その出会いは突然に。
翌朝、何処かの建物の屋上で目を覚まし、ヂウが持って来てくれた残飯とを食べながら、カカが集めて来てくれた情報を確認する。
ヂウとカカに比べて、俺は何をしてたんだろう?借金取りのグループと揉めて、警察官という兵士に目をつけられた。
アーサさんに拾われてから13年、まさかまた残飯をあさり、盗みをする日が来るとは思わなかった。
しかも、ヂウの持って来てくれた残飯が、残飯と思えない程に美味しい。
『ヴラドおいしいね〜、僕この三角の黒いの好き〜』
『まだ、全然食べられる物を捨てるなんて、ここの国の人達は不思議ね』
3人?で概ね満足のいく朝食を食べ終わって、今後の行動を話し合う。
カカが集めた情報で、どうやら俺は別の世界とやらに転移してしまったようだ。
にわかには信じられないが、異世界転移という話は日本ではファンタジーというモノの定番らしい。
定番という事は、それほど頻繁に世界を超える転移が起きている世界という事だろう。
俺のように転移してしまった人達が何人もいるという事だ。
出来れば、その先人達がどうやって生活をしているのか、もしくは元の世界に還る方法があるのか話を聞きたい。
いや、還っていたら話を聞く事は出来ないか。
カカの情報によると、金を稼ぐならアルバイトというものをすればいいらしい。
しかも、すでにカカは短時間で稼げるアルバイトの情報を仕入れてくれていた。
集合時間や場所は、情報を持っていた人について行けば問題ない。
1日が24時間で午前午後があるとか、分かっても確認手段がない。
今日の予定が決まったら、カカの案内で同じアルバイトに向かう人の後を追った。
「ここがアルバイト先か⋯」
先に建物に入った人に続いて、俺も建物に入りカカに教えてもらった合言葉を言った。
「サイトを見て来ました」
サイトっていうのか何か分からないが、前の人も同じ事を言って迎え入れられてた。
それなのに、何で俺はこんなに疑いの目を向けられているんだ。
「サイト見て来たなら、ちゃんと画面を表示して」
画面ってなんだ?
『そういえば〜、何かギルドカードみたいな薄い板を見せてたよ〜』
ありがとうヂウ、やっぱりギルドカードは身分証明になるんじゃないか。
俺は堂々と受付係の男にギルドカードを見せた、男は怪訝な顔をしながら
「ちょっとこっちに来い」
と、奥に入るように案内される、無事に合言葉が通じたようでホッとする。
案内通り奥に行くと背中に何かを押し当てられる、背中の感触から刃物じゃないのは分かる。
「どういうつもりだお前?」
「どういうつもりって、アルバイトして金を稼ぎたいんだ、ここのアルバイトは稼げるって聞いた」
「聞いたって誰にだよ、画面も見せずに変なカード見せやがって。
おい、こいつの身体検査しろ、お前はジッとしてろよ、動いたら撃つからな」
一応大人しく身体検査は受けるけど、黒いのが何か分からないから脅されてもピンとこない。
撃つって事は穴の部分から何かが飛び出すのか?あの穴の大きさじゃ大した事なさそうだ。
「こいつ、財布も携帯も持ってない、怪しいぜ」
携帯ってなんだ?それがないとアルバイトが出来ないのか、財布はリブタリアの自分の部屋にある。
「お前、何が目的だ?」
「だから、アルバイトをしに来たって言っただろ」
「嘘言ってんじゃねぇよ、だったらなんで携帯も持ってねぇんだよ、怪し過ぎるだろ。
素直に白状しないと痛い目にあうぞ、まさか本気で撃つ訳ないって舐めてるのか」
そう言って受付だった男が黒い何かを操作して、ダァンという音がした瞬間に腹に痛みが走った。
魔力を感じないせいで少し反応が遅れてしまった、小さな道具と甘く見ていたのもある。
あの程度の大きさの穴から何を撃ち出しても、大した威力なんてないと思っていた。
しかし、高速で射出された金属の塊は、俺が想像していたよりも随分と殺傷力が高かった。
これはとても勉強になる、普段モンスターを相手にしているせいで、現象制御魔法は広範囲高威力の方が優れていると思っていた。
でも、人間相手の攻撃ならもう少し硬度と速度を上げれば、消費魔力を考えればかなり効率的だ。
