-5- 焦(こ)がす
調理していると、うっかり焦がすことがある。ちょっと目を離しただけだが…と、焦がしてから後悔しても後の祭りである。そうならないためには、うっかりしなければいいのだが、人はつい、うっかりして焦がしてしまうのだ。^^
麦川は料理教室で覚えたレシピどおり料理を作っていた。ようやく修了書を料理教室の講師から貰えた喜びに満ち溢れ、ルンルン気分で俎板の上の食材は上手い具合に捌かれていった。
「さて、そろそろ火にかけるか…」
IHコンロに乗せたフライパンに食材を入れ炒めにかかった麦川は、調味料を加えながらレシピどおりに調理を進めていった。料理が完成に近づき、ほどよい匂いがキッチンに漂い始めたとき、胸元に入れた麦川の携帯が突然、振動した。麦川は、うっかり火を止めず、携帯を手にした。
「ああ、麦川だ。何か八日[用か]、九日、十日」
『十一、十二、十三日』
「ははは…稲場か」
『ああ、どうだ元気か?』
「まあな…。で、なんだ?」
『明日の飲み会だが、行くか?』
「俺が行かなきゃ始まらねぇ~だろ?」
『それは言えるな。じゃあ、六時時頃に…』
携帯が切れたとき、麦川は、しまった! と感じた。キッチンに漂っていたいい匂いが悪い臭いに変化していたからである。麦川は慌ててIHのスイッチを押した。だがそのとき、鍋はすでに黒焦げで後の祭りだった。麦川の腕だめしは失敗したのである。麦川は、しみじみと自分の調理能力に疑問を持った。
麦川さん、また作りゃいいじゃないですか。調理能力とうっかりによる失敗は別の問題です。^^
完