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第16話 王都の風景

 数日にも及ぶ移動の末、私達はヴルムリント王国の王都を視界に捉えた。


「あれが王都……おっきい……」


 ちょうど小高い丘があってそこから王都が見えているのだけど、まず全体が高い壁で囲まれているのが目に入った。これまでの街もああして周りを壁で囲んでいたけど、王都もその例に洩れなかった。故にここからだと街の中の様子までは分からない。


 一度、どうして街を壁で囲むのかと聞いてみたことがあった。


 返って来たのは「魔物の脅威から街を守るため」という理由だった。魔物の脅威というのは、元の世界の動物による獣害とは訳が違う。あの街を守っている立派な城壁すらも破壊してしまうような魔物も中にはいるらしい。それはもはや動物ではなく怪獣の類だろう。

 

 それを聞いて改めて魔物って怖い存在なんだな、と独り言ちたらローゼリアに「その魔物を操って、使役する存在こそがダンジョンマスターだろう」と呆れたような顔で言われてしまった。言われてみればそうかもしれないけど……なんか釈然としない気持ちになったのは記憶に新しい。


 話が逸れてしまった。とにかく、この世界の街は基本的に頑丈な壁で囲まれているのだ。そしてようやく見えるようになった王都は、道中で見てきた街の中で一際大きく立派な壁に囲まれていた。


「そうだろう? この国の主要な機関が全て集まっている場所だからな。他の都市にも見所は沢山あるが、やはり国の顔はこの王都だ。国の中では一番アレコレが充実しているんだぞ。そうだ、時間があれば私が王都を案内してやろう」


「ほんとうっ!? ありがとう、ローゼリアっ!」


「私以上に王都を知り尽くしている者なんて王宮には居ないからな。美味しいと評判のパン屋から、知る人ぞ知る隠れ家的飲み屋までバッチリ任せてくれ――それに私も、友人と一緒に王都を見て回りたいと思っていたのだ。期待しててくれ、アリサ!」


「飲み屋さんはともかく、美味しいものは興味あるかもー」


 ――あの夜、私は自分がこの世界の人間ではなく異世界人であることをローゼリアに話した。


 信じてくれるか、くれないか。嘘だと決めつけられてしまわないだろうか……そんな不安を抱えながら話した結果、ローゼリアは特に疑う様子も無く、その話を受け入れた。むしろ私の方が拍子抜けするぐらいにあっさりと信じてくれた。


 私の告白を聞いて、ただ一言「そうだったのか」と。自分の中のもやもやが解消されたような、どこか納得した表情でそう口にした。


 私は想像の斜め上の反応に、もちろん困惑した。驚くでもなく、ましてや嘘だと断じるのでもなく。ただ私が言った言葉をそのまま受け止めて、何かに納得したような顔をするのだから。だから私は次いで、嘘だと思わないのかと問い掛けた。


 すると返って来たのは、思いがけない答えだった。


 この世界には過去、異世界人がやって来たという記録が残っているらしい。それも、子どもでも知っている御伽噺として語られるほどに有名な記録として。話としては非常にシンプルで、悪い王様が姫を攫ってそれを異界からやって来た旅人が取返しに行くという王道のストーリー。この中で語られる異界からの旅人、これが異世界人というわけだ。


 一番有名なのはその話だけど、この世界の歴史を紐解いていくと必ずどこかに異世界人の記録を発見することが出来るんだとか。

 

 そんな話ケルビムからは全く聞いてなかったし、上司天使から貰った知識の中にも含まれていなかった。そんな何度目かも分からないことを思いつつ、そんな理由があったからこそ私の告白を割とすんなり受け入れることが出来たんだと納得もしていた。ローゼリア自身、あの時計を見たときから何となくそうなんじゃないかと疑っていたらしかった。


 なんと、その異世界人たちの影響は世界の文明が大きく発展を遂げる転機にもなったらしい。ゆえに私が持っていたオーバーテクノロジーの時計を見て、確かに異世界人なら――と納得できたとは本人の言葉。

 

