第2話 どうせ強制的
まず前提の話として私達が住むような一つの世界には、天使たちの集団?組織?から担当が一人付けられるらしい。ケルビムはその担当になれるほどの力は無いらしく、もっと上の力ある存在がそれに当たるのだとか。
そして当然のことながら私達の世界にもその担当の存在がいたらしい。もちろん私達が送り込まれようとしている異世界にもいる。
「担当と言っても世界の趨勢を見守るのがメインで直接手を加えることは滅多にしません。ですから観測者とか傍観者というのが基本スタンスなんです。ただしその担当者には一つ重要な仕事があります。それは世界が生成する『廃棄物』を処理して世界に還元することです」
『廃棄物』……?
「老廃物と言い換えてもいいかもしれませんね。詳しい説明は更に話がややこしくなるので省きます。その廃棄物を……簡単に言えばリサイクルするのも担当者の仕事なんです」
その廃棄物のリサイクルが今回の問題の根本に関わっていた。
始まりは地球のある世界の担当者が廃棄物の処理を怠ってそれが別の世界に流れ込んだことだった。廃棄物というからにはその字面通りそのまま放置しておくと良い影響は及ぼさないもの。それが別世界の担当者が与り知らぬところで自分の世界に流れ込み長期間に渡って放置されることになったのだとか。
ちなみにだがその出来事について私達の世界の担当者は全く気が付いていなかったらしい。故にその出来事の発覚が遅れてしまい結果的に廃棄物が別の世界で長期放置されることに繋がってしまった。
ではどの段階でそれが判明したのか?
それは廃棄物が流れ込んだ異世界で問題が発生したときだった。
「例えば皆さんが普段の生活で出すような生ゴミがありますよね。あれを長期間放置しておくと悪臭を放ったり、虫が湧いてきたりするじゃないですか。だからきちんとした手段でそれを処理しなければなりません。それが先程言ったリサイクルです。では放置された廃棄物がどうなるか? その答えがコレです――」
ケルビムがそう言うと空中に投影されるように何かの映像が現れた。
そこに写されたのはどこかの土地の映像のようだった。ただし、地面がどす黒く変色し同じく黒いタールのような沼が発生した土地。何故だか分からないけどその映像を見ているだけで嫌悪感というか、とてもおぞましい映像を見せられているような気分になってくる。
「ケルビムさん……これは?」
「これが廃棄物によって浸食された土地の映像です。元々が皆さんの世界から発生した廃棄物なので、特に気味悪く見えるはずですね。と、すいません。ちょっと刺激が強かったですね。映像はこの辺りにしておきましょう」
ケルビムに言われて初めて気が付いた。周りの顔を見回してみるとその顔は青ざめ中には今にも吐きそうな表情になっている人もいた。四人も自分の状態は分かり難いからか私と同じように周りの顔を見回してそれに気が付く。
「という感じで廃棄物が世界を侵食している、というのが現状です。そして侵食された土地はあのような状態になりとても人が住めるような環境ではなくなります。そして困ったことにアレは土地だけでなく生物すらも侵食しようとしてきます。これが今、向こうの世界で起こっている状況。その現状となります」
「「「……」」」
経緯は分かった。でも心のどこかで知らなければよかったと少しだけ思ってしまう。異世界が困っているから行ってこい、というだけの話なら全くその気にはならなかった。だけどその原因を作ったのが私達の世界を担当する存在だと聞かされて――どうしても関わりを感じてしまう。そんな世界の担当の仕事云々は自分の与り知らぬ領域だということは分かっている。だけどそれでも自分達の世界が関わっているという事実がどうしてもほんの僅かでも責任感を感じさせる。
ただ単に私が気にしいなのかもしれない。確かに昔からどっちかというと心配性なタイプで色々なことに気を遣ってしまう面はあった。そんな一面に押されてちょっぴり、異世界に行ってもいいかな?と思ってしまっている自分がいるのが嫌になる。
「さてここからが皆さんにお願いすることの本題になります。この廃棄物は元々は皆さんの世界から発生したもの。つまり異世界とは完全に異なる法則の元で生成された物質なんです。ですから異世界人に対処することが非常に難しい。ここまで言えば御察しかもしれませんが、皆さんにやっていただきたいのはこの『廃棄物』の処理になります」
やはりそう来たか。むしろそれ以外無かったとも言えるけど。
それにどうしてわざわざ現地の人間に力を与えるとかではなく異世界から人を呼ばなくちゃならないのかの理由も分かってしまった。
ケルビムが言う所の廃棄物の処理という言葉が差しているのは二つのことだった。
一つは大元である廃棄物を収集してそれをケルビム達のもとに送ること。もう一つは先程の映像にもあったような廃棄物によって汚染されてしまった土地。そこを元の状態に戻すこと。これらを異世界全土で行いスッキリ綺麗にして初めてお仕事完了となる。
「世界中でやれだ!? そんなの五人ぽっちでやって何年かかるんだよ!! 結局は報酬なんて関係無しに死ぬまで向こうで働けって言ってるようなもんじゃねえか!!」
「その点については安心してください。まずですが、廃棄物の件が発覚した時点で回収できる分は既にこちらで回収しています。皆さんに回収をお願いするのは異世界に残ってしまったその残りです。量としてはさほど多くはありません」
ケルビム曰く、ケルビム達が観測した結果その残りが存在するのは異世界の七カ所の土地。それらにある廃棄物を全て回収し土地と正常化したら依頼達成となるらしい。
私達は全員で五人いる。つまり一人が一つ担当したとして残りは二カ所。そう考えれば案外すぐに終りそうな気がしてくる。
