日常なお礼 ■ 10
拍手御礼のお話です。
たまにパラレってますが、気にしてはいけない。
たまに本編と時系列がずれているが、気にしてはいけない。
魔王殿にある、所謂『魔王様の庭』は魔王様の私物である訳だが、魔王様以外の者が立入ってはいけないという決まりは無い。
庭の端を近道として利用する者もいれば、仕事の息抜きに立ち寄る者も多くは無いが少なからず居る。
しかし、時季によって美しさが際立つ場所はやはり魔王様が立ち寄る機会も多い為か、その様な場所へやってくる者はまず居ないというのが現状ではあるが一部例外もある。
顕著な例外が今私の目の前にいる輩達だ。
魔王様が即位されて以降、体の汚れを綺麗に洗い落とされてから見れる容姿を露とし、食事の改善により悪臭から芳しい香りを見に纏うようになった輩達である。
魔王様曰く『造園のセンス』があるとかで、魔王様の直属として庭の管理を一任されているのだが、こやつ等はその有り難味を一向に理解していない節がある。
下位の中でも下位であるこやつ等は、魔王様から直接指示を頂いているという有り難さが理解出来ない程に下位なのである。
確かに、こやつ等に一任してからというもの、魔王様の庭は格段に美しさを増した事は認めよう。
庭の管理を一任されているのだから庭のあちらこちらを徘徊しているのは良しとしてもだ。
魔王様が散策を楽しまれている間は控えている心得くらいは持つべきであろうが、こやつ等は構わず土を掘り返しては貪り吐き出している。
魔王様の目の前でだ!
全く以って怪しからん連中である。
今度見かけた際にはきつく仕置き……では無く、言い聞かせておく必要がある。
後々に注意をした所で意味を理解出来ない連中だから、その場で注意をする必要があるのだが、注意が必要な時には大抵魔王様もいらっしゃる為、その場で仕置き……では無く、注意をしようものなら魔王様が温情を見せられるからだ。
いかに魔王様から口添えさせる隙を与えずに、仕置き……では無く、注意をするかは要検討だと思いつつ、足元で私に尻を突き出しているこやつ等を見て目を眇める。
背の高い植え込みに顔を突っ込んでいる為、背後にいる私へ尻を突き出しているのは仕方が無いとしてもだ、いつまでも私に気付かず尻を向けているとは何事であるか。
忌々しさの余りに、一人の尻を蹴飛ばしてやる。
「痛っ! 何するだっ! 順番待っ…………」
毟り取りたくなるような柔らかな焦げ茶の髪を揺らし、文句と共に振り返った輩がその薄緑色の目を見開いて固まる。
「何の順番だ」
この私が直々に問い質してやっているのにも拘らず、尚も固まったまま私を凝視している輩に自然と目を眇めていく。
「ひっ!」
しかも第一声が「ひ」とは何だ。
私が問い質しているのだから、速やかに答えるべきであろう。
一度、正しく躾をする必要がある。
「何だべ、五月蝿いべ。娘っこが起き……」
私が蹴飛ばしたヤツの隣で植え込みに顔を突っ込んでいた輩が振り返り、文句の言葉を徐に切るとぎこちない仕草で顔を上げていき私と目があった途端瞠目をする。
「ひっ!」
やはり、正しく躾をする必要がある。
「と、鳥の長だべっ! 逃げるだべっ! 突付かれるだべっ!」
最初に尻を蹴飛ばした輩が叫ぶと同時に、それまで植え込みに顔を突っ込んでいた連中が、それこそ蜘蛛の子を散らすが如く逃げ去っていった。
下位の癖に、その素早さはなかなか見所はあった。
近い内に魔王様のお許しを頂き、やつ等を特訓してやろう。
特訓であれば魔王様も否とは言えまい。
予定を立てた満足感に一人頷き口端が緩む。
しかし、やつ等はこんな場所に顔を突っ込み何をしていたのかと片膝を付き、植え込みに出来た穴を覗いて見れば魔王様がお休みされている所であった。
丁度こちらに足を向けている為その表情は伺えなかったが、膝を立てて寝入っており『スカート』なる物の裾がかなり捲れ上がっている。
足の付け根には赤い小さな布が見えた。
是が非でもやつ等を『特訓』してやる必要があると決意を固める。
しかし私個人としては寧ろ無い方が好ましいと思うのだが、強いて必要と言うのであれば、魔王様には『黒』が似合うような気がする。
だが唯の布切れでは面白みに欠けるので、手の込んだ装飾が欲しい所だ。
複雑に編まれた紐を束ねたもの……いや、玉を連ねたものも捨てがたい。
或いは極端に面積を少なくした透かし模様の布地もなかなか乙である。
「………………」
近々サナレアイと話し合う必要性を強く感じ、新たな予定を胸の内で立てつつ寝入っている魔王様の傍らへと術にて移動した。
成熟してしまえば特に眠りを必要としなくなる魔族ではあるが、未だ成長過程である魔王様は元々体も小さい為に、一定の体力を消費しても寝入ってしまうのではあるが、体を成長させる為に眠りが必要である。