 その日の夜は、朝日が差し込んでくるまで異世界に興味津々だったローゼリアに質問攻めにされた。朝ご飯の用意が出来たと使用人さんが呼びに来るまでずっと話していたぐらいだ。徹夜して脳が回っていなかった私が扉をノックする音に「どうぞ~」と応えたせいで、部屋に入って来た使用人さんに変な目で見られてしまったという一幕もあったんだけど。何かは分からないけど、アレは変な誤解をしている目だった。


 そうして徹夜明けだというのに元気いっぱいな様子のローゼリアは朝食をパクパクと食べて意気揚々と愛馬ローズに跨る一方で、私は眠すぎて半分寝惚けながら朝食を食べて倒れるように馬車に乗り込んだのだった。


 ただ、それを切っ掛けにローゼリアと打ち解けることが出来たのは良かったと思っている。休憩の時や、野営の時などはよくお互いの世界のことについて話したり聞いたりした。お陰で私もある程度、こっちの世界に詳しくなれたと思う。特に王都の飲食店については大分聞かされた……


 ちなみに今私は馬車の窓から顔を出しながら、ローゼリアは馬上から話をしていたところだった。


「さて、そろそろ王都に到着するな。アリサ、王都に到着してからの行動は頭に入っているな?」


「王城に入ってすぐに王様と会うんだよね。そこでお互いに顔合わせと挨拶をして、夜は一緒にご飯を食べるんだっけ。緊張するなあ……」


「そうだ。まあそこまで身構えることは無い。父上もそうだし、王宮の者たちは気の良い連中ばかりだからな。多少の無礼があっても笑って流してくれるだろうさ――ああ、ただ……」


「ただ?」


「一人、注意して欲しい者がいるんだ。国の大臣を務めている者の一人なんだが……最近、妙な動きをしている男でな。詳しくはまた後で話すが、そういう者もいるということは頭に留めておいてくれ。アリサは人が良いから、誰にでもついて行きそうだからな」


「気は抜くなってことね。ていうかそこまでチョロくないから大丈夫っ」


「まあ基本的には私の近くにいれば何も心配することは無い。大船に乗ったつもりでいてくれ」


 ローゼリアにそんな頼もしい言葉を掛けられつつ、やっぱり緊張はしてしまうもので。だってこれからこの国のトップ、王様に会わなくちゃいけないのだ。必要なことだと分かってはいても、出来るなら遠慮したいと思ってしまう……まあ王女様を呼び捨てにしている時点で何言ってんだって話かもしれないけど。


 そうして進むこと暫く、遂に王都の入り口門にまでやって来た。


 沢山の人や馬、馬車が並んでいる門が見えたけど私達はその列に並ぶことなく横を素通りしていく。馬車の窓からこっそりと外の様子を窺う。窓はカーテンが閉められるようになっていて、その隙間から覗いていた。


 並んでいる人達は本当に様々な様相をしていて、でもどの人がどんな理由で並んでいるのかまでは分からなかったんだけど。騎士みたいに鎧とかを着て武装している人や、身軽そうだけどかなり汚れた服装をしている人。私が乗っているのとはまた違う形の屋根付きの馬車を押している人や、リヤカーみたいな馬車に野菜とか色々を乗っけている人。


 それを眺めながら、あの人は農家なのかな、あっちの人は商人なのかな。向こうの人は旅人か吟遊詩人なのか、こっちの人は冒険者なのかもしれない。なんて答え合わせの無い一人クイズ大会をして楽しんでいた。


 途中で気付いたのは、その人たちの視線が目立つ馬車ではなく私達一行の先頭に集まっているということ。そして当然、この一行の先頭を馬に跨り進んでいるのはローゼリアだった。その姿を見た誰もが嬉しそうな顔をしているのが印象的で、この国でのローゼリアの人気の高さが窺える。


 列を素通りした私達は、利用している人がほとんどいなかった門の隣の一回り小さめの門にやって来た。そこはきっと王族とかVIP専用の入り口何だろうと思う。ローゼリアがやって来たのを見た門番の人が、すぐさま門を開けて通してくれた。顔パスとはさすが王族である。


