-43- 花冷え
暖かくなり、冬が遠退いたな…などと、うっかりしようものなら、急に冷え込み、風邪を引いて体調を崩すことになる。花[俳句では桜の花らしい]が咲く頃、急に冷え込むことを花冷えと世間では表現する。花が冷たくなる訳ではない。気温が下がり寒くなるのである。^^
板岡と妻が名所の桜の下で花見をしていた。妻に用意させた料理の数々を食べ、美酒に酔い、桜を愛でれば、これはもう言うことはない。ところが、気温はかなり低く、冬の終わりのような寒さだった。酒の勢いで少し寒さは和らいだが、それでも肌に染みる寒さである。
「おいっ! もう帰ろう…。風邪、引いちまう」
「そうね…」
よく見れば人の姿はなく、花見をしているのは自分達だけだった。昨日のテレビ中継された画面では、大勢の花見客でごった返していたのだ。それが、次の日の今日は誰もいない。奇妙といえば奇妙だな…と板岡は思うでなく感じた。
「誰も見かけないな…」
「そうね…」
辺りを見回しながら妻が朴訥に返した。板岡と妻は桜の下に広げたビニールカバー・シートから立つと、片づけ始めた。そこへ、ヒョコヒョコと宮司が歩いて通りかかった。
「おやっ? お寒いのにお花見ですか?」
「はあ、まあ…。他の人をお見かけしませんが…」
「いや、今日は花冷えですからな…」
物好きな人達だとでも言うような哂い顔で言われては、自分達が馬鹿に見える…と板岡は思った。
「ははは…うっかりしました」
悪びれた板岡と妻は、早々と車へ撤収した。
お花見はうっかりせず、開花の見頃、気温、空模様などの好条件が揃っていることを確認してから出かけた方が、よさそうです。^^
完




