表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/28

第20話 占い師との出会い

 ローゼリアと王都散策中、歩き回った後の休憩と昼食がてらに立ち寄った飲食店。そこでローゼリアの知り合いらしいおばあさんと出会った。

 

 フード付きのローブで全身を隠した、何ともミステリアスなそのおばあさん。さすがに店内ということもあってフードを脱いでいたため、その顔はしっかりと確認することが出来た。


 歳を取って色素が抜けたのか白に近いグレーの髪色の中に、元々の色なのか藍色に近い深い青の髪がメッシュのように混じっている。それを三つ編みにして片側から前に流していた。顔立ちはかなり整っている方だと思う……というかこっちの世界に来てから会う人ほとんどが、老若男女問わずレベルが高い気がする。そういう世界なのかもしれないけど、非常に羨ましいことだ。


 そしてそのおばあさんだけど、顔にかなり目立つ特徴がある。

 

 それは右目の下に入れられた入れ墨だ。目の下から頬にかけて星をモチーフにしたような模様が入っている。何処かの部族伝統の入れ墨みたいな感じだ。その所為もあるのか、妙に迫力があるというかなんというか……正直、正面に座って視線を向けられると、少し……その、怖い。


「紹介する。この婆さんはこの国で昔から王宮お抱えの占い師をしている『ヨゲンナ』だ。私は普段、おばあと呼んでいるからアリサもそう呼ぶといい」


「アンタが勝手にそう呼んでるだけじゃ。わしは一度もそう呼ぶことを許した覚えはないぞ。お嬢ちゃんも普通に名前で呼んでくれればいい。わしもお嬢ちゃんをアリサと呼ぶ」


「えっと、じゃあヨゲンナさん、で」


「うむ」


 そう言って一服するヨゲンナさん。


 まさかこの人があのヨゲンナさんだったなんて……


 聞いていた話では、年齢不詳で王様でも何歳か分からないぐらいだと言っていたけど、普通におばあちゃんぐらいの年齢にしか見えない。せいぜい五、六十代ぐらいにか見えないけど、本当にこの人が……?


「しかし、まさかここでおばあに会うとは思わなかったぞ。私でも最近見つけた店だったのに」


「お主、わしの得意を忘れてやしないか? 美味い店に行きたければ、それがある場所を占えばいいだけの話じゃ」


「なるほどな。それでこの店に辿り着くとは、さすがはおばあの占いだな!」


「当然じゃ」


 ローゼリアに対してかなりつっけんどんな対応をしているように見える。でも当のローゼリア本人は特にそれを気にした様子もなく、むしろ楽しそうに会話している。私が言うのもなんだけど、王女様とこれだけ対等に話すことが出来るってことはよっぽどこの国でも上位の立場にいるんだろうということが窺える。


「そういえば、おばあの方は何処をふらついていたんだ? 城に戻ったら出ていった後だと聞かされて驚いたぞ。私が出立する前はかなり消耗していただろう?」


「ふんっ、そんなもんすぐに回復したわ。いつも通りちょっとした気分転換じゃよ、気分転換。まあ今回はそんなに遠くまでは行けんかったから、そこらをぶらついとっただけじゃ」


「そうなのか。じゃあこの後は城に戻るのか?」


「そうじゃのぉ……もう少し遊ぼうと思っとったが――」


 そこでふいに、ヨゲンナさんの視線が私に向けられる。


「気になることもあるから、戻るかな」


「……それって私に関係ありますか?」


「無いとは言えんな」


「そうですか……」


「そうじゃ」


「「……」」


 は、話が続かない……


 ただそこは私達共通の知り合いで、かつそれなりにお喋りなローゼリアが上手く場を持たしてくれた。天然でやっているのか、それとも空気を読んでやっていたのか。もし後者だったとしたら、とんでもないコミュニケーションマスターである。まあきっと前者だと思うけどね。


