-26- メモ
メモするのはいいが、うっかり走り書いたばかりに相手に誤読され、とんでもない結果を招いてしまう・・ということがある。
とある講演会場である。客席に座る肉川は、美味そうなニンマリ顔で手帳に講演内容をメモ書きしていた。肉川が座る客席は後方だったから、メモする姿がそう目立つということもなかった。
「…でありますから、今後の先行きはナニになる確率が高いのでございます。無論、ナニにならず、アレとなる可能性も皆無ではございませんから、今後の些細な動静には逐一、監視の目を怠ってはなりません。以上、誠に簡単ではございますが、私の観点から述べさせて頂きました。ご清聴、有難うございました…」
会場は割れんばかりの拍手喝采の渦と化した。
『喧しいな…』
肉川は半ば腐敗しかけた肉のように臭い気分になった。メモを完全に書き留められなかったからである。しかも、そのメモは走り書いた余り、お世辞にも読める文字ではなかった。まあ、それでも、そのときは事なきで終わった。
その夜である。肉川は走り書いたメモを燈火の下でパソコンへ移し変えし始めた。三分の二ほど入力し終えたときである。
「んっ!?」
肉川は、ナニにならず、アレになる可能性が高い・・と、うっかり入力してしまった。それは走り書かれた文字の読みにくさから生じたミスだった。そして、出来がったデータが会社の最終方針として決定され、後日、大損失を会社に齎したのだった。
メモは分かりよい文字で完結に記すのが、うっかりミスを起こさない必須条件なのかも知れませんね。^^
完




