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ハーミット  作者: 銀骨人
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玄人の復讐。

 ヴラドが日本の生活に慣れてきて、自分の代わりに初めて出勤してくれるのに合わせて、俺は前々から考えていた行動する事にした。


 朝、自分の部屋を出て行くヴラドを見送り、俺はヂウの力を借りて目的の場所に移動する。


 移動した先には、カカが先に待ってくれて見張っていた男の方を嘴で指し示す。


 カカに指し示された男を見て、俺はギリッと音が聴こえるほど強く歯を食いしばる。


 改めて顔を確認して、ぶり返した殺意を抑えるのに必死だった。


 男の名前は梅宮来栖うめみやくるす、家に強盗に入って爺ちゃんに怪我をさせ、妹に乱暴をした犯人の一人。


 今は働いているホストクラブから、朝まで飲んで帰るところだ。


 梅宮は店で人気のホストみたいだけど、裏で客に薬を盛ったり、他のホストに嫌がらせもしてる。


 別にホストに偏見はない、警察官として働いていれば真面目な?ホストだっている事を知っている。


 俺はヂウに頼んで、酔っ払って歩く梅宮を誰にも気づかれずに拐った。


 次は、大学のキャンパスで友人と楽しそうに会話をしている男。


 爽やかな好青年に見える竹内裕太たけうちゆうたも家に強盗に入った一人。


 事件の事を忘れ、楽しそうに大学生活を送る竹内の姿を見てイラッとする。


 竹内も反省なんてしていない、大学の友人数人と一緒に、何人かイジメで自殺に追い込んでいる。


 今も竹内と友人に囲まれて、大人しそうな男を人気のない場所に連れて行く。


 人気のない場所への移動は俺には都合がいい、竹内の友人は邪魔だから適当に何処かに捨てよう。


 イジメられるはずだった男が、突然自分以外が消えてポツンとしてるのを確認して俺も移動した。


 最後は、親の権力で何事も無かった様に名門大学に通う松井大悟まついだいご


 親は裏で色々と悪い噂が絶えない政治家で、大学を卒業したら親元で地盤を受け継ぐ為に勉強して、何食わぬ顔で政治家になる予定らしい。


 大学の勉強は適当で親の金で遊び歩いてる松井が、事件の事を反省してるとは思えない。


 俺の自己満足でケジメをつけるつもりだったから、3人共全く反省していなくて良かった、心置きなく復讐が出来る。


 最後の松井も、ヂウの力で誰にも気付かれずに拐い先に拐った2人の下に移動した。


 無事に3人を誰も来る事がない廃墟に拐って、3人が意識を戻す前にヴラドから連絡が来た。


 腕時計の時間を確認して、1日目の報告書を書いてる頃だと思い、ヴラドの話を聞きながら報告書の書き方を詳しく説明する。


 多分、報告書は建前で俺の事を心配して連絡をくれたんだと思う。


 適当にSNSをチェックしていた時に、見覚えのある場所で起きたストーカー騒ぎ、写っていた警察官がヴラドだと確認も出来た。


 偶然だけど、俺とヴラドの関係を知らなければバレる事がないアリバイが手に入った。


 俺の声色に緊張してるのを感じたのか、ヴラドが交代を申し出てくれる。


 ほんの少し、代わってくれたら楽な気持ちになった自分が情けない。


 『気持ちは嬉しいけどこれは俺がやりたい事だから、ヴラドが俺の代わりをしてくれるだけで十分助かってる』


 『わかった、でも本当に危なくなったら勝手に動くから』


 『ありがとう』


 優しいヴラドに心からの礼を伝えて会話を終え、改めて覚悟をする事が出来た。


 白い息を吐きながら自分の手を見つめる、今からする事は、普通に考えれば間違ってる事なのは分かっているし自己満足だ。


 でも、どうしても許せない気持ちがずっと胸の奥で燻っていた。


 けど、事件の犯人である3人が揃って死ねば、俺が疑われるのは間違いない。


 半端な正義感の世直しじみた事をしていたのも、手を出したくても出せない気持ちを紛らわしていたに過ぎない。


 そのお陰で、ヴラドと出会えた俺は運が良かったと思う。


 世の中には、法律で守られた理不尽に俺と同じ想いを抱いて我慢してる人が殆どなのに、復讐を出来る機会が出来て、それを否定しない理解者がいる幸運。


 俺はケジメをつける為に、意識を失っている3人を1人ずつ起こした。


 目を覚ました3人は、手足を拘束されて身動きが取れない自分の状況と、その原因である俺を確認して騒ぎ出す。


 ぎゃあぎゃあと煩い3人を見下ろして、出来るだけ落ち着いた声で話しかける。


