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魔王様付侍女の記録 ■ 01

淫魔族ステアーナ侯爵家リリアーレの章

 魔界にも四季がございます。

 今、魔界は夏真っ盛りであり、耐暑せず外に突っ立っていれば、魔力の無い人間ならば五分でミイラが出来上がる程の暑さでございます。

 申し送れましたが、ワタクシ、魔王様付きの侍女を勤めさせて頂いております、淫魔族ステアーナ侯爵家、リリアーレと申します。

 以後、お見知りおき下さいませ。

 ここ魔王殿では、上位と呼ばれる爵位を持つ魔族しか入る事が許されません。

 侯爵である父は勿論、爵位こそはまだ頂戴してはおりませんが、ワタクシも上位に属する魔族でございます。

 また、同僚であります魔王様付きの侍女、犬族オーボール侯爵家クレアティヌ、蛇族カナワシル侯爵家シアンゼーカ、鷹族シニエル侯爵家サナレアイも同様に、上位に属する魔族でございます。

 ワタクシ達は勿論の事、魔族魔物全てが魔王様をお慕いし、敬愛しております。

 魔王様が全てでございます。

 魔王様命でございます。

 魔王様のお心に少しでもお近づきになれるのであれば、塵と化して消えようとも悔いはございません。

 悔いと言うのもおこがましく、悦んで塵にして頂きとうございます。

 ですが、魔王様の心身共にお傍へあって頂きたいのは、我が族長で在らせられます大公殿でございます。

 我が族長こそが魔王様の一の臣下。

 我が族長こそが、魔王様のお隣にいらっしゃるべき存在。

 我が族長こそが! 魔王様と寝屋を共にし! 魔王様の寵愛を受けるべき存在!

 我が族長の為にも、ワタクシは侍女としての勤めに励みながら、魔王様のお好みを始め、寝起きの仔細からその寝姿までをも漏らさず、逐一大公殿へご報告しているのでございます。

