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ハーミット  作者: 銀骨人
11/13

ヴラドの初出勤。

 詐欺グループの事件から1ヶ月、この日俺は朝から緊張していた。


 日本に来てから目一杯知識を頭に詰め込んで、今日初めてクロトと入れ代わって出勤する。


 「う〜っ、こんなに緊張するのは初めてモンスターを討伐した時以来だ」 


 鏡の前で制服の身だしなみ確認しながら呟く。


 「初めて討伐したのってどんなモンスターだったんだ?」


 制服の着方を教えてくれて、準備を手伝っているクロトが俺の呟きに反応して聞いてくる。


 「こっちでも有名なゴブリン」


 「へぇ〜スライムとか、コボルトとかは?初心者が最初に倒すイメージがある」


 「スライムは初心者向きじゃない、強さはゴブリンと大差ないけど武器防具の被害が大きい。

 コボルトも初心者には無理だな、群れるのは一緒でも個体の強さも連携も全然違う」


 「そりゃゲームやラノベと同じはずないよな」


 「そうでもない、見た目とか生態とか類似点の方が多い、異世界転移や転生が流行ってるってのは本当なんだなって思った」


 「流行ってるってそういう意味じゃないぞ、でもヴラドの例があるから他にも転移者や転生者がいてもおかしくないのか」


 雑談をしながら出掛ける準備が終わる。


 「今日は、俺はヂウとカカと次のターゲットの下調べをしておくから。

 ちゃんと道は覚えたか?同僚の顔と名前、俺との関係性も大丈夫だよな?」


 「昨日何度も確認しただろ、大丈夫だ」


 「わかった、気をつけて行ってらっしゃい」


 クロトは部屋に残りして。


 「爺ちゃん、ひな、仕事に行ってくる」


 少し気恥ずかしいが、玄関でいつもクロトがしてるようにクロトの祖父と妹に声をかける。


 爺さんは居間から少し顔を出しすぐに居間に戻る、妹からは何の反応もない。


 クロトの時と変わらない反応に、少しホッとしながら外に出た。


 バイクに乗ってクロトの働く警察署まで移動する、バイクという乗り物は非常に便利だ。


 20分程度で警察署に着いて駐輪場にバイクを停める、正面からちゃんと来るのは初めてだな。


 挨拶をしながら地域課に向かう、資料で見た顔を確認して当り障りのない会話をした。


 緊張はしていたが、自分でも上手くクロトのフリが出来てると思う。


 朝礼が始まり、伝達事項を聞いて備品の点検を受ける、ここまでは順調だ。


 この後は同僚と一緒に交番に移動する、普段からクロトと一緒に働いている相手だから注意が必要だ。


 「それじゃ行くか、根津」


 ネズと呼ばれるの事に慣れてなくて少し反応が遅れる。


 「はい、今日もよろしくお願いします、丑山先輩」


 「はははっ、いつも元気が良いな根津は」


 良し、無事にバレずに接触が出来た、このまま約24時間クロトになりきってみせる。


 交番に着いて引継ぎと電話対応、その他諸々目立った事件もなかったのに、昼休憩で疲れた。


 ウシヤマとの会話が難しい、前回前々回の勤務と会話の内容は聞いたけど、それより前の事は曖昧に誤魔化すか、忘れてた事にするしか出来ない。


 「根津、大丈夫か?朝は元気そうだったのに何だか疲れてるな」


 「大丈夫です、そろそろパトロールに行きましょうか」


 「大丈夫ならいいんだけど、心配だから今日は俺が運転する」


 「ありがとうございます」


 正直ウシヤマからの申し出は助かった、車の運転も教えてもらったけど自信がかった。


 ウシヤマが運転するパトカーに乗って、周りを警戒しながら会話をする。


 「それにしても、この前の詐欺グループの件は大変だったよな」


 世間的にはもう終わった話題が、1ヶ月経ってもまだ話にあがる。


 知らない間に拘置所の中に、首謀者3人の死体が置かれていた警察としては、犯人が捕まるまでは落ち着かないだろう。


 怪しまれないように無難に返事を返す。


 「最近はここら辺も物騒になったよな、警察署の前に縛られた犯人が置かれるし、その犯人も素直に自供するのに自分を捕まえた奴は覚えてないって言うし」


 「不思議ですよね、脅されてるんですかね」


 「脅されてるって感じじゃないんだよな、本当に忘れてるっていうか、知らないっていうか。

