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ハーミット  作者: 銀骨人
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世界が違っても命が軽い。

 場所はマンションっと呼ばれ、沢山の部屋に沢山の人が住んでる建物の4階の1部屋。


 「前と場所が違うんだな」


 「場所を転々と移動するフットワークの軽さが、詐欺グループの厄介な所なんだよ。

 危険な仕事は末端がやって、捕まっても簡単に切り捨てられるから大元には届かない」


 「それじゃ、捕まえても意味がないって事か?」


 「さっきも言ったけど、仕事をしてるのは末端だから意味がないわけじゃない。

 下が働かなければ上に金が届かない、金が無ければ組織は維持出来なくなる」


 「面倒くさいけど、下から徐々に削っていくいけば良いって事か。

 どうしても持久戦になっちゃうんだな」


 自分の行動の意味を確認してから、見張りにクロトを残して目的の場所に乗り込む。


 鍵のかかった玄関の扉をヂウに開けてもらい、堂々と中に入る。


 入ってすぐにダラダラと座っていた男を、俺に気がついて声をあげる前に意識を刈取る。


 部屋の中の気配は残り8人、1人だけ何故か気配が薄いのが気になる。


 そのまま奥に進んで行くと、カズキが傷だらけで部屋の隅に転がっていた。


 他の男達は遊んでいたり、電話とかいう道具で誰かと話していたり、転がってるカズキを気にかけてる奴は1人もいない。


 どいつもこいつも、ニヤけた顔をして詐欺をしてる罪悪感をなんて少しも感じてなさそうだ。


 「この中で、1番偉いのはどいつだ?」


 俺は部屋の入り口をふさぐ場所から声をかけた、一斉に全員が顔を見る、視線と態度からこの中のリーダーに当たりをつけた。


 「おまぇッ、はぁ」


 最初に声をあげた男の顎先を掌底で打抜き、同時に足の甲を踏む。


 少し力が強過ぎたのか、顎も足も骨が砕けた感触がした。


 少し加減をしないとダメそうだ、向かってくる男達を手加減の練習しながら無力化した。


 最後に残った多分リーダーを、気を失わないように丁寧に痛めつけてから。


 「騙した金の受け渡しはどうやってるんだ?」


 クロトが用意してくれてた質問をする。


 「俺は知らねぇな」


 「じゃあ、誰が知ってるんだ?この中の誰かは知ってるはずだよな」


 この質問には無言を答えようとしないリーダー仮の小指を掴んで逆に曲げる。


 「ぎゃああ、いだぁい」


 リーダー仮が痛みに悲鳴をあげる、折られた指の痛みで脂汗を流しているリーダー仮に質問を繰り返す。


 「金の受渡し方か、もしくはそれを知ってる奴を教えろ」


 「ヴラドぉ、お前こんな事してタダで済むと思ってるのか」


 「お前、馬鹿なのか?」


 俺はリーダー仮に手を伸ばし、折れた指をもう一度今度は反対に曲げる。


 「いがぁ、うぎぃああああああ」


 部屋中にリーダー仮の悲鳴が響く、俺の行動にカズキは引いている。


 「お前がしていいのは、俺の質問に素直に答える事だけだ。

 もう一度聞く、金の受渡し方か、それを知ってる奴を教えろ」


 「嫌だ、教えたら俺が上から殺される」


 痛みで引きつった顔で回答を拒否するリーダー仮、折られた指を捻られた現状よりも、上への恐怖の方が勝るらしい。


 そういえば、交友関係を押さえられて何をされるか分からない方が、単純な肉体への脅しよりも効果的だってクロトが言ってたな。


 詐欺グループの大元は、そういう人の心理につけ込むのが本当に上手いらしい。


 だからリーダー仮は絶対に勝てなくても、分かりやすい暴力を振るう俺より、得体の知れない詐欺グループの大元の方が怖いって事か。


 「確かに分からないっては怖いよな」


 俺も未知のモンスターやダンジョンや場所は怖かった、だから徹底的に調べる事を繰り返しるうちに隠密特化の戦闘スタイルになっていた。


 舐められてる以上、身体を痛めつける方法で口を割らせるのは時間の無駄だな。


 「お前達の上と、俺のどっちが恐ろしいか教えてやる」


 俺はリーダー仮から離れて、転がってるカズキに近づいた。


 『ヂウ、カズキをクロトの所まで運んでくれ』


 『了解〜』


 ヂウの返事を聞いて、広がった影に動けないカズキを蹴り落とした。


 リーダー仮から見れば、蹴られたカズキが突然消えた様にしか見えなかっただろう。


