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第18話 長い一日の終わり

「改めて、遠路遥々ようこそ来てくれた。私がこの国の国王でローゼリアの父の、アーレンハルト・ヴルムリントだ。此度はこちらに要請に応えてくれて感謝する」


「私の方こそローゼリア――様にはお世話になってますのでっ。清水有紗……こっち風にいうと『アリサ・キヨミズ』です。こちらこそ、お招きいただきありがとうございますっ」


 さっきのやり取りでいくらか緊張が解れたのか、王様の表情が柔らかくなってお互いにもう一度ちゃんと挨拶を行った。さっきまでは本当に緊張していたようだった。てっきりローゼリアのお父さんだから、豪快な人かと思っていたんだけど……大分イメージと違う感じだ。


「ああ、それからもう一人紹介しよう。この者が私の補佐をしてくれている、宰相の『ホルス』だ。国の中枢を担う者として今後の会談にもホルスには同席してもらうことになるから知っておいて欲しい」


「宰相の『ホルス・アーバイン』と申します。ダンジョンマスターであるキヨミズ殿にお会い出来て嬉しく思います。事前にお伝え出来ておらず申し訳ございませんが、この会談の場に私も同席することをお許しくださいますか?」


「あ、はい! 全然大丈夫です!」


「ありがとうございます」


 大真面目な顔で、恭しい態度を取られてしまったものだから驚いて声が裏返ってしまった。恥ずかしい……ホルスさんは、私のそんな失敗にも一切表情を崩すことなく淡々と対応してくれた。ちなみに、私が裏返った声で返事をした瞬間、横から吹き出すような笑いが聞こえたが気にしないでおく。


 それにしても宰相さんの名前がホルス、か……確か向こうの世界でもそんな名前の神様がいた記憶がある。エジプトかどこかの神様だったっけ? こっちの世界でもやっぱり何かしら意味のある名前なのかな……?


「……」


「どうかされましたか、キヨミズ殿?」


「――えっ!?」


「何やら私をジッと見ているようでしたので。何か気になることでもあったでしょうか? もしあれば、遠慮なさらず言ってくださって結構ですよ」


「あ、いえ、その……宰相さんの名前が……」


「名前?」


「えっと……私がいた世界にも同じホルスって名前の神様がいたなって思い出して。それでこっちの世界でも何かしら意味のある名前なのかな、って考えてたんです。すみませんでした」


「ほぅ、異世界の神の名前ですか。それは興味深い。ちなみにですが、こちらの世界だと私の名前は珍しくはあっても特に意味のある名前では無かったと記憶しています。これでも本を読むのが趣味で様々な本を読みましたが、これといってそうした記述を見たことはありません……しかし、両親に自分の名前の由来など聞いたことは無かったですね。折角ですから、今日帰ったら聞いているとしましょう――貴重なお話をありがとうございます、キヨミズ殿」


「そ、そうなんですか? あれ……?」


 こっちがジロジロ視線を向けていたことを謝ったはずだったのに、どうしてか逆に感謝されてしまっていた。というか、宰相さんの食い付きが想像以上だった。宰相って、つまりはめちゃめちゃ頭の良い人がなる職業?だよね。だからきっと、知らない知識への探求心が凄いのだろうと解釈した。


「ああそれから、私のことは呼びにくく無ければホルスとお呼びください。ローゼリア様の呼び方も慣れている方で構いません。公の場では注意して欲しいですが、ここには私達しかおりませんので」


「っ……!」


 さっきローゼリアのことを呼び捨てにしそうになったことに気付かれてたのか。この人からも出来る男の匂いがプンプンしてくる。ハーケンさんに通じるものを感じるね。王様が言った優秀だという言葉も誇張なくその通りなんだろうな、なんて上から目線なことを思った。


「じゃ、じゃあホルスさん、と呼びますね。私のことも苗字じゃなくて名前の有紗と呼んでくれて大丈夫ですよ」


「承知しました、アリサ殿」


「……キヨミズ殿、私もアリサ殿と呼んで構わないか?」


 ホルスさんとそんな話をしていると、沈黙を保っていた王様がそんなことを言う。もちろん断る理由も無いので了承する。


「はいっ。別に殿とかもいりませんけど、普通に名前で呼んでください」


「そうか、それは良かった。もちろん私の事も、娘と同じようにアーレンハルトと呼んでくれて構わないぞ――ところでアリサ殿、私も異世界については興味があってな?是非、異世界の話を聞かせて欲しいのだが「陛下、それよりも先にやるべきことがあるでしょう」――お前だってさっき話していたじゃないかっ」


「アレは私からではなく、アリサ殿の方から話してくれたのです。それに応えないのは失礼というものでしょう。ですが陛下のそれは後からでも幾らでも時間がとれます。まずは同盟に件について話を進めてください」


「ぐぬぬっ……口ばかり回りおってからにっ」


 まるで漫才のようにテンポの良いやり取りを繰り広げる二人の姿は、こちらも主従というより友人同士に見えた。ローゼリアとダリアさんの関係といい、この国の王族は何となくアットホームな雰囲気を持っているように思える。


「……仕方あるまい。その話はまた夕食の時にでも聞くとしよう。さて、アリサ殿。今日は顔合わせだけのつもりだったのだが、後ろに控えていた予定に空きが出来てな。時間に余裕が出来たのだ。そこでもしよければ、同盟の件について話せればと思うのだが、どうだろう?」


「私も、大丈夫です」


「そうか。では、少し話を詰めていくとしよう――」


 仕事モードに切り替わったのか、さっきまでとはまた違った雰囲気を纏い始める王様。その変化に場の空気が引き締められつつ、私とヴルムリント王国で結ぶ予定の同盟について話し合いが開始された。


