第26話 本当の意味で侵入者
投稿順ミスしました。すみません。
こっちが25話からの続きで26話です。
王都に作ったダンジョンだけど、結果から言えばそれは大成功とは言わないまでも無事に成功した。大元の目的であるDPの回収も沢山の冒険者が訪れてくれて順調だし、当初心配していたダンジョンの仕様そのものについても冒険者の高い適応力のお陰でそこまで問題にはならなかった。
そんなわりかし順調な王都ダンジョン運営だったが……ある日、一つの問題が起こった。
「ダンジョンから放り出された?」
「ああ、そんな報告が入っているな」
それは王都にダンジョンを作ってから暫く経ったときのことだった。ローゼリアから王都の人達から見たダンジョンの近況について話を聞いていると、そんな話が出てきた。
「それって蘇生して外に排出されたんじゃなくて?」
「いや違うらしい。単にダンジョンを攻略しているときに突然、外の堀に放り出されたということだ。アリサは何か知っているか?」
「……心当たりは、ある」
「心当たりというと?」
心当たりというかほぼ間違いないと思う。死亡からの蘇生以外でダンジョンの外に放り出されることがあるとしたら、それ以外に考えられない。
以前、王都に来る前に森のダンジョンで実験したこと。ダンジョンの中で特定の行動をした者を強制的にダンジョンの外に放り出す仕組みの構築をやったことがあった。ローゼリアにも体験してもらったアレだ。その仕組みを今回の王都のダンジョンにも使っている。蘇生なんかもその仕組みを応用したものだ。
ダンジョンに入る冒険者にはネックレス型のアクセサリーを配布している。それが森のホームダンジョンでも実験したあのアクセサリーと同一のものなのだ。そしてこれには蘇生システムの他にも、もう一つ重要な役割を組み込んでいる。
それは……『ダンジョンに敵対的な意志を持つ者』へのカウンターである。
もっと正確にいえば対魔物などではなく、明確にダンジョンを破壊しようという意志を持っている人を強制的にダンジョンから排出する機能だ。
つまり、蘇生以外であのアクセサリーが作動するとすれば放り出された人物がそんな意志を持っていたとしか考えられないのである。
それをローゼリアにも説明する。
「なるほどな。だがアリサ、それだと単にダンジョンを攻略しに来た者の中にも引っかかってしまう者が出てくるんじゃないか? 敵対的な意志というのはモンスターに対する敵意なども判別してしまうんじゃないか?」
「それは心配無いと思うよ。ダンジョンの機能で、そこら辺はちゃんと分けてるから。だからそれが反応するのはあくまで、ダンジョンを破壊してやろうと思っている人だけ。もちろん瞬間的に、このダンジョンむかつく!みたいな感情から来る意志には反応しないように出来てるしね」
「はぁ~、ダンジョンとは便利なモノなのだな。そんなことまで出来るとは」
「それよりも、その機能が働いたってことははっきりとダンジョンにとっての『敵』が来たってことなんだよね。誰だろう……前に聞いたダンジョンの破壊を目的にしてる人達かな……?」
「今は新しいダンジョンが発見されたことで、この国には他国の人間もそれなりの数やって来ている。可能性としては十分に考えられるな」
この話を受けて、次の日私は王都ダンジョンに作った管理人室に籠って入って来る人間を観察することにした。ここであれば他の邪魔が入ることもないし、何かあった時にすぐに現場に駆け付けることが出来る。
管理人室といっても森のダンジョンと同じように、冒険者たちが入って来るダンジョンとは隔絶されている場所だ。そこでダンジョンの管理画面を開いて、ダンジョン内の様子を観察していると――
「この人かな……?」
早速とばかりに対象が監視の目に引っかかった。
今回、外に放り出す機能を一時的にオフにしている。その代わりに私のところへ直接通知が来るようにしていた。その甲斐あってすぐに発見することが出来たという訳だ。というか、一度侵入に失敗しているのにすぐに戻って来るのは想定外だったんだけど。
その人物の身形は何処にでもいそうないつもこのダンジョンを利用している冒険者たちと何ら変わりないように見えた。そこでさらに所属を確認してみる。
「……あれ?」
てっきりダンジョンを敵対視する集団の一味かと想像していたけれど、その所属が示すのは意外なところだった。
「ヴルムリント王国ラルドリント公爵家……? この家名って――」
確か前に王城で偉そうに話しかけてきたおじさんの家名も確かラルドリントだったはず。そしてローゼリアがこの国で警戒しなければならないと言っていた人物でもあったはずだ。
でも何だってそんなところの人がダンジョンに……?
しかもダンジョンに対する敵意を持って……?
