-51- やり過ぎ
何ごとも、やり過ぎはよくない。うっかりやり過ぎて、元も子もダメにしてしまう場合が多々ある。
超有名画家のリック大獅子は今日もコテコテと訳の分からない抽象画を紙に塗りたくっていた。ただ、ピカソ的で好評だったとだけは言っておきたい。^^
「先生! そろそろ画商が買い取りに来られますが…」
マネジャー兼妻が、馴れない敬語でリック大迫に語りかけた。いつもの物言いでは来宅する画商に軽く見られる…と踏んでのリハーサルだった。
「ああ、そうかい?」
リック大獅子もそれが分かっているから妻のリハーサルに応じ、偉ぶって返す。画商に渡す絵は、ほぼ完成に近づいていたが、リック大獅子にすれば、どうも今一、納得が出来ない完成度だった。リック大獅子は、さて、何が足りないのかね? と偉ぶって考えた。偉ぶって考えれば考えるほど、どうしたものか腹が空いてきた。
「君ね、冷蔵庫に入れておいた昨日買った菓子パンを出してくれんかっ!」
絵は、やり過ぎるほど紙の上に塗りたくられた。だが、思うように完成しない。リック大獅子は何か食べれば、何が足りないか? が浮かぶだろう…と、お馬鹿にも考えた。^^
「はい、先生っ!」
妻も絵が売れないと、ミンクのコートの支払いが出来ないという別の理由もあり、リック大獅子を崇め奉るように言った。
妻が手渡した菓子パンを食べ、リック大獅子は人心地つくかと思われた。しかし、急いで食べたものだから喉に詰め込み過ぎて咳き込み、筆が不用意に動いてしまった。
「こ、これだっ!」
その絵を見て、リック大獅子は思わず叫んだ。理想の絵が完成した瞬間だった。
うっかりしてやり過ぎるのはダメですが、運よく上手くいく場合もあるようです。^^
完