今こうして寝入っているのも成長に必要な眠りの為なのであろう。
そうなると余程の事が無い限り目覚める事は無い。
改めて穏やかな表情で寝入っている魔王様を見下ろし、外敵の侵入が無いとは言え両腕を緩く上げている様子は余りにも無防備が過ぎるように思える。
例え魔王殿内とは言え、不埒者が通り掛らないとは言えなくもない。
現にあの下位の輩達が忌々しくも覗いていた事であり、魔王様には注意をすべき必要がある。
細い手首を柔らかく押さえ込みながら余る片手は腰へと添え、顔を下ろすと耳元へと唇を寄せた。
白でも褐色でも無い黄色味掛かった肌を味わえば、もしかしたら甘いのではないのかという気にさせられる。
「魔王様」
僅かに耳朶へ触れて囁くと、唇が擽ったくもありもどかしくもある。
魔王様も擽ったく思ったのか、未だ寝入ったまま首を竦める仕草を見せるも、更に顔を埋めてやんわりと耳殻を食むと顔を背けようとするので腰から頬へと手を移しそれ以上背けないように添えてしまう。
「魔王様。この様な所でお休みされるのは感心致しません」
「っ……ぅ……ぅ……?」
眉を潜めて唸り、捩ろうとする体を体重でもって押さえ込みながら、尚耳元へ唇を押し付けて囁き注意をする。
これも魔王様には危機感を持って頂く為の苦言である。
「お休みされるのでしたら、ご寝所に戻られてお休み下さい」
「ぅ……わ……分かったから……耳、退いて……」
寝言とも思える小さな声が呟いてくるが、魔王様は些か甘い考えをお持ちでらっしゃるので、多少はしつこく苦言を呈しておくべきである。
「これからはちゃんとご寝所でお休み頂けますか」
体を捩ってはか弱い力で私を押し遣ろうとし、眉間の皺を深くして頤を反らそうとする姿を見て思わず口端が緩んでくるが、魔王様の為にも気を引き締めて苦言を呈さなければならない。
「お約束して下さいますか」
「っ……す……する、からっ……も、退いてっ」
魔王様の泣きそうな声に、つい欲が出てきてしまったのは仕方の無い事である。
何せ、魔王様は寝入ったまま器用に興奮もされているようで、調整できずに内に留めていた魔力が艶を増して溢れだし忙しなく辺りに渦巻いているのだ。
溢れる魔王様の魔力に中てられない魔族等いるはずが無い。
「今夜、閨を共にしても宜しいか?」
胸を頻りに喘がせながら魔王様が頷いた事をしっかりと確認し、私は感謝と歓喜の気持ちを魔王様にお伝えすべく熱く語り続けたのである。
その日の夜。
ベッドの天蓋を眉間に皺を寄せて見つめていた依子が意を決して口を開く。
「ねぇ、本当に 「お約束を頂きました」 」
「…………」
「でもさ 「されました」 」
「…………」
「あ 「仰られました」 」
が、悉く隣で横たわっているサナリに遮られ、全てを言う事も出来ないでいる。
「それとも私が嘘を付いていると思ってらっしゃるのか」
「いや。それは無いと分かっているんだけど……」
半身を起こし覗き込んでくるサナリに依子は言い淀みながら、後ろめたそうに眼差しを揺らす。
詐欺の手口のように騙す事は多々あったりもするのだが、不思議な事にしてもいない約束をしたといった嘘は決して付かない大公達であり、その辺りは依子も無条件で信じている。
しかし、自分がそういう約束を口にするとも思えない依子は、どうにも腑に落ちないだけなのである。
大体、寝入っている時に無理矢理言わせた言葉を『約束』と見做せるかどうかも甚だ疑問ではあるのだが、方向性を見誤っている一辺倒に真面目なサナリが相手な為、強く反論も出来ない依子であった。
「目を合わすのを厭う程私がお嫌いですか。閨を共にするだけもお厭ですか」
そう言ってサナリにジッと見下ろされると、途端に狼狽えだす依子である。
「そ、そうじゃなくてっ! 嫌とか言ってないじゃん。嫌じゃないけどっ……と言うか! その捨てられた子犬とか子猫みたいな目で見ないでっ!」
耐え切れないとばかりに両腕を突き出し、覗き込んでいたサナリの顔面を押しやる。
「私は、獣ではなく鳥族ですが。大鷲でございます」
「そんな事は知ってるよっ! 例えだってば、例えっ! もう良いよ。一緒に寝る約束したんだから、ちゃんと寝ます」
半ば諦めたような溜息混じりにぼやいた依子は、暫くもぞもぞと身じろいでいたもののやがては寝心地の良い位置に納まり程無く眠りにつく。
そんな依子の眠りを妨げないように、緩く抱き込んだサナリも満たされる気分を楽しみながらその夜を過ごしたのであった。
そして、本日の宿直番であるサナレアイが控えの間から覗き見て拳をグッと握っていたとか、同じく当番であったリリアーレが悔しさに布を噛んでいたとかは別のお話。
今度は縞p(ry