 我が族長が、少しでも魔王様の覚え目出度きあれば、ワタクシも一層の励みとなる事でございましょう。

 とは言え、クレアティヌ、シアンゼーカ、サナレアイも同様ではありましょうが。


 我々侍女は、只今魔王様がお目覚めになるのを、寝台の傍に立ちお待ちしております。

 外に比べ幾分涼しいとは言え、魔王様におかれましてはお暑いご様子。

 布団を抱え込み、その麗しくも白いおみ足を惜しむ事無く我々に見せて下さいます。

 ワタクシであれば、瞬間に首を落としている所でございます。

 魔王様は実にお優しい方でございますね。

 眉間を寄せられ、三本の皺を作るその表情も、大変麗しい限りでございます。

 唸っては、頻りに暑いと呟くそのお声の愛らしい事。

 叶うならば、そのままずっと聞いていたい程でございます。

 我らが魔王様は稀有な魔力をお持ちでございます。

 魔王様はご自分では分からないとおっしゃいますが、その無尽蔵な魔力は金の粒子となり、魔王様の体に収まり切らず、辺りにも漂っている程でございます。

 仮に、魔王様が誰にも告げずにお出掛けをされましても、その金の粒子を追えば、いとも容易く魔王様を見付ける事が可能でございます。

 ましてや、魔王様の魔力は大変密度が濃く、一旦魔王様がお通りしました場所であれば一週間程痕跡を残す程でございます。

 我が族長をもってしても、一日痕跡を残すかどうかという程でございます。

 魔王様の魔力がいかに濃密であるかお分かり頂けますでしょうか。

 魔王様がお休みされるこの寝室は、現在も金の粒子に満たされております。

 恐らくは、寝室に留まらずに廊下へとも流れておりますでしょう。

 現に、寝室から出られるお庭にも金の粒子が流れております。

 嗚呼、魔王様がまた暑いと唸られました。

 途端に凝縮する金の粒子が、魔王様のお姿を隠してしまいそうな程でございます。

 うっとりと魔王様のお姿を眺めておりましたら、隣におりますシアンゼーカがクレアティヌを密かに窘める声が聞こえます。

 「クレアティヌ、本性が出てきておりましてよ。自重なさいませ」

 「ですが、シアンゼーカ。そういう貴女こそ本性が出そうではありませんか。ましてや、このような魔力に当てられては、本性を出すなと言うのが酷ではございませんか」

 この中では、クレアティヌが一番若く、シアンゼーカ、サナレアイと続きワタクシが一番の年長となります。

 密やかな声に、クレアティヌを見ればシアンゼーカの言葉通り、本性である犬族の尾が現れております。

 シアンゼーカも頬に鱗が出ている状態でございました。

 幸い、サナレアイもワタクシも本性を出すまでには至って無い状態ではございますが、これも時間の問題でございましょう。

 魔王様を包む濃い魔力が寝室を満たしてしまえば、サナレアイもワタクシも本性を現す所か、自制出来るかも危うい所でございます。

 これも魔王様から与えられる試練でございましょうか。

 我が族長も、魔王様より『試練である』と新たな境地を開いているご様子。

 羨ましい限りでございます。

 ただ、クレアティヌとシアンゼーカは試練に耐えるには若過ぎるように思えます。

 二人へ下がるように告げようとしたその時、魔力の密度が薄らぎました。

 魔王様のお目覚めでございます。

 クレアティヌもシアンゼーカも、正しい人型を維持出来るようになり一安心でございます。

 魔王様曰く、寝起きは甚く不機嫌でらっしゃるとの事でございますが、我々は一度も首は愚か、四肢を切られる事も無く、ましてや臓物を潰されるような事も未だございません。

 むっくりと体を起こされた魔王様は半目に据わっておられ、眉間に三本の皺を刻まれ、愛らしい唇をへの字へと曲げ、暫くはそのままでいらっしゃる事が常であります。

 通常の目の大きさになられる頃、大きく伸びをしながら欠伸をされ、寝台から下りられるのでございます。

 そのまま浴室へと向かわれるのですが、幾度とお願い申し上げても、我々侍女に仕事を与えて頂けないのが悩みの種でございます。

 しかし、ここで気落ちしている暇はございません!

 ワタクシは、寝衣としてお付けになられていた、魔王様の下着を逸早く手に入れようとしましたが、寸前の差でサナレアイに下着を奪われてしまいました。

 おのれ、サナレアイめ!

 思わずサナレアイを睨み付けた為、油断が生じてしまいました。

 残る寝衣一枚、クレアティヌとシアンゼーカが奪い合っております。

 ここで奪われては我が族長に顔向けが出来ません!

 薄布一枚を上位魔族が本気で取り合えば、呆気無くも破れるのは必至でございましょう。

 切れ端とはなりましたが、全てを奪われる事は辛うじて防ぎました。

 そして、ワタクシ、クレアティヌ、シアンゼーカは寝台へと互いを押し退け急ぎ向かいます。

 魔王様の魔力が滲む物は全て我が族長へ!

 犬族、蛇族、そして淫魔族の本性を顕にし、威嚇し、奪い合い、取っ組み合った結果、何とか我が族長へ顔向け出来る程度の収穫を得る事が出来ました。

 これが我々侍女の、朝一番に成すべき仕事でございます。

 勿論、魔王様が浴室まで侍らせて下さるのであれば、何を置いてもお傍にて仕えさせて頂くのですが。


 さて、そろそろ魔王様が浴室から出られる頃合のようです。

 見るも無残な寝台をサナレアイが勝ち誇った表情で元へ戻します。

 我ら上位魔族にとっては、この程度の術は容易い事。

 しかし、同じ羽を持つ種族なれど、飛ぶ事しか能の無い鳥族如きに、この優れた淫魔族であるワタクシが負けるとは。

 本日のお召し物へ着替えられた魔王様が、浴室よりお出になられたので、サナレアイへの報復は保留と致しましょう。

 魔王様のお召し物に関しては公平を期して、持ち回りとなっております。

 本日、魔王様へのお召し物を選んだのは、憎しサナレアイでございます。

 着替えられた魔王様のお姿を拝見し、先程誓ったサナレアイへの報復は帳消しとする事に致しました。

 微かに項が覗く程度で切り揃えられた黒く艶を持つ柔らかな髪は、多少癖がある為か小さなお顔の周りに散っております。

 美しく白い頬が少し上気しておりますのは、本日の暑さのせいでございましょうか。

 それとも、湯浴みのせいでございましょうか。

 肩から紐で吊るされた布は、一枚では服としての意味が無い程に透けている布を幾重と重ね、そのお小さい体の線が辛うじて見える際どさでございます。

 淡い光沢と共に光加減にて白くも薄桃色にも見えるのは、恐らく一角獣の鬣から織られた物でございましょう。

 未だ成熟の域を迎えてはおられない魔王様は、胸の膨らみも大変愛らしのですが、下胸の辺りを少々絞るように誂えたピンクのリボンは、魔王様の体が立派に成熟された暁にはさぞやと想像の羽が無限に広がっていくばかりでございます。

 お召し物は膝上五センチ、裾は職人達の心血が注がれた、それはそれは細やかな透かし模様が飾られております。

 絶対領域の為の伏線でございますね、分かります。

 お履き物は編み上げの白いサンダルと、文句の付け所がございません。

 すらりとした華奢なおみ足が、何と映える事でございましょうか。

 悔しい事ではございますが、サナレアイが用意したからにはクーシャの最上質な皮を使用しているに違いありません。

 クーシャから取れる皮はどれをとっても高価でございますが、最上質となりますと長く履いていても疲れる事は無く、サンダル特有の蒸れもないと、人間界王室がこぞって愛用している代物でございます。

 ましてや、白ともなれば非常に貴重な物。

 『サナレアイ!』

 ワタクシは興奮の余り、心の内で叫んでしまった程でございます。

 クレアティヌ、シアンゼーカも同じ思いだったのでしょう。

 『『『グッジョブ!』』』

 我々からの賛辞に、サナレアイも会心の出来と頷きを返したのございます。


 魔王様に於かれましては、短過ぎではないか、透け過ぎではないか、せめてパンツかスパッツをと憂いておられましたが、魔王様のこの姿はやはり我が族長にもご覧頂きたいと思い、幾度と振り返る魔王様を持ち得る最上の笑顔にて、その日の執務へとお見送り致した次第でございます。

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