 そして遂に……私は、ヴルムリント王国の王都にやって来た。


 まず、印象的なのは馬車の中にいても聞こえてくる人々の声だった。何を言っているのかまでは聞き取れなかったけど老若男女、様々な声が耳に入って来た。どこからか歌と楽器を演奏する音まで聞こえてくる。あれがローゼリアに聞いた吟遊詩人なんだろうかと想像した。

 

 窓の外、馬車が通れるぐらい大きな道の端を沢山の人達が行き交っていた。


 その中でもっとも目を奪われたのは、人間以外の種族が歩いている姿だった。


 例えば、人間の身体なんだけど頭には動物の耳があったりお尻には尻尾が付いている人達。一口に耳と尻尾と言ってもその種類は多様で、髪色と同じで毛色に個人差があったり、明らかに違う種類の動物のものだと思われる耳や尻尾の人達もいた。

 それでいえば他にも、動物がそのまま服を着て二足歩行をしたような姿形の人もいたり、ハーフリングのリュンさんと同じように耳に特徴がある人もいた。


 元の世界では、とある国がその住んでいる人種の多さから人種のサラダボウルなんて表現で呼ばれることもあった。この国はきっとそれ以上に沢山の人種、種族が暮らしているんだろうということがちょっと見ただけでも伝わってくる。同時に本の中でしか見たことが無い種族を見られたことに、私はこの後に控えるイベントへの緊張も忘れて興奮してしまっていた。

 

 王都の中を暫く進んでいると、次第に人の数が少なくなっていった。

 

 門の近くが一番賑わっていて奥に進むにつれて騒がしい声は遠くなり、人の通行も減っていった感じだ。察するに、こっちの方は住宅地なんだろうと思う。門の周辺がいわゆる商店街的な場所で、内側に行くほど住宅が増えていくみたいなイメージ。多分だけど。


「……アリサ、これから王城に入る。私が合図するまで馬車から出るんじゃないぞ」


「……分かった」


 馬車に近づいてきたローゼリアが小声でそう伝えてくる。これから本当に今でも王様が住んでいる、謂わばバリバリ現役のお城だ。見学とかで開放しているアミューズメント施設のお城とは訳が違う。それにさっきローゼリアが言っていたように、警戒しなくちゃいけない相手もいるらしい。ここから先は一層、気を引き締めていかないと……


 カーテンの隙間から顔を覗かせるのを止めて、音だけで外の様子を窺うことしばし。誰かが何かを言っているのは聞こえるけど、その内容までは分からずもどかしさを感じる。ただ、声音からして怒ってるとか何か問題が起こっているような感じじゃないことだけは薄っすらと察せられた。


 時間にしてみれば十分程、体感的には三十分以上経ったように感じられた頃。馬車の扉をノックする音が聞こえてきた。それと同時に外から私を呼ぶ声も聞こえてきた。


「アリサ、着いたぞ。もう降りて来て大丈夫だ」


「ちょっと待ってね。すぐ開けるから――」


 私は何かあった時の為にと施錠していた鍵を開けて、扉を開く。


「改めて、私の生まれ育った国へようこそ。ここがヴルムリント王国王都、その中心である王城だ」


「わぁ…………!」


 目の前に現れたのは、白亜の巨城だった。


 左右に首を振らないと端まで見れない程に広く、そして大きい。全体的に白のカラーリングで所々、鈍色に汚れている部分もあるけどむしろそれがあることに威厳を増しているようにさえ思える。さらに天辺を見ようと思ったら、顔を大きく見上げる必要があるほどに高い尖塔があった。


 これが本物のお城かと、そう思わされてしまうほどの迫力と圧倒的な説得力があった。


「すごいっ……! これがお城! ああもう、カメラとかがあれば絶対に写真撮ったのにどうして準備して無かったんだろうっ。もう今作っちゃえば――」


「おっと、何をしようとしてるのか分からないが取り合えずは後にしてくれ。まずは王都にいる間に滞在してもらう部屋に案内して、それから早速謁見だ。ほら行くぞ」


「ああ~~~~……」


 絶対に後で記念写真撮ろう、とそう心に決めながらローゼリアに引っ張られて私は王城へと入城を果たした。

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