 これで俺が暴力だけの人間じゃなくなった、さらにリーダー仮の顔を確認したクロトが個人情報を特定してカカ経由で教えてくれる。


 「お前、何をしたんだ、和樹を何処にやった」


 「そんなにカズキをどうしたか知りたいなら、お前にも試してやろうか、ミタ・コウヘイ」


 俺がカズキが居た場所から、リーダー仮のミタに近づくと、ミタは俺から離れるために後退る。


 「なんで俺の名前を?来るな、来るんじゃねぇ」


 たった少しの事でミタの俺への恐怖が膨らむ、錯乱したミタは隠していた拳銃を乱射する。


 完全に臨戦態勢の俺には、拳銃の弾丸は軽く突かれた程度にしか感じない。


 『銃声が聞こえたけど大丈夫かって、クロトが心配してるわよ。

 アタシはヴラドなら大丈夫って言ったんだけど、一応確認よ』


 『窓から見えてるんじゃないのか?大丈夫って伝えてて』


 『普通は拳銃で撃たれたら怪我するんだって、ヴラドが立ってるのは見えるけど、後ろ姿だから怪我は確認出来なかったって』


 『了解、また何かあったら教えてくれ』


 突然の発砲でクロトが焦ったみたいだ、拳銃はよく出来た武器だけど、魔力がこもってなければ通用するのはDランクまでだろう。


 カチカチッと拳銃を撃ち切ったミタが、拳銃を捨てて逃げ出そうとするけど、腰が抜けて上手く立ち上がれずジタバタしてる。


 俺はカカとの会話が終わると、這って逃げるミタの背中を踏みつけて。


 「もう1度聞くぞ、金の受渡し方か、受渡し方を知ってる奴を教えろ」


 「ひぃ、連絡が来るんだ、連絡で指定されたロッカーに金を入れるだけで、直接会った事はない。

 指定されるロッカーも毎回変わるから、俺も連絡が来るまで何処か分かんない」


 「なるほど、連絡はお前にくるのか?」


 何度も縦に首を振るミタに。


 「じゃあ連絡が来たら教えろ、連絡が来るのは他の奴らはもう必要ないな」


 とミタに命令して、ヂウに頼んでカズキと同じように影を使ってクロトの所に運んでもらう。


 自分以外の仲間が全員消えるのを見て、恐怖の感情が限界に達したのか、ミタは股間を濡らして気を失ってしまった。


 ミタを拘束して部屋に転がして、俺もヂウの影移動でクロトの所に戻る。


 クロトと一緒に詐欺グループの下っ端達を拘束したら、カカの魔法で下っ端達の記憶を消す。


 カカ曰く、闇魔法と雷魔法をどうこうすると記憶を消せるらしい、これもカカの感覚なので原理はさっぱり分からない。


 全部記憶を消してしまうと自供も出来ないので、俺の事だけ記憶から消してもらって、警察署にヂウが捨てて来た。


 ミタの見張りをヂウとカカ任せて、俺とクロトはボロボロになったカズキが目を覚ますのを待っていた。


 「んっ?ここは⋯?」


 「カズキ、大丈夫か?」


 「大丈夫、体が上手く動かせないけど、何処も痛くないから。

 でも、目がおかしいのかヴラドが2人に見えるな、あはははっ」


 「別に目はおかしくなってない、こっちはクロト、俺の家族だ」


 「なんだ、ヴラドお前双子だったのか⋯」


 「悪かった、俺が何にも知らなかったから、俺のせいにしていいから戻れなんて言って。

 あいつらから逃げるように言えば、こんな事にならなかったのに」


 「いや、馬鹿正直に戻ったのは俺だから、そのまま逃げた方がいいって、ちょっと考えれば分かったのに。

 あいつら、言い訳も何も聞かずに失敗した見せしめだって、一晩中めちゃくちゃされてもう死ぬかと思ったよ。

 でも、ヴラドが助けてくれたんだな、これに懲りて俺も普通に働くよ。

 金に目が眩んだら、碌な事にならないって分かったからな。

 真面目に働けば、親も少しは安心するよな、今まで心配ばっかかけてきたから。

 俺、まだちょっと眠いから少し寝るわ、今度どこか一緒に遊びに行こうぜ、ヴラド」


 「そうだな、カズキがちゃんと就職出来たら、ご飯でも奢るよ」


 俺が答えるとカズキは静かに眠りについた。


 「ヴラドが責任を感じる事じゃない」


 「分かってる、こんなに平和そうな世界なのに、犠牲になる命が向こうと一緒で軽いなって思って」


 「残念だけど、そうかもな」


 俺達の魔法ではカズキを助ける事は出来なかった、せめて苦しまない様に痛みを取り除いただけ。


 「だから、俺達のやる事に意味があるんだよ」


 俺とクロトは、カズキの遺体を病院に届けて部屋に戻った。

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