「もちろん回収と土地の正常化に必要なモノはこちらで用意してあります。それらを使ったとしてこちらが想定している期間は――おおよそ三年。この期間は皆さんの動き方次第で長くもなりますし短くもなる、あくまで目安の値になります」
三年……長いと考えるか、思ったよりも短かったと考えるべきか……
「また皆さんが地球に帰られる際には報酬をお渡しする以外に、元の時代の元の時間に戻すこと。異世界で成長してしまった肉体を地球を離れた当時の状態に戻すことをお約束します。多少の時差が発生する可能性がありますが、数分程度に収まるので特に問題は無いでしょう」
確かにそれなら三年経ったとしての地球における実害は無いだろう。私達の感覚としては何年も家族や友達に会っていないことになるが、向こうにしてみればついさっき話したばっかりという形になる。
「そして最後に、こちらからの依頼で異世界に行っていただく皆さんに身を守る為の力を授けます「そ、それはつまりっ、チート能力をくれるってことですか!?」」
それにしてもあの男子学生は本当に懲りないな……
またケルビムの言葉を遮って睨まれている。
「……そうですね。異世界に適応できる体質を持った皆さんならではの方法ですけど。皆さんが最も力を引き出すことができ、かつちょっとやそっとで死ぬことは無いだけの力を授けるつもり……だと、上司が言っていました。まあチート能力といってもいいでしょう」
「そ、そうですかっ! や、やったぞ~……!」
確かに異世界で生きているだけの力をくれるっていうのは悪い話じゃない。
だけどそれよりももっと、ケルビムの話の中で気になるポイントがあった。それは死ぬことに関する部分。今の力を授ける話の中にもあったけど、ちょっとやそっとじゃ死なないと言っているってことはこの仕事の中で死ぬ可能性もあるということだ。
「ケルビムさん。私からも質問いいだろうか?」
「あなたは――獅子王玲於奈さんでしたね。はい、何ですか?」
「もし、私達がその仕事の最中に死んだらどうなる?」
獅子王玲於奈、そう呼ばれたのはあの王子様系女子学生さんだった。私が気になっていた部分と全く同じ部分についてケルビムに質問をする。
するとケルビムから返って来たのは当たり前と言えば当たり前の返答だった。
「それは死んだらお終いですよ。特に何もありません」
「っ……」
「――と言いたい所ですが、今回の件については担当者の不手際の尻拭いをさせようってんですから私達も極力配慮しますよ。まず死んだら終わり、ゲームオーバーなのは変わりません。ただし、残りのメンバーによって仕事が達成されたなら蘇生の上で他の方々と一緒に地球に戻します。その際の報酬については無しになりますが」
「ではその仕事達成前に全員が死亡した場合は……?」
「ふむ、それに付いては考慮していませんでしたね。後で上司に確認してみますが、恐らくは地球に帰すんじゃないですかね? ああ、でも早く帰りたいからといって全員自殺なんて止めてくださいね?」
ああ、地球に帰る手段としてはそんな方法もあるのか。まあ自ら進んで死のうとはさすがに思わないし、思っても実行できるだけの勇気が自分にあるとは思えないけど。
でも極限状態に追い詰められたら人間何するか分からないって言うしその可能性もあると言えばあるのかもしれない。
「さて、そろそろ覚悟は出来ましたか? まあ出来てなくても強制的に行ってもらうんですけど」
天使のそんな言葉を私達はそれぞれ受け止める。
獅子王さんは顎に手を当てて真剣な表情で考えを巡らせているのだろう。そんな姿もまるで一枚の絵画のように絵になってしまうんだから凄いと思う。でもその表情には悲壮感は無い。どちらかというと……好奇心?ほんの僅かだけど口角が上がっているように見える。
一方でずっと帰りたがっている茨木くん。彼は天使の話を聞き終えてからずっと俯いていてその表情を窺い知ることが出来ない。あれだけ帰りたがっていたってことは何かしら理由があるんだと思う。それが最低でも三年間は異世界で過ごさなくちゃいけないというのは耐えがたいだろう。
また、天使にチート云々を質問していたちょっと独り言が多い男子学生。まあ質問の内容からしてむしろこういった展開はドンと来いって感じなんだろう。今も虚空に視線を彷徨わせながらやっぱり独り言をブツブツと呟いては、時折笑っている。
そして最後の一人である中性的な顔立ちの男子学生。彼はずっと視線をキョロキョロとさせて他の人の顔を窺おうとしている。この点は私と同じだ。ただし向こうは表情が不安一色でどうしていいか分からないから他の人にすがりたいって感じの顔をしてる。私も全員を見渡していたからその時に目が合ったけど、何を言っていいのか分からなかったので取り合えずお辞儀しておいた。そうしたら泣きそうな顔になったけど、私に何かを期待されても困る。頼るんだったらあっちの強そうな茨木くんか頼りがいのありそうな獅子王さんにして欲しい。
一方で私はというと……正直行くしかないかと思っている。そもそもケルビムが言った通り積極的に行きたくは無いけどそもそもが強制なのだから。それに私達の世界からの廃棄物が原因でとう部分にちょっぴり責任感を感じてしまっているという理由もあるにはある。
それにだけど、心のどこかで異世界という言葉にワクワクしている自分もいるようだった。普通に生きていたら絶対に出来ないような経験が、本の中にしか無いような世界が待っているかもしれないのだ。
すると、他の面子も次々と天使に行くと宣言し始めるので私もそれに乗っかり行くと告げる。最後にはやっぱり中性的な男子学生が残ったけど、結局は皆の意見に流されたのか行くと宣言した。
「ご協力ありがとうございます。今この時より皆さんは私達の協力者となりました。それではこれから上司を呼んで協力者の皆さんが調査を行う為の――力の授与を行いたいと思います」
私達の異世界行が決定した……まあ最初から決まってたんだけど。




