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第19話 王都散策

 王都にやって来た翌日、私は朝からメイドさん達の手によって身支度をされていた。ダリアさんを筆頭に、昨日のお風呂で見知ったメイドさん達が部屋にやって来て、あれよあれよという間に為すがままにされていた。


 今日は王都に散策に行くからそんなに丁寧にしなくてもいいですと言うと、笑顔で「お任せください」と言われてあっという間に街娘風の衣装を着た異世界娘が鏡の前に出来上がっていた。自虐かもしれないけど、こういう服が似合うのはやはり私が庶民だからなのだろうか……? これがローゼリアだったら、絶対に隠しきれないオーラ的なもので高貴な生まれだと分かってしまうだろう。


 そこで、そう言えばローゼリアはどんな格好で来るのだろうと思って身支度を整えた足で案内された場所に向かうと、そこには――


「ん? 遅かったな、アリサ」


「……なんで男装?」


 見事に男装を着こなしたローゼリアが待っていた。


 元々の素材がいいことと、高身長なこともあって背景に花が浮かぶようなイケメンが出来上がっていた。長い髪までは隠しきれず一つにまとめるだけで済ませているけど、それでも女性っぽい雰囲気は形を潜めている。胸の主張がないからかもしれない。恐らくはサラシか何かで抑えてるんだと思う。


 私だって一瞬、そこに立っているのがローゼリアじゃなくてその兄弟か何かだと思ったぐらいだ。


 そんな風に思っていた人物がまかさのローゼリア本人だったことに呆然としている私に、ローゼリアは平然と男装している理由を語り出す。


「前は普通に街娘風の格好で出歩いてたんだぞ。ただ、それだとすぐに王都の民に私だとバレてしまってなぁ……それ以降はダリアに相談してこの格好にしているんだ。まさか王女が男装して歩き回っているとは、民も思わないだろう?」


 騎士の格好をする王女様はいるのに……?


「で、でもその目立つ赤髪でバレない? けっこう特徴的だよね?」


「そうでもない。まあ赤髪の人間なんていくらでもいるからな。大丈夫だと思うぞ」


「それって――」


 ただ王都の人達が気を遣って気付かないフリをしているだけなんじゃないか、と言おうと思ったけど止めておいた。どうせこの後、王都の街に出ていけばすぐに分かるだろうし。


 というか、ローゼリアや王様が持っているような目の覚めるような綺麗な赤髪は早々無いと思うんだけどなぁ。馬車の窓から王都の様子をこっそりと見たときにも、同じような髪色の人はいなかったし。あとついでに顔の造形までは誤魔化せてないから、目立つことには変わりないと思うんだけど。


 本当に大丈夫なのかと思って、念のためダリアさんに視線を向けたけど大丈夫とでも言いたげな笑みが返ってきた。てことは、やっぱりバレてないのか?……もうよく分からなくなったので、あまり気にしないようにしよう。


 衣装の問題はともかく出掛ける準備は出来たので、私達は王城からこっそりと出て王都へと繰り出した。といっても王城から少しの間は馬車に乗っての移動なんだけどね。聞いたところによると、王城に近づくほど静かなのは、やはり人家が多いかららしい。特に王城周辺には貴族の邸宅があるらしい。今日は王都散策がメインでお屋敷とかに用事は無いのでそっちはスルーという訳だ。


 そんな貴族邸宅が立ち並ぶエリアを通り過ぎ、馬車は王都を東へと向かっていった。


 ブルムリント王国の王都は面白い形、いや配置をしている。まず街の形はシンプルに円形だ。壁の内外を繋ぐ門が四方に配置されており、そこと中心地を繋ぐ四本の主要道が通っている。昨日、私達が入って来たのはその中でも南側にある門だ。そして王城は、そんな王都の北側に位置している。


 そして今私達が向かっている東側は、王都の中でも商売が盛んなエリアなのだ……というようなことを昨日の夜、ローゼリアから聞いた。ちなみに北側は貴族の邸宅、南側には平民の家、西側には工房とか工場みたいなのが多いらしい。


 馬車を進めていくと、徐々に外から聞える音が騒がしくなっていく。


「――そろそろ、馬車を降りて移動してもよさそうだな。おい、適当な場所で馬車を止めてくれ」


 ローゼリアが頭の傍にあった小窓から外の御者さんに声を掛ける。


「さて、出歩く前に確認だが。まずは適当に市場をぶらつくんでいいんだったな」


「色んなものが売られてるんでしょ? だったらここがどんな世界なのか丁度よさそうだしね」


「ふむ、そんなものか。まあ、期待していろ。ピークの時間は過ぎているからいくらか落ち着いているだろうが、ここの市がこの国で最も多くの商品が集まる場所だ。偶に運が良いと、面白い物に出会えたりもするぞっ」