これくらいなら現象制御魔法が苦手な俺でも再現が出来そうだな、床に転がった金属の塊を確認しながら考えた。
「「は?」」
部屋にいた人達の啞然とする声で我に返る、想像以上の攻撃に感心してつい考え込んでしまった、悪い癖だな気をつけよう。
「なんで、撃たれたのに平気なんだ?」
「平気じゃない、咄嗟の事で防御が間に合わなかったから痣が出来てるだろ」
見易い様に穴の空いた服をめくり、撃たれて赤黒い痣の出来た腹を見せる。
「化け物⋯」
呟いて黒いのを落とした男に近づいて、落とした黒いのを確認する。
金属と見た事のない素材の複合物、穴の空いた部分を自分の手に向けて、見よう見真似で操作して撃ってみた。
ダァンダァンダァン、引っ掛ける部位を引くだけで連続で撃つ事も出来るのか。
防御した手に残る衝撃を思うに、ゴブリンくらいなら殺せそうだな。
しまった、また自分の思考に入り込む所だった、俺は黒いのを男に返すと、腰を抜かして座り込んでしまった。
「身体検査も終わったみたいだし、俺はアルバイトをさせてもらえるのか?」
稼げる仕事なんだ、強さも必要なんだろう、撃たれて防御面を試されたから護衛の仕事かもな。
俺の質問に部屋中の人間全員が激しく首を縦に振ってくれ、無事にアルバイトに合格した。
「拳銃で撃たれて平気なんて、どんな仕掛けだったんだ?」
「あの黒いのは拳銃って言うのか、どんな仕掛けも何も身体強化を使っただけだ」
受付をしてくれた男や部屋にいたアルバイト先輩達から、殆ど一緒に来たのも何かの縁だと、俺の前に部屋に入ったカズキと一緒に仕事をする事になった。
カズキは物怖じしない性格で、気になった事をグイグイと聞いてくる。
例え同業者にも手の内を明かさないのは冒険者の基本だ。
俺はヂウとカカの事はアーサさんにしか教えてないし、アーサさんにすらヂウとカカの能力は何も教えてない。
だから、俺は少し身体強化魔法を使えるだけだと、カズキに教えてあげた。
「身体強化?」
カズキの疑問だらけの顔をみて、この世界には魔法は無かったのを思い出す、どう言い換えよう?
「もの凄く身体を鍛えたって事だ」
「へっ、へぇ〜⋯」
「それで今から何をするんだ?」
上手く誤魔化せなかったから、早々に話を変える。
「受け子だよ、金を貯め込んでる爺婆から金を受け取るんだ」
「集金って事か?」
「まぁ、そんなもんだな、ヴラドって本当に何も知らないんだな」
「悪いな、少し前に日本に来たばかりなんだ」
アルバイトに合格して困ったのは、全く読み書きが出来ない事だった、普通に会話が出来ていたから気がつかなかった。
使い捨ての携帯を渡されても、全然文字が読めなくてカズキが俺の面倒見係になったのだ。
黒髪黒目で見た目は殆んど日本人だが、ヴラドと名乗ったら外国人だと納得してくれた。
カズキと一緒に目的のお爺さんの家まで来た、話だと独り暮らしのはずなのに、家の中からお爺さん以外の気配が3人、家の周りにも逃げ場をなくすように4人いる。
でも、ずっと遠くからお爺さんの家を確認してる視線が1番に気になった。
家の中と家の周りの気配からは責任感と敵意を感じるのに、遠くの視線からは好奇心と憎悪を感じる。
「カズキ、集金は今日じゃないと駄目なのか?」
「急にどうしたんだよ、勝手に予定を変えたら何されるか分かんないぞ。
ヴラドは大丈夫かもしれないけど、俺は上に逆らう度胸なんてない」
「先輩達には俺のせいで仕事は失敗したって言えばいい、とにかくカズキは一旦帰った方がいい」
俺の真剣な顔に、カズキは訳が分からなくても指示に従ってくれた。
俺は1番気になった視線を感じた場所まで、気配を完全に消して全速力で向かった。
「早く罠にかからないかな、まだ来ないのか?」
「怪しい気配がしたから、予定を変更したんだよ」
俺は、嫌な視線を向けていた男の独り言に背後から答えてやった。
双眼鏡で覗いていた男は慌てて振り返り、そして俺も男も同時に固まった。
「「俺?」」
そこには、俺と全く同じ顔をした男が驚いた顔をして立っていた。