-92- 判断
うっかり判断を誤れば、その後の結果は惨憺たるものになるに違いない。だから、間違いがない的確な判断を上に立つトップの者は求められるのである。
牛川物産の最高経営責任者である餌倉に、この会社の命運をかけた判断が求められていた。今の状況が推移すれば、確実に牛川物産の経営は逼迫し、悪くすればヘッジファンドによるM&Aの危険性もなくはなかった。餌倉は一人、社長室の椅子の上で目を閉じ、どうしたものか…と思案に暮れていた。
「社長、そろそろお時間です…」
秘書室長の葱岡が目を閉じて沈思黙考する餌倉に恐る恐る声をかけた。
「おっ! もう、そんな時間だったか…」
餌倉は腕を見ながら呟いた。すでに夕方の五時が迫ろうとしていた。取引先である豚尾商産を食事接待する時間は午後六時からだった。餌倉は豚尾商産の実績に会社の命運を賭けていた。もしねこの判断に狂いがあれば、会社は確実に業績悪化の道を突き進むことは目に見えていた。ここは何が何でも豚尾商産との取引を円滑に進め、美味しい生姜焼きにせねばならないのである。
一年後の牛川物産である。餌倉の判断は正しく、業績は回復して会社の経営危機は回避されたのだった。
この場合はいい結果になったお話ですが、うっかり判断を誤っていれば経営は破綻し、会社更生法の適用ということになっていたでしょう。それにしても、よかった、よかった。^^
完




