ここは地球の日本という所。
路地裏から出ると、眩しいくらいの照明と見た事ない服を着た沢山の人。
箱部分だけで走る馬車?、路地裏から出た場所で見知らぬ景色にボウっとしているとジロジロと見られてる気がする。
自慢じゃないが、俺は地味で注目を集める様な存在じゃない、ただ、今は周りと比べて奇異な格好をしているかもしれない。
「ヂウ、カカ、頼む」
ネズミのヂウとカラスのカカに情報収集を頼んで路地裏に引き返す。
とりあえず情報が集まるまで、大人しくしていようと思ったのに、反対側から何か揉めてる声が聴こえてしまった。
「許して下さい」
「はぁ、こっちは貸した金を返せって言ってるだけなんだけど?」
「分かってます、でも店にまで来られるのは⋯」
会話は借金の取り立てのようだ、借りた金を返さないんだから謝ってる男の方が悪いんだろう。
取立てる方の2人も武器を使わずに殴るだけなんて、優しい奴らだな。
俺は特に問題はなさそうだから、ヂウとカカが情報を持って帰るのも待つ事にしたのに。
「あっ、助けて下さい」
殴られた男が、俺に気がついて声をかけて来た。
「何見てんだぁ、お前」
「関係ない奴は引っ込んでろ」
声をかけられただけで、助けるつもりはないのに無駄に敵意を向けられる。
多少不自然でも、もっとちゃんと気配を消して隠れておくべきだった。
状況が分からない内に、面倒事に巻き込まれるのは御免なんだが。
「何とか言え、この野郎、ビビってんのかぁ?あ?」
ちょっと考え事をして黙ってただけで、敵意を向けてどんどん俺の方に向かってくる。
「悪いけど俺も立て込んでいるんだ、路地裏は別にお前達の住処って訳じゃないだろ?
余計な手出しをするつもりはないから、俺の事は放っといて勝手にしてくれ」
俺が丁寧に男に断ると、何故か男は怒りだし俺の胸ぐらを掴んできた。
「舐めてんじゃねぇぞ、テメェ」
男は掴んでる手と逆の手で殴りかかってきた、身体強化魔法も使わず、手加減されたゆっくりなパンチ。
やっぱりこの男は優しい、とはいえ大人しく殴られてやる義理はない。
俺も身体強化魔法は使わずに、殴りかかってきた腕と胸ぐらを掴む手を取って地面に転がしてやった。
「仕事の邪魔をしたみたいで悪かったな、俺の事は気にしないで続けてくれ」
地面に転がされた男は立ち上がり、何故か更に俺に突っ掛かってくる。
「この野郎、よくもやりやがったな」
この男はなんで、俺に何度も突っ掛かってくるんだろ?いい加減、怪我をさせない様に転がすのも面倒なんだけど。
「テツ、どけ」
しまいには、もう1人まで俺の方に向かってきた、借金男を放って逃げられても知らないぞ?
テツと呼ばれた男よりは多少鋭いパンチだけど、この男も手加減をしてくれる良い奴だな。
2人がかりになったが、お返しに何度か転がしてやったら。
「クソ、変な格好してるくせに、覚えてろよ!行くぞテツ」
「待って下さい、アツシさん」
何故か借金男じゃなく、俺に対して捨てセリフを吐いて、路地裏から去ってしまった。
「あ、あの助けてくれて、ありがとうございます」
男達が居なくなると、今度は借金男が声をかけてきた、結果的に助けたような形になったけど、俺にそんなつもりはない。
むしろ取立てを邪魔した罪悪感があるくらいだ。
「あいつら法外な利息で金を貸して、暴力で無理矢理取り立ててくる酷い奴らなんですよ」
借金男は勝手に話しているが法外な利息か、それなら取立て屋の方の悪い可能性もあるな、暴力に関しては、俺としては許容範囲内だと思っている。
「法外な利息っていうのは?」
ジウとカカが戻ってくるまでの時間潰しに、俺は借金男と会話をする事にした。
ジウとカカに任せきりじゃなく、少しは自分でも情報収集をした方が良い。
ずっと無言だった俺が返事を返したのが嬉しかったのか、借金男は愚痴を吐き出す様に話し出した。
「あいつらには本当に迷惑してて、職場にまで押しかけて来るせいで何度も仕事を変える事になったし。
この店を辞めさせられたら、また無職になる所でした」
「無職か、それは嫌だな、それで法外な利息っていうのは?」
借金男は自分の話たい事だけを話して、俺の質問に答えてくれない。
俺は今無一文なのだ、この国のギルドでお金を引き下ろせるまで、一時的だが借金をする必要があるかもしれない。