 その後は、やって来た料理を食べて程よく食休みを取ったところで私達はお店を後にした。


 ただ、てっきりヨゲンナさんも一緒に行動するのかと思っていたけどまだ寄りたい所があるからと別行動することになった。


 私たちは私たちで、午後から周る予定だった王都の名所などをローゼリアに案内してもらい途中で出店や出し物に目を取られつつ王都散策を満喫する一日となった。





 翌日、今日は先日約束した王様との二度目の会談の日である。


 時間は午後を予定していたため午前中はフリーになった私は、ちょうどいいからと今の内に自分のやるべきことを済ませることにした。部屋の中には誰もいないけど、外にはメイドさんが待機していたはず。念のために、誰も入って来ないように声をかけておく。


「あの~」


「はい、どうなさいましたか?」


「今から仕事?をするので私が良いっていうまで部屋で一人にしてもらえますか?」


「承知いたしました」


「ありがとうございます」


 そうして部屋の扉を閉める。


 誰もいない部屋の中で一人で座るには大きすぎる多人数掛けのソファに座り、ダンジョンの管理画面を出現させる。


「ええっと……うん、向こうの皆には特に異常は無いみたいだね。ああでもDPが少しだけ増えてる。てことは動物か何かが侵入したのかな? あとで話聞いとかなきゃ。でもアラームが鳴らなかったってことは、人間では無いはずだからそこまで心配はいらないか」


 管理画面から現在のダンジョンの様子、状態を確認していく。パラメーターなどデータ的なもの以外にも、監視カメラの如くダンジョン全体の様子を見ることが出来るから本当に便利な能力である。まあカメラらしきものはダンジョンにはついてないんだけどね。それについては私も原理とかは分からない。ダンジョンマスターの不思議な力ってことで納得してる。


 ニ十分ほどで現在のダンジョン全体の確認を終える。まだ三階層、そのうち一階層は私室だからそう時間もかからない。


「よし、それじゃあ行きますか。時間は、まあ一時間ぐらいで戻って来れば余裕だね。まあそんなにかからないと思うけど」


 私は荷物の中から取り出した一枚の布を床に広げる。そして幾何学模様の掛かれた布の中央に立ち、決められた文言をぼそりと呟く。


「――『帰還』」


 一瞬、視界にノイズが走った様な感覚を味わうと、そこはさっきまでいたヴルムリント王国の王城の部屋ではなくなっていた。


 見慣れた現代建築の内装と、テーブルの上に放り出しっぱなしの書きかけの紙とペン。

 

 そう、そこは紛れもない私が最初に作ったこの世界における拠点――ダンジョンの私室階層だった。


「何度試してこれ、もの凄く便利だなぁ。移動にあれだけかかった王都からここまで、一瞬で帰ってこれるんだもん。ま、お陰で長期間ダンジョンを空けなくて済んでるんだけどさ」


 これがあったから、私は王都への遠出に賛成することが出来たのだ。


 ダンジョンの機能と、ダンジョンマスターとして作り出すことが出来るアイテムの組み合わせ。いや、掛け合わせ。その効果は絶大であり、この通り夢の長距離一瞬移動の開発に成功した。開発したといっても凄いのはダンジョンマスターの力とアイテムの力で、私がやったのなんてほんのひと手間加えた程度なんだけど。雛型は最初からあったんだから組み合わせること自体は簡単なのだ。


 こんな調子で王都への移動の最中にも、休憩や野営時を利用してこまめにダンジョンに戻っていたのである。


 帰って来て早々に、ダンジョンにいる魔物たち全員に私が戻って来たことを伝える。すると、頭の中におかえいなさい的なニュアンスの意志が返って来た。まずは第一階層から順に回っていくということを追加で伝えてから、再び瞬間移動で第一階層へ飛ぶ。


 既に見慣れた第一階層の光景が、一瞬で視界に飛び込んできた。事前に他の生物が侵入していないのは確認済みなので危険は無い。ぐるりとその場で一回転しつつ辺りを見回すと、こちらにやって来るこの階層の担当者の姿を見つけた。


