これからどうしたらいいのか露頭に迷う。
交番という場所で、何かとても嫌な事を聞かされた俺は休憩室の片隅で呆然としていた。
『ヴラド元気出して〜』
『ヴラドを捕まえた警察官って兵士が話してるけど、嘘をついてる感じじゃないわね』
『もうカカは、なんでヴラドにトドメを刺すような事言うの〜』
『情報を正しく伝えるのがアタシの役目よ、話の整理と判断はヴラドに任せてもるけど、ヂウだって警察官の話は聴いてたでしょ』
『確かに〜、コスプレとか言って笑ってた〜』
ヂウとカカが俺を念話で慰め?てくれる、落ち込んでいても何も解決はしない。
気持ちを切り替えて、リブタニアを知らないのはあの警察官が無知なだけかもしれない。
今、確定してるのはここが日本という国で、俺のこの格好が笑われるくらい変な格好という事だ。
先ずはここを出て、目立たない服を調達して、もっと情報を集めよう。
『とりあえずここを抜け出すから、ヂウ力を貸して』
『はぁい〜』
ヂウの返事と同時に、俺の身体は一瞬で影に沈み簡単に交番の外まで移動した。
『カカも頼む』
そう言うとカカは俺の頭の上に留まり、俺の身体が透明になる。
『アタシは魔法の制御で手一杯だから、いつも通り後はヴラドが頑張るのよ』
『大丈夫だ、潜入依頼ならSランクにだって気が付かれた事がないだろ』
こうして無事に交番を脱出した俺は、姿と気配を消して再び街を歩き出した。
「はぁ、Aランク冒険者でギルド職員の俺が盗みをする事になるなんて」
『どんまい〜』『仕方なかったのよ、気にする事ないわ』
ヂウとカカがまた慰めてくれる、俺は転移されてから何度ヂウとカカに励まされただろう、ヂウとカカが一緒に転移されて良かった。
ヂウはシャドウラットというモンスターで、光と闇属性の影魔法を得意としている。
影を操って攻撃したり、影の中を移動したり、影に物を出し入れしたりとっても便利なネズミだ。
ただし、影の中で何故か術者以外は呼吸出来ないので、生き物は長く入れておけない。
カカはワイズクロウというモンスターで、なんと光闇火水風地雷の7属性を使いこなす。
透明になるのも、周囲の音を集めるのも何となくで魔法で出来てしまう天才姉御肌なカラスだ。
現象制御魔法は使えると使いこなすでは天と地ほど差がある、冒険者の間では使えるだけの人を魔法使い、使いこなす人を魔術師と区別してるくらいだ。
俺は身体強化魔法以外は使えるだけ魔法使いですらない、カカは7属性魔術師、ヂウは影魔術師になる。
ヂウとカカは、直接戦うより俺の補助をする方が好む、前に理由を聞いたら『手のかかる弟を手助けするのが姉の役目なのよ』『ヴラドは弟ぉ〜』と言っていた。
カカ(姉)→ヂウ(弟)→俺(末っ子)と認識されていたのだ。
確かに物心つく頃から一緒に居たけど、魔物化して意思疎通が出来るようになってそんな認識だった事に愕然としたしたのを覚えている。
ヂウとカカの補助には、実際本当に助けられているから文句は言えないんだけど、ヂウにまで弟扱いされているとは思わなかった。
俺は交番から逃げた後に、適当な店で服を盗んで着替えをして驚いてしまった。
丈夫さはリブタリアの服も負けていないが、生地の良さは最高級品、縫製の細やかさは超一流、着心地の良さは比べ物にならない。
俺は貴族御用達の店で盗みを働いてしまったのか、カカの聴き込みでは中古品の店だったはず。
しかし、すれ違う人達もあの借金男だって同じ様な服を着てた、平民でも着れる服でコレなのか?
何もかも情報が足りない、ギルドがないから金もない、リブタリアに帰る為に情報を集めながら、どうにか金を稼ぐしかないな。
身分証もない俺が出来る仕事か、鉱山奴隷のような仕事しか思いつかないな。
そんな風に悩みながら歩いていたら、突然数人の男達に前を塞がれた。
「やっと見つけたぜ、さっきと格好が変わってたから見つけるのに苦労したぞ」
知り合いのいない街で誰かと思ったら、取立ての邪魔をしてしまった人達とその仲間か。
「さっきは仕事の邪魔をして悪かったな、でも、丁度良かったかもしれない。
今、金が無くて困ってたんだ、お前たちが金貸しなら出来れば適正な利息で金を貸してくれないか?」
「はぁ、お前ふざけてるのか、俺達はお前にケジメをつける為に探してたんだぞ。
舐められたままじゃ、俺達の商売は成り立たないんだよ」
「お前達みたいなのが、面子を大事にしてるのは分かってる。
分かった上で頼んでるんだ、俺はこっちで知り合いが居ないから」
俺はまた、確かテツって呼ばれてた男に胸ぐらを掴まれて殴りかかられた。
ずっと不思議だったけど、本気で怒ってるのに身体強化魔法を使わないのは、使わないんじゃなくて使えないのか。
よく考えたら、この国の人達の誰からも魔力を感じなかった。
魔力がないなら魔法は使えない、じゃあ、この照明はどうやって光ってるんだ?馬のない馬車はどうやって動いてるんだ?
色々と考えていたら、テツって奴を間違って投げてしまった。
ちょっと転がして話をするつもりだったのに、完全に起き上がれなくなっている。
「よくもやりやかったな」「ぶっ殺してやる」「全員で囲んでやっちまえ」
大人しく話をするって雰囲気じゃなくなった、なんでいちいち威嚇しながら向かってくるだ、身体つきや重心をみれば、大体テツって奴と大差ない。
確かアツシって呼ばれてた奴と、もう1人がこの中では少し戦い慣れてる感じか?
せっかくとり囲んでも連係しないなら無意味、順番に意識を刈取って、先に転がってたテツに重ねてやった。
「まだやる?」
俺が少しだけ凄んで見せると、アツシともう1人の男の顔が青ざめる。
出来れば金を借りたかったけど、今となったら此奴らに借りを作る嫌だ、このまま去ってくれれば、これ以上関わる事もないだろう。
俺の願いが通じ、アツシともう1人は尻尾を巻いて逃げて行った、逃げるのは構わないけど、テツ達を置いて逃げて行くとは思わなかった。
振り出しに戻ってしまったけど、何か良い仕事がないか探さないと。
「お前ら、ここで何してる」
「ん?お前、いつの間に交番から逃げた奴じゃないか」
俺が逃げたアツシ達を見送ってると、警察官が駆けつけた、しかも俺を交番って所まで連行した2人だ。
俺はまた捕まれば面倒な事になるのが分かるから、さっさと逃げる事にした。
しかし、偶然見回りに来た警察官があの2人だなんて、俺も運がないな。
もう何処かゆっくり寝れる場所を探して、仕事も金も明日改めて考えよう。
はぁ、こんな事なら交番で一晩過ごした方が良かったと、後悔しながら適当な建物の屋上で眠りについた。