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第22話 王都のダンジョン

 夜の王都、電気の無いこの世界では人々が寝静まるのは地球よりもずっと早い。ただしそれは明かりを確保する道具が無いという訳じゃない。例えば蝋燭の火なんかは王城でも使われていた。ただ電気のように手軽に、かつ手頃に明かりを確保する手段が無いというだけ。


 日付が変わる少し前にはほとんどの家から明かりが消え、話し声すら聞こえなくなる。


 そんな昼間の賑わいとはかけ離れた光景の広がる王都の街並みを私達は歩いていた。


「さすがに、私もこの時間の王都を出歩くのは初めてだな……静かだ」


「それはそうでしょう。そもそも王女である団長がこんな時間に出歩いている事の方が問題です」


「騎士団の仕事では何度かあるじゃないか」


「それは野営時の見張りなどです、訳が違いますぞ」


 今私と一緒に歩いているのは、ローゼリアと第二騎士団からドルフェンさんとリュンさん、そしてホルスさんを加えた四人だ。私を加えると五人。


 なぜこんな草木も眠るような時間に王都を歩いているのかというと、その理由は……この王都にダンジョンを設置するためである。


 その知らせを受けたのは今朝のことだった。


 話があるからとホルスさんに呼び出されると、ダンジョン設置の準備が整ったと聞かされたのである。そして善は急げとばかりの今日の夜にやってしまおうとなって、今こうして夜の王都を目的地に向かって歩いている訳だ。


 夜の時間帯を選んだ理由はもちろん、私がダンジョンを設置する姿を人目につかないようにするため。ホルスさん曰く、今回私が作るダンジョンについては自然発生したものであると国民には説明するらしい。さすがにダンジョンマスターと協力して作ったとは言えないようだった。というかそんなことを言おうものなら、国上層部がおかしくなったんじゃないかと思われてしまう。


 そんな訳でこうしてわざわざ人が眠った時間帯に来ているのである。


「アリサ殿、もう一度確認しておきますがダンジョンの設置が三分程度で済むというのは間違いないでしょうか?」


「設置だけならそんなぐらいです。設計図とかから作るともっと時間はかかりますけど、今回はそれも既に準備してあるので」


 森の方に作ったダンジョンの設計図にほんの少し手を加えたもの。そしてこれまでにコツコツと溜めてきたアイディアを盛り込んだ新しい階層の設計図も用意してある。


 なんと今回設置するダンジョンの総階層数は――全五階層なのである。


 森に作った自分のホームダンジョンよりも大規模なダンジョンにするつもりだ。その為のDPはホームダンジョンに時々侵入してくる動物や魔物から、そして王都に来てからとある手段で集めたDPで何とか賄うことが出来る。


「畏まりました。では私達は護衛、防音・目隠しの魔法に集中しますのでよろしくお願いいたします」


「分かりました。なるべくすぐに終らせますね」


 そうして更に歩くこと十分ほど、私達は目的地に到着した。


 そこは建物と建物に囲まれた空き地のようになっていた。ただし両隣の建物は既に人は住んでおらず、店舗としての営業もしていない。この辺りは人の多い大通りには近いものの、如何せん道が狭いなど立地が悪い。ゆえに店舗には向かず、加えて建物の古さもあってそもそも人が生活するのにも適していないと書かれていた。


 そんな空き地の広さは横に約20m、縦に約10m程の長方形をしており、長期間放置されていたのか草が生い茂っている。


「このような形で申し訳ありません。下手に人の手を入れると、今回の件に勘づかれる可能性もありましたので」


「いえいえ、これぐらい大丈夫です。どうしましょう、設置するついでに整地しちゃってもいいですか? このままだと人が入って来ずらいと思いますけど」


「そうですね……ではお願いいたします。その方が発見されやすいでしょう」


「分かりました」


「それでは、皆さん。各自準備をお願いします」


 ホルスさんの一声で、それぞれが動き始める。


 まずホルスさんとリュンさんが魔法を使って音と人目からこの場所を隠す。その間に、万が一にも誰かが入ってきたりしないようにローゼリアとドルフェンさんが周辺を警戒する。そして皆がそれぞれの役割をこなしている間に、私がダンジョンを設置するのだ。


 全員の準備が整ったところで、ホルスさんからゴー合図が出る。


「アリサ殿、お願いします」


「はい――」


 ダンジョンの管理画面を開き、事前に準備していた設計図を開く。


 今回は初めてダンジョンを作ったときと同じように、増設ではなく完全に新設だ。そのためにまずはこの空き地をDPを使ってダンジョンの土地として買い上げなければならない。これによりこの土地はダンジョンマスターの力が干渉出来る土地となるのだ。


 思い返すと、最初にダンジョンを作ったときはこの手順を飛ばしてしまっていた。一応それでも出来ないことはなくて、その場合必要最低限の土地が自動的に買い上げられる。今回はこの空き地全体をダンジョンの土地とするので、こうして手動での範囲指定が必要だった。


 目の前の空き地がダンジョン所有の土地になったことを確認し、まずはそこらに生えている雑草を一掃する。


「「「っ!」」」


 一瞬にして雑草が無くなり開けた土地になったことで後ろから僅かに、驚いたようか呼気が漏れたのが聞こえた。


 続けて本命であるダンジョンの設置に移る。


 といってもやることはいつも通り、管理画面からボタン一つ押すだけである。既に設計図は完成しているので、階層の順番など最終チェックを行いボタンを押す。


 すると、すぐに空き地に変化がおとずれる。


 正直、この入り口の形をどうするかというのはそれなりに迷った部分でもあった。ホームダンジョンと同じように洞窟の入り口のような作りでいいのか、それとも別のデザインにするか。何せここは大自然の中にポツンっと佇むダンジョンではなく、人の息吹を感じる街中のダンジョンになるのだ。


