表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/100

-10- ド忘れ

 老年でなくてもド忘れすることは、よくある。倉岡もそんな一人だった。

 行楽の春が巡ろうとしていた。倉岡は陽気に誘われてフラフラと旅に出た。家を出る前には、ある程度の行程を頭にイメージしていたのだが、ウキウキ気分が(こう)じ、うっかりド忘れしてしまったのである。その忘れた場所は、すでに動いている列車内だった。切符を見れば、毛並(けなみ)線の馬糞(まぐそ)駅までの切符だった。馬糞駅までは小一時間の距離だったが、その馬糞駅で下車してからの行動パターンを倉岡はド忘れしてしまったのである。

『まあ、いいか…』

 何がいいのか自分にもよく分からなかったが、とりあえず倉岡は馬糞駅で降りることにした。

『馬糞ぉ~~馬糞ぉ~~~鹿尾線は乗り換えですぅ~~~』

 鼻が詰まったようないい声で流れる駅員のアナウンスを聞きながら、倉岡は、はて? と頭を巡らせた。ひょっとすると、鹿尾線に乗り換えてどこかへ向かうつもりだったのか…。いや、それでは鹿尾線に乗り換えて降りる駅までの切符を買ってるはずだ。やはり馬糞で降りるか…と。

 馬糞の改札を出た倉岡は、とりあえず駅の待合所のベンチへ腰を下ろした。ショルダーバッグの中を何げなく探すでなく掻き回していると、行動のヒントになる一枚のチラシ広告が目に留まった。そのとき倉岡は、その後の行動パターンをすべて思い出したのである。倉岡は馬糞駅で販売されている駅弁を買いに出たのである。過去、遠方へ旅したとき、乗り換え前に買い求めたのが馬糞駅の構内販売されている駅弁だった。その駅弁の味がふと甦り、倉岡はフラフラと旅に出たのだった。要するに、駅弁を買い求めるためだけにうっかり飛び出た旅だったのである。^^

 倉岡さんのド忘れを思い出させた味覚は、相当、美味なものだったのでしょう。^^


                   完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