死者消失
衛隊に、アンギムへの攻撃をお命じください」
「馬鹿なことを!」
それはつまり、領主の名をもって、アンギムを粛清するというこを意味する。今はまだ、ニーデとアンギムの私闘ということになっているが。そのどちらかに領主が公的な形で肩入れをすれば、もうボスリムの内戦は鎮火できない炎に燃え上がる。
「……それはできないわ」
「ハルネ様! ご再考を!」
「くどい! 都市防衛隊を動かすつもりはないわ!」
ニーデが無言の圧力をハルネに向けていた。
ハルネはねばつく汗が背中に噴き出した。
謎を前にした肉体の反射的反応ではない。ハルネの精神のニーデに対する畏れだった。
それでもニーデは引かなかった。反らさなかったし、動かなかった。
「ニーデ。話は分かりました。下がりなさい」
ゆっくりと、ニーデに命じた。
ニーデはじっと主の顔を見上げて、静かに館から退去した。
ハルネが召喚したレプティスは、まだ来ない。やがて、今は都市の治安維持のために動けないという、そっけない返答が伝令を通してもたらされた。
ハルネが館で何もできずにいたころ、アンギムの一団はその日の夕方にはニーデらの包囲を突破、市内を嵐のように進むと、そのまま都市の城壁までたどり着いた。
本来、外敵から内部の都市を守るために城壁に張り付いていた都市防衛隊は、予想外に内側から現れた敵に不意を突かれ、それに呼応して外からアリアスタ軍が殺到して、強固な防御を築いていた都市防衛隊はあっという間に撤退に追いやられた。
アリアスタ軍と城壁越しに合流を果たしたアンギムの一団はそこに留まり、翌々日には彼らを城壁の内側に招き入れた。
こうして、難攻不落と言われたボスリムの城塞都市は、歴史上初めて外敵の侵入を許すことになった。
城壁が破られたことを聞いたハルネは、すぐさま降伏の使者を送った。
こうして、百年の独立を守ってきたボスリムは、ハルネの代であっけなく失陥した。