「そう言われると、俄然楽しみになってくるよっ」


 程よく人気の少ない場所で停車した馬車を降り、そこからは徒歩で市場へと向かう。


 ローゼリアがあんなことを言った手前、かなり期待感が高まっていた。そうして離れていても少し先の方に熱気を感じながら歩を進めると――


「おおっ……!!」


 正直、市場と聞いてもあまりピンとくるイメージは無かった。そもそも日本に暮らしていたときに関わった市場なんて、観光ついでに立ち寄った豊洲市場ぐらいだったし。それにしたって、さすがにこっちの世界のイメージに合わないよなあなんて思っていた。


 そうして実際に見てみたそこは、通りの両側に出店や露店が身を寄せ合って立ち並ぶ、言うなればお祭り会場のような場所だった。多くの店と、それに比例するような多くの客たちが商品の取引をする光景が見える。野菜とか肉とかの食料品が多く目に入るけど、中にはよく分からない何かを店頭に並べている店も見受けられた。


「凄い活気だねっ……」


「だろう? 取り合えず適当に見て回ろう。ここから見える範囲で何か気になる店はあるか?」


「えーっと、それじゃあ――あのお店で売ってるの何か気になる!」


「よし! じゃあまずはあの店からだな!」


 最初に向かったお店は、野菜や果物を多く扱っているお店だった。地球で見知ったもとの酷似しているもの、若干似通っているもの、似ても似つかぬ摩訶不思議作物などなど。見ているだけで十分に楽しかった。きっと海外に行った時にスーパーを見てみると面白いっていうのはこういうことなんだろうなと思った。実際には海外旅行なんて行ったことないんだけど。


 ついには見ているだけに我慢できず、甘い果物だとお店のおばさんに言われたものを買って食べようとしたのだけど…………


「あっ……」


 そこでふと、そういえば私って無一文だったということを思い出した。ここまで気付かなかったのは何とも間抜けな話だけど、こっちの世界に来てからこの方、金銭の必要性が全く無かったから完全に失念していた。


 だって衣食住はダンジョンマスターの力でどうにかなったし、この遠出の間はずっとローゼリア達にお世話になってたし……


 ともかく、お金が無いことに気付き店主のおばさんの前であたふたしていると、横から「これで頼む」と手が伸びてきた。当然それはローゼリアのもので、硬貨らしきものをおばさんに渡して会計を済ませていた。ちなみに会計しているときのおばさんは、ローゼリアを見て頬を赤らめていた。気持ちは分かる。


 その後すぐ、お金に関して気が回っていなかったことをローゼリアに謝ったんだけど、


「気にするな。私はこれでも王女だからな。それに騎士団長もやってるからそれなりに稼いでいるんだ。今日の為の軍資金もしっかり用意してきたから任せておけ――と言うつもりだったが、出がけに父上の使いがこれを持ってきたんだ」


 そう言って、渡されたのはずっしりと重い両掌に収まる程度の麻袋だった。


「これは……?」


「今日の王都散策の為の、アリサの軍資金だ。すまないな、馬車の中で渡すのをすっかり忘れていた」


「……」


 いけない……お金の世話までされ出したら何かダメな気がする。人として何かダメな気がする。


 かといって、今私の手元にお金が無いのも事実だし……


「……それじゃあこれは借りておくことにする。ちゃんと資金を作るあてが出来たら、その時に返すから」


「別にそんなのいいんだぞ?」


「私が良くないのっ。でも、ありがとう。助かったよ。次の話し合いのときに王様にもお礼を言わないとね」


「ん、まあアリサのしたいようにすればいいさ。ちなみに私も今日の為にお小遣いを貰っている。今日はこれで王都散策を満喫するぞっ!」


「おおー!」


 そんな事がありつつも、私達は市場巡りを楽しんだ。


 大分歩き回って疲労を感じ始めた頃、そろそろ休憩しようかという提案を受けて私達は一旦市場を離れてローゼリアがおススメだというお店に立ち寄っていた。


 そこは雰囲気的には、女性に人気の喫茶店という感じで店内席の他にもテラス席があり、時間帯もちょうどいいのか既にかなりの人数で席が埋まっている様だった。


「む、少し出遅れたか」


「どうする? 他のお店にする?」


「う~ん……そうだな。確かにすぐに空きそうもないか。しかしこの時間だと大抵の店は一杯だそうし……ああ、あそこがあったか。よしアリサ、移動するぞ。少し歩くことになるが構わないか?」