疑問を解決する為に、ラルドリント公爵家からのお客様の様子を暫く観察することにした。
その結果、いくつか奇妙な行動をしているのが分かった。
まず一つ目として、宝箱に一切目もくれなかったこと。
他の冒険者であれば目の色を変えてでも手に入れようとする宝箱を興味が無いかのようにスルーしていたのだ。それも難解なトラップの先にあるものだけでなく、ただ歩いて行けば辿り着くことが出来るものも含めて全てだ。
二つ目に、ひたすら下の階層を目指していたこと。
ただこれについては変な行動とは言い切れない。上の階層を探索するよりも、より下の階層で探索した方が報酬がいいと考えるのは普通だろう。当然、私のダンジョンでもそうなるように設計している。それ相応の実力が伴っていることが前提だけどね。
そして最後に目についた行動の中で特に気になったのは、何かを探すように歩き回っていることだ。
下へ下へと進みながら時折変な道具を取り出して壁に向けるみたいなことを繰り返していた。拡大して見てみると、方位磁針のような道具に見えたので進むべき方向でも探っているのかなとも思ったんだけど。それから各階層に設置しているアイテム交換所をやけに長く遠目に観察しているのも気になったところだ。
ただ、これらの行動を見ていても何がしたいのか目的までは分からなかった。
別に積極的にダンジョンを破壊しようとしてる訳じゃ無いし。壁を掘ったり爆弾みたいなのを仕掛けているような様子も無かった。ただただダンジョンを下に向かっておりつつ、謎の道具を使って何かを調べているだけ。
「でもアクセサリーが反応したってことは、本質的にダンジョンに敵意を向けてるんだよなあ。せめてあの道具が何か分かれば少しは分かることもあるんだろうけど……」
結局その日、公爵家所属のお客様は探索できるだけダンジョンを歩き回り、降りられるだけ下に降りてダンジョンを後にした。
――事件が起こったのはその日の夜のことだった。
「んっっっ!!?」
夜、王城の自分に割り当てられた部屋でくつろいでいると突然、警報のような音が頭の鳴り響いた。
それは自分で設定したダンジョンに何か緊急の出来事があった場合に作動する警報で、その音を聞いて心臓が跳ねる思いをしながらも慌てて管理画面を開いて警報の原因を確認する。
すると――
「うわっ、なにこれ!?」
王都ダンジョンに十人近い数の侵入者がいて、その連中が第一階層のアイテム交換所を襲撃している様子がでかでかと映しだされた。
「まさかこんな時間に泥棒!?むしろこんな時間だからか!? と、取り合えず全員ダンジョンの外に放り出して――って、対象を指定できない!? もしかしてアクセサリー外してる!?」
悪知恵が働いたのか、侵入者たちは全員がダンジョンが配布しているアクセサリーを外していた。
確かにアレは蘇生措置を受ける為には必須だけれど、ダンジョンに出入りする分にはあっても無くてもいいものだ。盗みを働こうとする連中なんだから、警戒して外していたとしてもおかしくはない。
「泥棒の癖に小賢しいことを……! でも手動でもアクセサリーが無ければ手動で対象指定ぐらい出来るんだから!」
管理画面から一人一人にマーカーをしてまとめてダンジョンの外に放り出す。
『『『ぐわぁーー!?』』』
「ふぅー……」
堀に溜まった水に落ちていく泥棒たちの姿を見て、一先ずほっと胸をなでおろす。
色々慌てちゃったけど、あのアイテム交換所を襲撃されたとしてもあの連中には何も出来なかっただろう。何故ならば小屋のような建物には貴重品は何も置いていないし、奥の扉より向こうには私が許可した者しか入ることが出来ない。もし侵入できるタイミングがあるとすれば、スケルトンが奥から出てくるか引っ込んでいくその瞬間のみなのだ。それにしたって何の警戒もしていない訳じゃないしね?
「あー、びっくりした。取り合えずもう大丈夫、かな。まあいつかはこう考える人も出てくるかもしれないと思ったけど、こんなに早いとは……まったくもって心臓に悪い」
念の為、外の様子も確認すると連中は水の中から出てくるとダンジョンに戻ることはなくどこかへと走り去っていくところだった。もう一度侵入してくるようなことが無くて良かった……
「……のど乾いた」
それを見届けてから、喉の渇きに気付きコップ一杯の水をグイッと飲み干す。気が付けば口の中がカラカラで、自分でも思った以上に緊張していたらしかった。
「水うま……というか、そうだよね。アクセサリーなんて取り外しできる物だったら、あんな風に簡単に泥棒に入られちゃうんだ。侵入者対策はまた別口で考えた方がいいかもしれないなあ」
もしかすると、他所のダンジョンで魔物が配置されるのはそれが一番の理由なのかもしれない。
私もそっちに手を伸ばすべきなのかもしれないなー……
「…………それにしてもさっきの連中、昼間入って来た公爵家の人と関係あるのかな。ちゃんと所属を確認しておけばよかった。慌ててそんなこと気にしてる余裕無かったし」
もし昼間のあれが下調べだったとして、でもその日の内に襲撃してくるなんて幾らなんでも早すぎる気がしないでもない。だとすればあの連中は何の関係も無いただの泥棒だったということになる。
「う~ん、後者の方があり得そうかなあ? てことは他にも同じことを考える人がいそうってことだよね。これは早めに対策しなくちゃいけない」
一先ず侵入者を撃退、といっていいのか分からないけど無事に追い出すことが出来たので良しとしておこう。明日は新しく侵入者への対策を考えるとして、もう少し王都ダンジョンの様子を見てからじゃないと森に戻れそうにはなさそう。