 内容は俺が調べた3人に関係する悪事の数々、その中にウチへの強盗事件も含めて話す。


 3人が闇サイトで集まった強盗事件、そこでやっとお互いに顔見知りだった事に思い当たる。


 俺が自分が事件の関係者だと教えると、3人が3人とも終わった事件の事だ、ちゃんと償いはしたと言い張る。


 終いには、こんな事をして只で済むと思うなと逆に脅しをかけてくる。


 俺の中の罪悪感とか覚悟とかが、スッーと音をたてて消えて心が冷めていく気がした。


 最終的な結果は変わらないけど、少しでも苦しめて殺すつもりだったった。


 でも、俺はこんな奴らの声をどんな形でもこれ以上聞きたくなかった。


 転がる3人に近づいて、先ずは梅宮の喉にナイフを突き刺して切り開きながらナイフを抜く。


 勢いよく飛び出す血を浴びて、想像と違う生暖かさが気持ち悪いのに、残りの2人が更に煩く騒ぎ出すから気分まで悪い。


 早く静かにしようと、今度は涙と鼻水で顔をクチャクチャにした竹内にナイフを向ける。


 ザバァーッ、バシャバシャバシャ、ポタッポタッ。


 突然、大量の水を頭から浴びせかけられる、かけられた水の量と冷たさに一瞬息が出来なくて咳き込み、ナイフを落としてしまった。


 誰がこんな事を?と、怒り叫ぼうとした俺の先手をとって頭の中に声が響く。


 『少しは頭が冷えたかしら?、足りないようなら追加してあげるけど?』


 『反省した〜?』


 何故かカカとヂウが、水をかけてまで俺の邪魔をしてきた、床中が血の溶けた水だらけになった中で聞き返す。


 「何で俺の邪魔をしたんだ?反省って何の事だ?」


 『『はぁ』』


 珍しいカラスとネズミによる溜息が重なる。


 『本当に頭を冷やす水が足りなかったみたいね』


 『残念〜』


 カカとヂウがそう言うと、今度は上から水が降ってくるんじゃなく、小さな水滴が集まって俺の顔を覆ってしまう。


 「ゴボッ」


 咄嗟に反応しきれず少し水を飲んでしまったけど、なんとか息を止めるのが間に合った。


 『どういうつもり?まさか、この2人を助けようとしてる?』


 『そんな訳ないでしょ、それなら最初からクロトに協力なんてしてないわよ』


 『じゃあ、なんで邪魔をしたんだよ』


 『話を聞けるくらいには落ち着いたみたいね』


 『お説教〜?』


 カカの台詞と同時に顔を覆っていた水が床に落ちる、説教は嫌だけど理由を聞く事にした。


 『別に殺すなって話じゃないの、でも誰を殺しても自分の感情まで殺しちゃダメよ。

 貴方、最初の男を殺した時に何を感じた?』


 カカに言われて、自分がかかった血が気持ち悪いとしか思わなかった事に気づかされる。


 『気づいたみたい〜』


 『そうみたいね、まだ感情任せに殺しちゃうなら仕方ないって思ってたんだけど、あんな殺し方したらクロトの方が壊れちゃうわ。

 そんな事になったら、アタシがヴラドに怒られちゃうじゃない』


 『怒ったヴラドは怖い〜』


 カカとヂウの話を聞いて、怒ったヴラドを想像して背中がゾッとなる。


 『俺も怒られるのは嫌だな、止めてくれてありがとう。

 もう大丈夫だから、竹内と松井を始末してくる』


 カカとヂウのお陰で正気を取り戻した俺は、竹内に近づいてナイフを首に当てて頸動脈を切り裂く。


 梅宮の時とは違って、柔らかい肉を切る感触が気持ち悪くて、人を殺す不快感に吐き気が込み上げる。


 カカとヂウがいて、只の人間相手に危なくなる事なんてないから、ヴラドが心配していた「危なくなったら」は人を殺した時の俺の心の事だったんだと気づかされる。


 吐き気を我慢しながら松井も殺し、我慢しきれなくなって盛大に吐いてしまう。


 身動きの出来ない状態で必死に暴れ、泣きながら命乞いをする相手を殺すのが、こんなに辛いとは想像出来ていなかった。


 なんとか落ち着いた俺は、予め燃やす準備をしていた廃墟に火をつける。


 完全に廃墟全体に火が廻ったのを確認して、警察と消防に連絡をして廃墟を後にする。


 殺された3人が見つからないと、せっかくヴラドが代わってくれてアリバイを作ったのに意味がない。


 その為に、火事になっても他に被害が出ない場所にある燃えやすい廃墟を探した。


 全てを終わらせ家に帰った俺は、部屋で横になった途端に眠ってしまった、カカが魔法で眠らせてくれたみたいだ。


 どれくらい眠ったかは分からないけど、慌てたヴラドからの連絡で起こされて、俺は自分の部屋で妹の前でヴラドと一緒に正座をさせられていた。

ここまでが第1部的な感じです。


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