-38- もの忘れ
うっかりもの忘れをすることが老齢になれば増えてくる。-10-でタイトルにしたド忘れがレギュラー化すれば、物忘れとして本人が老人ボケを認識することになる。いわば、ド忘れが二軍とすれば、もの忘れは一軍のようなものである。^^
今年で還暦を迎えた三崎は、日曜の早朝、浮かない顔で物思いに耽っていた。というのも、夢に登場した人物の名前が思い出せず、目覚めたもののベッドから抜け出せなかったのである。その人物は過去、かなり面識がある人物だった。そんな人物なら当然、名前が浮かぶはずなのだが、三崎はうっかりド忘れしてしまったのだ。ア、イ、ウ、エ、オ…と、順に最初の文字を辿るのだが、どうしても思い出せない。思い出せないものは仕方がない。三崎はベッドを降り、パジャマから普段着に着替えると洗面台へ向かった。部屋の時計は六時半過ぎを示していた。洗面台で顔を洗い、歯を磨きながら夢に登場した人物の名を辿るのだが、どうしても思い出せない。
『まっ! 仕方ないか…』
何が仕方ないのか? よく分からないが、とにかく三崎は自分を納得させ、キッチンへと向かった。
キッチンでは妻がガーリック・トースト、ベーコンエッグ、温野菜のポトフをテーブルに乗せていた。
「…どうしたのよ、浮かない顔して?」
三崎の重い顔を見て妻が訊ねた。
「んっ!? ああ、まあな。ド忘れしたんだ…」
「なにをっ?」
「いや、なに…。ほれ、あの人、お前も知ってるだろっ?」
「だれよっ?」
「ほれっ、おとといも電話した人だよ…」
「ああ、鴨田さん?」
そのとき、三崎は夢に登場した人物の名が鴨田だったことを思い出したのである。
ド忘れをすることはよくありますが、思い出せてよかったですね、三崎さん。^^
※ 料理のポトフの名をド忘れし、検索を致しました。思い出せなかったので、もの忘れかも知れません。サッパリです。^^;
完