「……!」


「ただいま、スライムくん。またすぐに向こうに戻らなくちゃいけないけどね。それで、どう。何か変わったことはなかった? DPが増えてるから何かが侵入してきたと思うんだけど」


「……、……」


「えっ、魔物だったの!?」


「……」


「ああ、そんなに狂暴な奴じゃ無かったんだ。それで暫く放置してたら出ていったと。それってどんな魔物だったの?」


「……」


「四足歩行の獣って言われても、沢山いるからなあー……まあいいや。ともかく皆、怪我は無いんだね。なら良かったよ」


「……!」


 私が留守の間、ダンジョンの魔物達には仕事というには大げさかもしれないけどそれぞれ役目を与えている。例えばスライム、この子にはダンジョン周辺の探索を任せていた。前々から目が良かったりしたから外での探索向きだとは思っていたのだ。更にスライムという液体生物の特徴から外敵から姿を隠しやすいのもこの役目を任せたポイントだった。


 もちろん、あくまでダンジョンの周辺のみで遠くには行かないようにきつく言ってある。


 DPの件と合わせて、そっちの報告も聞く。暫くスライムとそんな感じで近況を話してから、今度は第二階層へ移動する。ちなみにスライムはまた外に探索をしてくると言って、さっさと行ってしまった。上がって来る報告は新しい果物とか木の実の発見がほとんどだけど、それはそれで重要な情報なので頑張ってもらいたい。

 

 すると第二階層に降りてすぐに、この階層を担当しているスケルトン達が勢ぞろいで出迎えてくれた。


「「「……!」」」


「こっちも変わりなさそうだね。まあ昨日の今日でそんなに変わる訳もないんだけどさ」


 スライムのときと同様、スケルトン達にも近況を聞いていく。まあ言った通り昨日聞いたばかりだから、実際聞くことはさほど多くないんだけど。


 スライム同様に、もちろんスケルトン達にも役目を与えている。それはこの第二階層の全体確認、所謂テストプレイをしてもらいデバックが必要な箇所を洗い出してもらっているのだ。如何せん始めての経験で仕掛けがまともに機能しないところも無いとは言い切れない。


 すると思ったよりも問題点の多いこと多いこと……想定と違った形で仕掛けが作動したり、他との兼ね合いで失敗していたり。迷宮の方は一先ずあれでいいとしても、道中にあるアトラクションの方に問題続出だった。


 こまめに修正を加えているので、今はかなり洗練されたと思っている。今後の参考になる部分も沢山あったし、何よりスケルトン達が各々視点が違う部分を指摘してくれるから本当に助かっている。


 そうしているうちに分かってきたのは、スケルトン達には各々に個性があるということだった。


 Tシャツの色選びのときも感じていたけど、それがより明確になってきた感じだ。例えば赤色を選んだスケルトン。やっぱり赤を選ぶだけあってか、このスケルトンがまとめ役のような振る舞いをすることが多い。例えば全員の話をまとめたり、話が暴走気味なやつを諫めたりなど。兄弟でいえば長男ポジションだね。


 他はというと、青色を選んだスケルトンはしっかりものだけど口数が少なく。緑色を選んだスケルトンはどことなく気弱な雰囲気が漂っている。また黄色を選んだスケルトンは自由な振る舞いをすることが多い。そしてピンク色を選んだスケルトンは、スケルトン達の中で一番テンションが高い。


 そんな感じでそれぞれに個性があるのがここ最近分かったことだ。


「じゃあこっちは特に問題無さそうだね。私の方はこれからまた王様と話し合いをするんだ。早ければもうダンジョンの候補地が決まってるかもしれないよ。だから色々不便をかけるけど、もう暫く待っててね。向こうでダンジョンを開けば、きっと沢山の人が来て忙しくなるからその充填期間だと思って!」


「「「……!」」」


 その後、スケルトン達と一緒に王都に設置するダンジョンの中身について相談したり、一度戻って来たスライムと採取してきた果物を食べたりして時間を潰し王都へと戻った。


 この後は王様との会談が待っている。自分の今後の為にも、頑張らないとね。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