法外でも適正でも金を借りた時の利息を知っておいて損はない。
金が借りれなければ街から出て、適当な魔物や動物でも狩って、野宿をするしかないな。
俺が考えてる間にも、借金男の愚痴は止まらなかったので適当に聞き流す。
借金男は言いたい事だけ話したら、仕事に戻ってしまって有益な情報は聞けず、俺はまた路地裏でヂウとカカを待つ事になった。
『ヴラドぉ〜、周辺を色々見て来たけど見た事ないモノばっかりだった。
凄く沢山人がいるし、何か祭でもあるのかも』
ヂウから連絡が来て、周辺で見てきた状況を教えてくれる。
やっぱり街の沢山の照明は祭があったからか、歩いてた人達の格好は祭の衣装なのかもな。
祭りなのに普通の格好をしていたから、俺は目立ってしまったんだな、知らない街の祭だ、よそ者の俺が知らなくても仕方ない。
『ヴラド、ここの街の人達変よ、独り言を話してる人がいっぱい。
沢山人が居るのにギルドの情報とか、場所の話は誰もしてなかったわ』
カカもギルドは見つけられなかったか、こんな栄えた街にギルドがないなんて考えられない。
街の景観を守る為に街の中心から離れた場所、街壁の方にギルドを作ったのかもしれないな。
『ヂウ、カカ、1度戻って来てくれ、一緒に街の出入り口まで行こう。
そっちにギルドがあるかもしれない、見つからなかったらそのまま外に出て野宿だな』
『わかった〜』『了解』
すぐにヂウとカカが戻って来たから、俺は祭を楽しむ人達の邪魔をしない様に気配を消して街の外壁を目指す。
しかし、本当に凄い街だな、高い建物に平ら道、色んな形の馬無し馬車は魔導具だろうか?
アーサさんに買っていってあげたら喜ぶだろうな、ギルドで金を引き出せたら何処で売っているか聞いてみよう。
それにしても、全然外壁が見えてこないな、もう1時間以上は歩いてるのに。
仕方ない、街の外に出るのは一旦諦めよう、さっき小さな林があったから、そこで野宿でもしよう。
俺は少しだけ引き返して、見つけた小さな林で野宿の準備をした。
木を利用して簡易なテントを作って場所を確保したら、適当に集めた枝に魔法で着火して焚火を起こす。
あとは、そこら中にいる鳩でも捕まえてご飯を食べたら、今日はもう寝て明日改めてギルドを探そう。
俺が情報収集を頑張ってくれたヂウとカカに、休憩がてら焚火の番を頼んで、鳩を捕まえに行こうとしたら声をかけられた。
「君、ここで何してるんだ、ダメだよ公園で勝手に焚火なんかしたら、ここはキャンプ場じゃないんだよ。
そんな変な格好して、悪いけどちょっと交番まで来てもらおうか」
公園やキャンプは何か分からないが、ここで焚火をしてはダメだったみたいだ。
声をかけてきた人達は揃いの制服を着ているし、この街の警備兵なのかもしれない。
ここは大人しく従っておくか、どうせあとは飯を食べて寝るだけのつもりだったし、警備兵ならギルドの場所を教えてくれるだろう。
そして俺は交番って所に連れて行かれ。
「それで?名前はヴラドなに?何処の国から来たの?身分証は?」
「だから、自分はただのヴラドです、貴族じゃないので姓はありません。
身分証明はAランクのギルドカードを渡したじゃないですか」
「あのね、ちゃんと名前言わないと帰れないよ、貴族とか変な事言っても誤魔化されないから。
こんな銀のカードを見せられても、何の身分も証明出来ないの」
「いや、ちゃんとギルドに確認して貰えば⋯」
「そのギルドってさっきから言ってるけど、そんなモノはないから、警察を馬鹿にするのもいい加減にしろよ」
何がどうなっているんだ、ギルドがない?これだけ魔導具が発展しているから、モンスターの対処もギルドの力が必要ないのか。
なんだろう、全然会話が噛み合わない、せめてここが何処かだけ聞いて、どれくらいかかるか分からないがリブタリアに帰ろう。
「ギルドがないのは分かりました、俺は自分の国に帰るのでここが何処で、どっちに行けばリブタリアに帰れるかだけ教えてくれませんか?」
「う~ん、何かのアニメのコスプレでなりきってるのかな?
ここは日本で、リブタリアなんて国はないよ、本当の事を言わないと、本当に今日は帰れないからね」
俺はその夜、日本という国を知って交番のお世話になる事が決定した。