-1- うっかり
人は神さまや仏さまではないから、いくら完成度の高い人であっても、うっかりミスを犯すことがある。これは仕方がないことで、あとに尾を引かないよう深く考えない方がいいだろう。^^
さて、この短編集では、そうした様々に引き起こされるうっかりを話していこうと思います。コーヒーか紅茶にスイーツでも食べながらお読み下さい。面白くない話は、読まなくても、いっこうに構いません。^^
とある市役所である。
「君、ちょっと…」
目と目が合った瞬間、課長席の魚之目は皹を手招きした。罅にすれば、しまった! という気分である。気分屋の魚之目は、誰にカミナリを落としてやろうか…くらいの苛立ち気分で職員席を見回したところだった。魚之目にはいい鴨が…、皹には天敵がっ! という訳である。^^
「は、はい…」
皹は、スゴスゴと猫に睨まれた子ネズミのように課長席へ進み出た。
「今日は、大丈夫だろうね…」
「何がですか?」
「昨日のアレだよ。ほれ…何だったかな?」
「何でしたでしょう?」
「…ああ、そうそう。監査委員報告書のコピー、二十部」
「それでしたら、きのう課長に帰りぎわ、渡しましたが…」
「そうだった?」
魚之目としては覚えが、まったくなかった。同僚の課長から携帯がかかり、話ながら皹からコピ-を受け取り、デスクへ入れたのをうっかり忘れていたのである。渡したと言われれば、カミナリを落とす訳にも行かず、魚之目は落雷させるチャンスを逸した。
このように、うっかりは上手投げで決めようとするのはいいが、詰めを誤れば切り返されるのです。^^
完