-22- 駅弁
篠塚は急に駅弁が食べたくなり、そのことだけで、ぶらっと家を飛び出した。もちろん、お金だけはバッグに入れて、である。ところが、駅に着くと駅に出入りする人が、まるで物珍しい動物でも見るかのように篠塚に視線を向けるではないか。
『んっ!?』
篠塚は訝しく思いながら、ふと自分の姿に視線を落とした。すると、出たのはいいが、寝起きのパジャマのままだったことに気づかされた。と同時に、篠塚は俄かに恥ずかしくなった。だが、別に悪さをしている訳ではないし裸でもない。篠塚は自分に言い聞かせるように目を閉じ、羞恥心を消そうとした。その甲斐あってか、十分ほど駅のベンチに座っていると羞恥心は少しづつ遠退いていった。篠塚は、『ファッションだっ、ファッションっ!!』と念じながらベンチを立った。駅弁を打っている駅までは数駅だった。
「物食まで往復一枚…」
「往復ですね? ¥860です…」
駅員は事務的に篠塚に言った。篠塚はバッグから財布を取り出すと支払って改札を抜けた。
しばらく電車を待ち、揺られながら篠塚は無事、物食駅に着いた。ところが、である。物食駅の構内で売られているはずの駅弁売り場は閉じられていた。[本日 休業]の小さな立札が掲示されていた。篠塚は、うっかりして駅弁屋の休日を確認していなかったのである。
過去の記憶だけに頼るのは、うっかりミスを起こします。確認を忘れず注意したいものです。^^
完