「大丈夫だよ」


 そうして市場からさらに離れ、更には狭い路地裏を進み始めるローゼリア。


 若干不安になりながらも、まさか変なところには連れていかれまいと思いつつその背に着いていくと、ある一軒のお店の前に辿り着いた。それをお店と言ってもいいのか、かなりオブラートに包んで言い表すとすっごくアンティーク感漂う、だろうか。


 地球でも偶に街を歩いていると見かける、壁を植物の蔦が這っていて今現在使われているんだかいないんだか判断に迷うような建物があったが、それに近い。別に全体が植物に覆われているとかでは無いんだけど、中で人が暮らしているのか判断に迷う部分は同じだ。


「……ローゼリア、本当にここ?」


「ああそうだ。少しばかり外観は悪いが、そのお陰であまり人が寄り付かない。この時間帯でも空いている場所といったらここぐらいだろうと思ったんだ」


「へぇ、そうなんだ……」


「ふふふ、私も最初ここに来たときは不安に思ったものさ。でも入ったら――絶対に驚くぞ?」


 なにか企み顔のローゼリアは私に扉を開けさせて入らせようとする。驚くってまさかお化け屋敷みたいな光景が広がってるんじゃあるまいな、と若干疑いつつ意を決して扉を開けようとした。


「っ……」


 すると、扉に近づいて分かった。その僅かな隙間から美味しそうな匂いが漂ってきたのだ。何の匂いかは分からなかった。どこかで覚えがあるような、やっぱり無いようなそんな感じ。でもただ一つ言えるのは、それが食欲を刺激する美味しそうな匂いだということ。


 私はおそるおそる扉を開ける。


 そして、最初にローゼリアが言っていた通り、中に広がる光景を見て大きく目を見開いた。


「……!!」


 広さは個人経営の喫茶店ぐらいしかない。カウンター席と僅かにテーブル席があるのみ。窓はあるものの外から差し込む光は店内全体を照らすには全く足りていない。その代わりになっているのが、暖色系の明りを灯すランプの光だった。若干薄暗い感じはするものの、雰囲気としては悪くない。むしろこういう電気がない世界では、このぐらいが普通なのかもしれないし。


 外から見たときは廃墟一歩手前ぐらいにしか思わなかったけど、中に入るとその印象はガラリと変わった。古そうだという印象は同じだけど、外と違い中は、品のある古さというかそんな感じ。


「やはり空いているな。どうだアリサ、この内外のギャップには驚かされるだろう?」


「確かにこれは意外かも……」


「ほら、入れ入れ。この店は大抵のものは美味いが、私のおススメがあるんだ。アリサは苦手な味はあるか?」


「え? いや、度が過ぎる程じゃ無ければ特に好き嫌いはないよ。ああでも辛いのはあんまり得意じゃないかも」


「なら問題無いな。それじゃあ――」


「……どうかした?」


 店内を見回していたローゼリアが突然固まる。


「なんでこんなところに……」


「え、なに。どういうこと?」


「あ、ああすまない。知り合いがいたものだから」


「知り合い……?」


 言われて私も店内を見渡す。カウンターの中に店主らしきおじさんと、そしてもう一人。テーブル席に座っているローブを着たおばあさんの姿が見えた。さすがに店主を見てこんなには驚かないだろうから、あのおばあさんを見て驚いたってこと……?


 ローゼリアはつかつかと店内に進んでいき、案の定そのおばあさんの前で立ち止まった。


「こんなところで何をしてるんだ、おばあ?」


「わしが何処で何を食ってようが、わしの勝手じゃ。お前こそこんなところへ何しに来たんだ?」


「私は友人と昼食をな」


「友人……?」


 おばあさんの視線がじろりと私の方に向けられる。


 決して睨まれている訳では無いんだけど、その鋭さを感じる視線に思わず身体がびくりと跳ねる。


「……そうか」


「おばあ、私達もここ座ってもいいか? アリサにも紹介したいんだ」


「好きにしな」


 そうしてローゼリアの知り合いらしきおばあさんと昼食を共にすることになった。

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