-69- 薄氷(はくひょう)
薄氷を踏む・・という言い回しがあるが、うっかり薄氷を踏んでしまえば下へ落ちることになる。薄い氷の上を渡るときは一歩一歩ずつの確認が必要となる訳だ。とある地方の湖には御神渡りと呼ばれる現象があるが、まあ、神様だから渡れる訳で、人間などは、とてもとても・・だから、うっかりは許されないことになる。
無所属新人の候補として選挙戦に打って出た諏訪は、開票速報に一喜一憂していた。
「ど、どうだっ!」
「は、はいっ! 只今、接戦でして、相手候補とは数十票の差です」
「どちらが、どうなんだ!」
「先生が僅かに少ないです…」
選挙参謀は、心なしか気落ちした声で開票状況を選挙参謀が報告した。
「まだ、分からん! これからだっ!」
諏訪は言い聞かせるように自らを鼓舞した。
それから一時間が経過したときである。
「せ、先生~~っ!」
「ど、どうしたっ!」
「開票が終わりました。い、一票差で先生が…」
息絶え絶えで選挙参謀が唸った。
「一票差でっ?!!」
「ぅぅぅ…」
選挙参謀は涙を流し、咽んだ。
「ダメだったか…」
「は、はいっ!!」
「ぅぅぅ…」
薄氷の落選結果に、二人はハグしながら涙に咽んだ。だが、事実は逆で、開票作業にうっかりミスがあり、相手候補が落選していたのである。
当選しても落選しても、こんな薄氷を踏む選挙戦は嫌ですよね。^^
完




