!」」
「こうしちゃおられん!」
「何でこっから出られんのだ!」
息の合った動きで互いに睨んでは宙を見つめ、再び互いを睨んで同時に咆哮したかと思えば足踏みする動きまで同じという騎竜達を冷めた眼差しで見つめる厩舎勤めの魔族達。
激しく羽ばたき地団駄している様子から、どうやら外へ出たがっていると伺えるが、昨日からの余りの騒がしさに柵へ結界の術を組み込んである為外へ出られないでいる。
『こいつ等喰っても良いよな』
厩舎勤めの魔族一同が、生暖かい笑みを一斉に浮かべた瞬間である。