 といっても、大まかな同盟への条件は両者ともに揃っている。それもあって話し合いはスムーズに進んで行った。


 私がダンジョンを作る土地について現在選定中だということで、一応候補となる土地の資料を見せて貰った。外を囲う壁の近くだったり、逆に中心地である王城に近い場所まで色々な場所がピックアップされていた。ただどこにしても決め手に欠けるということで、選定が難航していたところだったらしい。


 そこで私の意見も聞かせて欲しいと言われたので、それぞれの土地の中から自分がいいなと思った場所を選んで私側の希望を伝えておいた。私の希望も加味してもう一度選定を行い、数日中には決定させるとのことだった。


 それからもう一つメインで話し合ったのは、ヴルムリント王国が私から購入する品目についてである。

 ローゼリアの話では食糧不足の影響で穀物などの食料関連を取引するだと言っていた。その話は間違っておらず、やっぱり基本的は食料の購入がメインになりそうだった。


「かなりの量になるのだが、どうにかなるだろうか?」


「量を揃える事自体は問題無いんですけど、DP。つまりそれを出す為に必要なダンジョンのエネルギーが全く足りていない状態です」


「それは補充することなどは可能なのか?」


「方法はありますし、そこまで難しいやり方じゃありません。王都にダンジョンを設置して、そうですね……数日もあれば全部とはいかない間でも何割かぐらいは賄えると思います。全て揃えようとすると、一か月ぐらいは必要になると思いますけど」


「いや、それで十分だ。今すぐにどうにかなるほど民たちも畑も飢えてはいない。ただ、今後何かあったときの為に備蓄を確保しておきたくてな……しかし、この不作の原因が分れば一番良いのだが、何故かヨゲンナの占いでもその原因が見えてこない。まったく、何が原因なのやら」


「ヨゲンナ……さん?」


「ん、聞いていなかったのか?」


 会話の途中で登場した見知らぬ名前に首を傾げると、王様に代わってホルスさんが説明してくれた。


「ヨゲンナ様とは、古くからこの国に仕え支えて下さっている占い師の女性です。アリサ殿のダンジョンの出現を占いによって予言したのも、ヨゲンナ様なのですよ」


「その通りだ。それで私達がアリサのダンジョンを探しに出向いたのだからな。正直、最初は半信半疑だったから見つけたときは驚いたな」


「そんな人がいるんですか……」


 正直、占い師ってそんなに信用出来るのか?とか思ってしまうけど、こっちはそんなオカルトの代表格とも言える魔法が実在する世界だ。本当に『当たる』占い師がいたとして何ら不思議じゃない。というか少し、いや結構気になる人物だ。


「まあヨゲンナ様も御年ですから、占いの精度が落ちていたとしても仕方ありません」


「そうだなあ、私が物心ついた頃には既にいたし、前国王の父上も同じようなことを言っていた覚えがある。一体何歳なのか私にも検討がつかんからな。ははは、もはや化け物の類だなっ!」


「その言葉、後程ヨゲンナ様にそっくりそのままお伝えしておきますからね」


「やめろっ!? あの婆さんの恐ろしさはお前もよく知ってるだろうがっ!?」


 王様でも頭が上がらない人物……お祖母ちゃんみたいな感じなのかな? 老婆で占い師って、胡散臭いと本物っぽいが共存する絶妙なラインだよね。ますます会ってみたくなってきた。


「ヨゲンナさんもこの王城にいるんですか?」


「そうだな普段は王城で暮らしている……が、今はいない。ふらっと何処へ行ってしまった」


「えっ? それって大丈夫なんですか?」


「なに、心配はいらないさ。気分転換だと言ってふらふら出ていくのはよくあることなんだ。昨日一昨日から姿を見かけないから、まあ二、三日もすれば戻って来るだろう」


「……」


 それでいいのかと思わずにはいられないけど……まあ、長い付き合いの人達が大丈夫だと言っているんだから大丈夫なんだろう。


 少し話が脱線したところで、再び本筋に話を戻し同盟についての話し合いを進めていった。そうしてお昼過ぎぐらいから始めた話し合いが一区切りつく頃には、窓から夕陽が差し込む時間になっていた。


「――そろそろ、今日のところはここらで切り上げるか。思ったよりも長く話し込んでしまった」


「え……あ、もうこんな時間なんですね」


 王様のそんな言葉で窓の外を見ると、オレンジ色に染まった空が見えた。


「旅の後だったというのに済まなかったな。本当は簡単に打ち合わせをして終わらせようと思っていたのだが、つい話に熱が入ってしまって。一先ず今日はこれで終わろう。それで明日についてだが、今日話し合って決まったことをこちらで整理する時間が欲しい。申し訳ないのだが、次の会談の場は明後日になっても構わないだろうか?」


「一日ぐらいなら大丈夫です」


「ならアリサ、明日は私と王都散策でもするか? どうせすることが無いなら部屋に籠っていても仕方ないだろう?」


「う~ん、別にすることが無い訳じゃないけど……そうだね。折角だからそうしようかな!」


「ならば、こちらから護衛を何人か付けよう。アリサ殿は我々にとって重要人物だからな」


「父上、私がいるのだから護衛はいらないだろう?」


「そうは言っても、お前だけでは手が回らないこともあるかもしれないだろう。姿が見えないように護衛させるから、それで妥協してくれ」


「それなら、まあいいか。という訳だ、アリサ。後でどこか行きたい場所を決めておこう!」


 そんな感じで、王様たちとの会談一回目が終わった。

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