詐欺グループ壊滅させます。
図らずもカカによって双子のような俺とクロトは、俺が弟と決められまた末っ子認定されてしまった。
そんな話をしてから時間は22時、まだ人通りが多い中、俺はビルの屋上で最初の襲撃場所を見下ろしている。
クロトは車から見張っている、今回の移動はクロトが担当してくれている。
防犯カメラに映らない移動ルートを確保して、どうしても避けられない場所には、予めハッキングをかけて映像を差し替えている。
ヂウとカカ、俺が1泊した屋上で各グループの頭の捕獲と監視を担当してもらう。
俺も記憶の消去を毎回するのは効率が悪いので、ちゃんと身元がわからない様に変装している。
なんと、この世界では素手で触ったり、少しの皮膚や毛髪から、個人を特定する事が出来るらしい。
そんな能力があれば、向こうでの俺の仕事もどれだけ楽だっただろうか。
カメラとかいう道具て、過去の映像が見られるのも本当に羨ましい。
少し考え事をしているとポケットで携帯が震える。
『準備は出来たか?』
「こっちは準備出来た、いつでもいける」
『了解、始めてくれ』
4階建のビルの窓になんとか組とか書いてある、漢字はまだほとんど読めないから、もっと勉強をしないとクロトとしての生活にボロが出そうだ。
屋上の端に足をかけて目標のビルへ飛び移った、足から伝わる衝撃を全身のバネと魔力を使って殺し、音も無く着地する。
情報だとここの頭のアンドウは、この時間は最上階の部屋に居るらしい。
非常口からビルに侵入する、鍵は面倒なのでドアの隙間から閂を切って開けた。
静かに階段を降りて、アンドウのいる部屋も同様に閂を切って入る。
そこでアンドウは女との情事中だった、情事に夢中で俺に全く気づかないアンドウを一瞬で昏倒させ、女も声を出す前に昏倒させる。
『ヂウお願い』『はい~、あとはお任せ〜』
アンドウが影に沈み消えていく、気絶した女以外誰もいなくなった部屋を調べたが、証拠になりそうなものは何もない。
そのまま下の階に降りる、事務所にいた数人が上から降りてきたのがアンドウじゃなくて、驚き一斉に怒鳴りだす。
躊躇なく殴りかかってきた最初の1人を当身で跳ね返すと、残りの奴等が当たり前の様に拳銃や刃物を出してくる。
仲間が刃物で切りかかってくるのに、なんで拳銃を撃ってくるんだ。
俺が殴り飛ばさないと、前の男に銃弾が当たってたぞ?
銃声と怒鳴り声のせいで、下の階からぞろぞろ手下が上がってくる。
何も考えずに撃ってくる馬鹿から、俺に向かってくる馬鹿を守りながら倒していく。
全員を倒すのに時間はかからなかったけど、思ったよりも面倒で疲れた。
適当に証拠として使えそうなものをまとめて、ヂウの出してくれた影に放り込む。
さっとビルを抜け出しクロトと合流して離れる頃には、さっきまで居たビルの周りを警察が取り囲み、中に突入していく。
「拳銃や刃物は残してきてくれたんだよな?」
「問題ない、予定通り武器類だけを残して他の証拠になりそうなものは回収した。
アンドウの尋問が終わったら、アンドウと一緒に警察に渡すんだろ」
「安藤が本当に詐欺グループの元締だったら、証拠だけ警察に渡して、安藤には責任を取ってもらう。
どうせムショに入っても、何年かすれば反省もしないで出て来て同じ事を繰り返すだけだから」
「その為に裏で動いてるんだもんな、それじゃ次に行くか」
同じ要領で、ホンダ、タンバと詐欺グループの元締の疑いがある奴等の頭を捕まえて、他の奴等は武器と共に警察に後始末を押し付けた。
「一晩で3ヶ所なんて言わなければ良かった」
怪我ひとつなく体力にも余裕があったけど、精神的に本当に疲れた。
「大丈夫か、ちゃんと計画通り進んだから平気だと思ったけど、やっぱり無理をさせたか?」
「なんというか気疲れだな、何で彼奴等は味方に当たるかもしれないのに拳銃を撃つんだ。