 でも、証拠も揃って一緒に置いかれて自供もあれば捕まえるしかないもんな」


 「それはそうですね、何か犯人の目星とかついてるんですかね?」


 自分達への疑いはないと確認しているが、もしかしたら知らない情報もあるかもとダメ元で聞き返す。


 「何も、署内中のカメラにも怪しいものは写ってないし、夜番の人も誰も不審な人は見てないって。

 可哀想に夜番の人達は反省文を書かされたらしい」


 「それは可哀想ですね」


 聞けたのは想像と違う角度の知らない話に、申し訳ない気持ちが湧き上がる。


 「どうした?」


 沈んだ顔をしてしまった俺をウシヤマが気づかってくれる、それに大丈夫と答えようとした俺の目に、怪しい動きをする人が映る。


 「丑山先輩、ちょっと停めて下さい」


 急にパトカーを停めるようにお願いした俺に、驚きながらも丁寧な運転で周りの邪魔にならないようウシヤマはパトカーを停める。


 必要な手順とはいえもどかしい、パトカーが停車したと同時に飛び出すように降りて、さっき見た怪しい男の所まで俺は駆け出した。


 「えっ、速ッ!」


 牛山の呟きは駆け出した、ヴラドには聞こえていない、あっという間に反対側の歩道までたどり着く。


 パッと見は普通の男、でも濁った目で前を歩く女だけを見て歩いている。


 何もなければそれでいいが、何かあってからじゃ遅い、クロトも警察官になって事件が起きてからしか動けない現状を憂いていた。


 歩道を人を避けながら走り、目的の男が女まであと1mの所で声をかけた。


 「すみません、少しお話良いですか?」


 突然走って来た制服姿の警察官が話し掛ければ、当然周りの注目が集まる。


 「なっ、なんですか」


 慌てた男が少し大きな声で反応したせいで、男が跡をつけていた女がふり返る。


 男と目が合うけど特に反応がない、俺はてっきり2人は知り合いで、何かしらの恨みを男が女に対して持っていると思った。


 あの暗い感情を抱いたような濁った目は見間違いだったのだろうか?


 しかし、自分の事を知らない雰囲気の女に、何故か男の憎悪が膨れ上がり、俺を押し退けて女に飛び掛かる。


 「やっぱり、俺の事なんて覚えてないんだな、どうせお前にとっては沢山いる中の1人だ。

 でも俺は本気で好きで、応援していたのにィ」


 男の言ってる事を聞く限り、女の方が浮気をしたのだろう、でも男の手に鈍く光る刃物が見えた。


 痴情の縺れでの加害行為は日本では認められてないはず、俺は男の腕を後ろから掴み動きを止めた。


 「離せっ、この税金泥棒、こんな事よりももっとやる事が、お前ら警察にはあるだろう」


 腕を掴んだ俺に男が怒鳴りつけてくる、確かに俺も男女の関係に横から口を挟むのは気が引ける。


 「根津、大丈夫か?」


 追いついて来たウシヤマが、俺が掴まえている男と怯えている女を交互に見て。


 「良くやったな根津。

 すみません、少し話を聞かせてください」


 俺を労った後、女の方に声をかけた。


 「くそ、邪魔しやがって、くそ警官が」


 俺に掴まれた手を振り解こうと足掻く男は、全く振り解けそうになくて悪態をつく。


 俺達は応援を呼んで、男と女は別々のパトカーで警察署に連れて行かれた。


 「よく気がついたな根津、あのストーカーが事件を起こしてたら、また警察が叩かれるところだった」


 「たまたまですよ、丑山先輩が運転してくれてたんで、俺は周りの警戒がしやすかったですから。

 でもストーカーって、女の方が浮気してたみたいですし、どっちもどっちじゃないですかね」


 俺が両方悪いと答えると、ウシヤマは驚いた顔で俺を見る。


 「お前、気がついてなかったのか?あれって今人気のアイドルの卯崎(うざき)美羽(みう)だぞ」


 「そうだったんですね、気づきませんでした」


 「まぁそんな事もあるか、またSNSが五月蝿くなるな」


 アイドルとか言われても、一般常識とか他の事を覚えるのに手一杯の俺に分かるわけがない。


 交番への帰り道、パトカーでウシヤマの会話を聞き流し、報告書の書き方を教えてもらうためにクロト連絡した。

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