 このダンジョンの所有者としてはやっぱり「このダンジョン、ダサくね?」とかは思われたくないところでもある。それに、王都にダンジョンを設置する目的は効率よくDPを稼ぐことにある。地味なダンジョンを作って人が集まらなかったら本末転倒だ。ダンジョンの入り口とはつまり家でいう玄関、そこで中身に対する第一印象が大きく決定される場所――


 ゆえに、このダンジョンは少々派手さを意識して作ってみた。


 空き地の地面が、文字通り沈む。そこだけ地盤沈下でも起こしたように、逆にその周りの地面だけ上昇しているかのように。それは数mほど進んだところで止まり、大きな窪地が出来た。ただしその形は真四角ではなく、その断面を見れば逆さにした台形のようになっているのが分かると思う。私から見て向こう側は垂直に沈み、こちら側はなだらかに斜辺になっているイメージ。


 すると今度は、その穴にどこからともなく水が流れ込んでくる。水は窪地の八割ぐらいまで貯まると、流入が止まった。


 けど、まだ変化は終わらない。


 池のようになったその場所の中央付近でぼこぼこっと泡音を鳴らしながら、水中から出現するものがあった。それは到底普通の人間が使うには大きすぎる巨大な扉であり、扉の出現に伴ってそれを支える地面と続く道も水中から現れる。


 少しして、私の目の前から池の中央の扉がある大地へと続く道が完全に形成された。


 そして最後の変化として、その扉を覆う屋根が現れて変化は止まった。


「うん、予定通りかな? あとは中も確認しておかないと」


「ア、アリサ殿。ダンジョンの設置はこれで終わったのでしょうか?」


「あ、ホルスさん。はい、これで完成です。念のためこの後、中の様子もチェックしますけど特に問題ないと思います」


「そ、そうですか……」


「?」


 ホルスさんの変な反応に首を傾げていると、周辺警戒をしていたローゼリアがいつの間にか傍までやって来ていた。


「お~! 森にあるのは地味だったが、こっちのは凄いなっ!」


「でしょ? やっぱりインパクトが大事かなって思って、自分なりに凝ってみたんだ」


「私もそこまで多くのダンジョンを知っている訳ではないが、こんな風にどこか荘厳な雰囲気を感じるダンジョンを見たのは初めてだ。ダンジョンというより、精霊の住まう神殿への入り口、という感じがしなくもないがな」


「……ちょっとイメージ違ったかな?」


「いや、いいんじゃないか? おどろおどろしい雰囲気よりも、こっちの方が民たちも受け入れやすいだろう」


「ならまあ、いっか」


 その後、遅れて戻ってきたドルフェンさんも合流して全員が集まる。未だに魔法は継続中の為、ここでの会話や音が外に洩れる心配は無い。この後の予定は、私とローゼリアとドルフェンさんがダンジョンに入って内部の確認。ホルスさんとリュンさんは王城に戻ってこの件を報告する手はずになっている。


 そしてダンジョン発見の流れだけどこっちは、王都の人達に自然に発見されるのを待つ。ただし、一日待って通報が無い場合は見回りの兵士さんが偶然発見したという形にする予定だ。発見後は一時的に一体を封鎖し、冒険者による内部調査を入れてから解放という流れを描いている。


 まあどこまで予定通りになるか分からないから、暫くの間は気が抜けない日々が続くんだけど。それに私も自分のダンジョンに人が入って来る経験が少ないので、そっちも手探りで進めることになる。いろいろと気合いを入れないといけないね。

 

 そうして予定通り、王城へ戻るホルスさんとリュンさんを見送った私達はダンジョンの最終チェックを行う。


 とはいえチェックといっても全ての仕掛けとかをチェックしていたら正直キリがない。それにダンジョンマスターの力を使って作った以上、ほぼ問題無いだろうからね。森のダンジョンでの反省点とかもしっかりと反映してるし。


「確か、この扉の触れていればいいんだったな?」


「そうそう。開け閉めするのが面倒だったから、触れればダンジョンの中に転送されるようにしておいた。でも長押し――じゃなくて、少しの間触れ続けてないといけないから事故で転送されるような心配は無いと思うよ」


 扉に触れてからおおよそ三秒後、私達はダンジョンの中へと転送された。


 送られた場所は森のダンジョンと同じ洞窟型の少し開けた広間だった。四方にはそれぞれ奥へと続く道があり、ここはどの通路を選んでも問題ない。一応ハズレ通路も用意してるけど、それはあくまで次の階層に続いていないという意味でのハズレだ。


「よし、それじゃあざっくり見回ってから戻ろうか。一応事前に資料は見せてたけど、気になったところがあればローゼリアもドルフェンさんも遠慮なく言ってね」


「任せてくれ。まあこのダンジョン自体がかなり特殊だからどこまでアドバイス出来るか分からんけどな」


「そうですな。しかし可能な限り力をお貸ししますぞ。これでも他国のダンジョンなどにも行ったことがありますからな」


「よろしく願いします!」


 そうしてダンジョン内を見て回った私達は夜明け前にはそれを終え、ひっそりとダンジョン内から王城へと帰った。


 その後、翌日といってもその日だったが、王都内でダンジョンが発見されたという知らせが王城にもたらされることとなった。

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