-21- 裁判
人とはいい加減なものだ。あぁ~でもない、こぅ~でもないと主張し、被告側と弁護側が争った裁判の果てに出された判決が、うっかり見落とされた真実一つで冤罪を作ってしまうからだ。人が神仏ではなく人によって裁かれるのだから、当然といえば当然の結果である。被告側が鬼で弁護側が仏様で裁判長が神様なんかだと、まあこういう裁判なら冤罪は起きにくいのだろう。ただし、冥府十王庁ではなく冥府十三王庁で、という条件の裁判をお願いしたい。^^
尾豚は今まさに会社の人事部により裁かれようとしていた。毎年行われる異動前の呼び出し査定によってである。
「尾豚さん、あなたは給料以上の実績を、この会社に齎したとお思いですか?」
「はい、もちろんです…」
「そうですか。しかし、ここに一人の証言があります。お聴き下さい…」
人事部の異動査定官は冷静な口調で机上のボイス・レコーダーをONにした。
『ははは…冗談は休み休みに言って下さい。尾豚さんが、ですか? あの方は、言っちゃなんですが、生活防衛タイプのお方ですから、会社のためなんてことは、されやしませんよ。誰か他の方とお間違えなんじゃないですか?』
そこで異動査定官はボイス・レコーダーをOFFった。
「今の証言を聴いて、どう思われましたか?」
「どう? と訊かれましても…。私はただ飯を食うような男じゃありませんっ!」
尾豚がそう言っても、尾豚だけに裁判する異動査定官を説得させる力はなかった。名字が邪魔をし、餌箱の餌を食べているようにしか聞こえなかったのである。
「まあ、いいでしょう。ご苦労さんでした。お引き取り戴いて結構です…」
異動査定官は攣れなく突き放すように言い終わった。尾豚としては、俺もついにスライスされるのか…くらいの気分で裁判所ならぬ査定室を出るのだった。
尾豚さん、死刑判決で屠殺される訳じゃないんですから、まだいいと思いますよ。^^
完