当たったら怪我するし、下手したら死ぬんだぞ、刃物は刃筋も関係なしに振り回すだけだし。
Fランクの冒険者の方がまだマシだぞ」
「同士討ちしたって奴らの自己責任だから、ヴラドが助ける必要ないのに」
「それはそうなんだけど、出来れば血は見たくないんだよ」
『ヘタレ〜』『相変わらず、ヴラドは意気地なしね』
「五月蝿い!ヂウ、カカ」
ヂウとカカが俺の行動を誂ってくる、でも、本当の事だから何も言い返せない。
「ヘタレとか、意気地なしとか、ヴラドとイメージが合わないんだけど?」
俺が黙っていると、クロトが不思議そうに聞いてくる。
『ヴラドは戦うのは得意だけど〜殺すのは苦手〜』
『そうなのよ、血を見るのも苦手だったのよ、何年も頑張ってやっと大丈夫になったけど』
「へ?」信じられないと言いたげな顔で、ヂウとカカの話を聞いたクロトが俺を見る。
「そうだよ、俺は元々戦うのが好きじゃない、でも向こうの世界では弱い奴には厳しい世界だから。
幸運な事に俺を育ててくれたアーサさんは、その世界でも実力者のSランクまでいった人で、俺はその子供達と一緒に鍛えてもらった」
「ヴラドもAランクの冒険者だったんだろ、Aランクって、その誰も殺さないでなれるものなのか?」
戦うのが好きじゃないと告白した俺に、それでもクロトは気になった事を確認する。
『ヴラド頑張った〜』『モンスターは殺せないとダメだけど、人を殺すのは絶対に必要じゃないわ』
「ヂウとカカの言う通り、モンスターはどうしても殺さなきゃいけなかったから、色々と調べてなるべく苦しまないように殺した。
盗賊退治とか、護衛中の野盗、賞金首討伐とかは捕獲すれば問題なかったから。
後で処刑されたり、拷問を受けたり、奴隷として死ぬまで重労働を課されるから、間接的には殺したと変わらないけどな」
「そうだったんだ、もしかしてヴラドは直接人を殺した事はない?」
「流石にそこまで甘い世界じゃない、俺も何人かは人を殺している。
手加減が出来ない相手だったり、本当に救いようのない相手をこの手で殺した事はある。
向いてないから、本当は冒険者じゃなくてギルド職員になりたかったんだけどな」
「気にするなヴラド、俺なんて自分の自己満足で人を殺したし、これからも必要があれば殺すと思う。
でも殺さなくて良いなら、その方が良いに決まってる、無理に殺す必要はないんだよ、この世界はヴラドの世界とは違うんだから」
殺す事に忌避感を感じて落ち込んでる俺を、クロトは否定しないで慰めてくれる。
「それにヴラドは、この世界じゃとんでもなく強いから手加減する余裕もある。
必要なら殺せるなら大丈夫だ『殺せない』と『殺さない』は全然違うから」
「ありがとう」
「それじゃ、そろそろ3人を起こして話を聞くか」
話のきりがついた所で、クロトが気絶している3人に指さす。
気絶していた3人から話を聞いたら、クロトの予測通り詐欺グループの元締はアンドウだった。
ただ、残りの2人も今回追っていたグループとは違うが、似たような詐欺をしていて同じように救いようのない人間だった。
「元締1人だけを見せしめにって考えてたのに、他の2人も生かして帰すのはべきじゃないなんて。
殺すのは俺がやるから、ヴラドは無理しなくていいんだぞ?」
「気を使わなくていい、殺すのは好きじゃないけど、嫌な事全部を相棒に押し付けるのはもっと好きじゃない」
俺とクロトの会話を聞いて、アンドウ、ホンダ、タンバは身動きの出来ない状態で、泣きながら命乞いと罵詈雑言を叫んでいる。
その後、証拠の山と一緒に3人の死体を、誰にも気づかれないように警察署の拘置所の中に置いてきた。
何食わぬ顔で出勤したクロトは、大慌ての警察署で他の警察官達とバタバタと働いたらしい。
でも、そんな警察署の事件の真実は世間に発表される事はなく、詐欺グループの大規模逮捕としてニュースで報道された。