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-15- 速攻
速攻で攻めるのはいいとしても、うっかり墓穴を掘ることもあるから注意が必要だ。
とある大相撲本場所の解説席である。訊き上手なアナウンサーが、いい喉で流暢に解説をしている。ゲストは元大関の猪野熊親方である。
「どうなんでしょう? 全勝がストップしましたが…」
「今日は、ちょっと焦りましたかね。昨日までの押っつけが見られませんでした…」
「ということは?」
「そうですね。押っつけがないぶん、体を寄せられませんから相手はまわしを取りやすくなりますし、肩透かしや突き落とし易くなりますよね…」
「なるほど…」
「前へ出る形は出来てるんですが、今日は押っつけがなく、相手を土俵際で崩せませんでした…」
「で、負けたと…」
「そうです。昨日と同じような速攻ですが、気持が焦ったぶん、うっかり押っつけずに攻め急ぎ、土俵際で投げ飛ばされたんですね」
「優勝の可能性は?」
「本人が、この点を反省していれば、たぶん…」
猪野熊親方は語尾を暈しながら小さく哂った。
親方にも分からないでしょうが、私にも分かりません。^^
完




