-36- 急がば回れ
昔の人は上手く言ったものだ。コトを急いている場合、うっかり近道や楽をしてはいけない・・という戒めの言葉である。
髭川は急ぎの注文に追われていた。
「はいっ! 明日の11時までに幕の内を20ですね。はいっ! 確かにお代は昨日、お支払いに来られました。えっ!? 確か…生節さんとか…。はいっ! それでいいですか? はいっ! 車で取りに来られますか? どうも、有難うございます。では…」
電話を切った瞬間、こりゃ急がんと…と髭川は思った。髭川弁当店の従業員は髭川を含めても四名である。正確には、妻と二人の従業員だが、今までの注文は最多で15だった。
「顎田君、ネタは揃ってるね?」
「ええ、まあ…。ギリギリいけると思います」
「開始は明日の早朝で間に合うか…」
「はあ、なんとか…」
「いやいやいや、なんとかは危うい。深夜の2時から始めよう、急がば回れ・・というからね」
「分かりました。瞼さんにも言っておきます…」
「ああ、そうしてくれるか…」
作業の段取りが纏まり、二人はこの日のデリバリー配達にバイクで出た。
深夜の2時、顎川を含む妻、従業員2名は注文の幕の内弁当の製造にかかった。顎川弁当店は新鮮な食材をモットーにしていたから、結構時間がかかった。すべての弁当が完成したのは10時30分過ぎだった。ギリギリの完成である。うっかり早朝から開始していれば、間に合わなかった計算である。
急がば回れ・・は安全には欠かせないというお話でした。^^
完




