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第13話 初めての遠出が決まる

 テーブルの上に出した飲み物とお茶菓子を飲み食いしながら王女様と話を続ける。ちなみに、王女様たちに出しているのは昨日と同じ紅茶だけど私の方はコーヒーにした。もちろん理由は眠気対策である。


 本当は徹夜なんてする気は無かったんだけど……あの首飾りを作るのに少し時間が掛かってしまったという理由もある。だけどその後、仕掛けを作るのが楽しくなって今必要じゃないアレコレまで設計したのが徹夜の主な原因だったりする。こんな情けない理由で会談の時間を変更するのも、本当の理由を言うのも恥ずかしいので王女様たちには黙っているけど。


 そんなことを内心では思いつつ話を進めていると、ふいに王女様の視線が私の手元をじっと見つめる。


「なあ、アリサ殿。さっきから気になってはいたのだが、その黒い液体は何なのだ? 香ばしく良い匂いがするのだが、どうにも嗅いだことが無い匂いなんだ。」


「これですか? コーヒーっていう飲み物なんですけど、ヴルムリント王国には無いんですか?」


「少なくとも私は知らないな。お前たちはどうだ?」


 王女様が話題を振ると他の騎士の人達が首を横に振る中、真面目そうであまり表情の変わらない騎士の人、確か名前は……ハーケンさんが答えた。


「南方にある国の中でも一部の地域で、似たような飲料が飲まれていると聞いたことがあります。実際に飲んだことはありませんが、何でも豆から作る茶で炭のように真っ黒な色が特徴的だとか。それから味はとても苦いと」


「そうなのか、アリサ殿?」


「えっと、確かにコーヒー豆という豆を焙煎して細かく潰したものから作ったのがコレです。確かに味も苦いですね。慣れると美味しいんですけど。恐らく、ハーケンさんが聞いたことがあるのも、コーヒーかそれに近い飲み物だと思います」


「そうなのか。ハーケン、お前よく知っていたな」


「母が南方の出身でしたので、色々と話を聞いたことがあっただけです」


 確かにハーケンさん、褐色肌だし南の方の血が入っていると言われても違和感は無い。今私がいる場所がおおよそこの大陸の中央より北よりの場所なので、ハーケンさんみたいな南の出身はこっちだと珍しいのかもしれない。


 そういえば、私以外にこっちの世界に飛ばされた四人はどの辺りに辿り着いたんだろうか? もしかすると南の方に行った人もいるかもしれないなあ…………


「アリサ殿。それ、私も飲んでみていいだろうか?」


「……え、ああ。それはいいですけど……さっきも言いましたけど、これ苦いですよ? 飲みなれていないと美味しく感じないかもしれませんし」


 私も今でこそブラックで飲んでるけど、最初はミルクと砂糖入りのコーヒー以外は何が美味しいのか分からなくて飲めなかった記憶がある。でもこういうのって好き嫌いと同じで、いつの間にか飲めるようになってるものなんだよね。ふとした拍子に飲んでみると、案外抵抗感が無くて自分でも驚く感じ。


「構わないさ。私からお願いしたんだ、例え口に合わなかったとしても、ちゃんと全部飲み干すから安心してくれ」


「……じゃあ、砂糖とミルクも用意しておくのでもし苦くて飲めないようなら使ってください。それを入れるだけでもすごく飲みやすくなると思うので」


「おお、感謝するぞ」


「あのー、アリサ殿。厚かましいお願いなのですが、儂もそれをいただいてもよろしいだろうか? 実を言うと、その香りを嗅いでからずっと気になっておったのだ」


「じゃあ、それなら人数分用意しますね。折角なので皆さんで飲んでみて下さい」


 私はコーヒーを追加で四人分用意すると同時に、角砂糖とミルクをダンジョンマスターの力で作成する。今更だけど、この力は本当に色々なものを作り出すことが出来るから本当に便利だと思う。これのお陰で今のところホームシックならぬ、地球シックにはならずに済んでいるのかもしれないと思うぐらいだ。


 自分の分に関してはインスタントで良かったけど、さすがに王女様にそれを出す訳にもいかない。新しくちゃんとした粉の、お湯を注ぐだけで簡単に出来るタイプのものを作成してそれを四人分用意する。


「ちゃんとした淹れ方とかは分からないのでそこら辺はアレですけど、豆自体は多分いいものだと思いますから」


「よし、では頂くとしよう――」


「「「――」」」


 一口飲んだ後、それぞれで大きく反応が分かれた。


 まずドルフェンさんは、口に含んですぐ僅かに目を見開いた。そして僅かに口角を上げると、そのまま特に何も入れずに更にもう一口飲んでいた。


 それと対照的なのはリュンさんの反応だった。香り自体は気にならなかったようだけど、一口飲んだ瞬間に思いっきり顔を顰めた。そして角砂糖とミルクの小瓶に手を伸ばすと、入れ過ぎなんじゃないかってぐらいそれを投入していた。それでようやく好みの味になったのか、眉間の皺が消えてするする飲んでいた。


 いまいち分からなかったのはハーケンさんの反応。ほぼ無表情で淡々と飲んでいて、美味しいのかそれとも残してはいけないという義務感から飲んでいるのが判断が付かなかった。


「……」


 そして肝心な王女様の反応はというと――


「ふむ……」


 最初の一口は想像した味と違ったのか、一瞬動きが止まった。そしてしっかりと味を確かめるように一口目をゆっくりと嚥下する。更に二口、三口とブラックのまま飲んでから、今度は砂糖、ミルクの順番で味を変えそれぞれでもじっくりと味を確かめていた。


「どうですか……?」


「……確かに紅茶より苦みはかなり強いな。だが、その中にもしっかりとした味わい深さと香ばしさを感じる。砂糖やミルクを入れると苦みや口当たりがマイルドになってかなり飲みやすくなった。個人的にはミルク無しで砂糖を少し加えたぐらいが好みだな。うむ、美味かった」


「はぁ……お口に合ったようで良かったです」


「しかし……私が知らないということは、王都では殆ど出回っていないのだろうな。今度、南方からハーケンが言っていたものを取り寄せてみるのもありだな」


「そうですな。儂も個人的に取り寄せようかと考えておりました。目ざとい商人であれば限られた地域でしか飲まれてないものでも、知っている可能性は高いでしょう。少し、心当たりがありますので王都に戻ったらその伝手を当たってみるとしましょうかな」


「だったら、私の分も頼んでおいてくれ。王宮の御用商人にも頼んでみるが、幾つかアテを作っておいた方が確実だろうからな」


「承知しました」


「あの……それなら、こっちから融通しましょうか?」


「ん、確かにそれもアリだな。あそうだ、それでという訳でも無いのだがアリサ殿の聞きたいことがあったんだ」


「何でしょうか?」


「昨日の部屋や家具、それにこの首飾りもそうだしコーヒーだってそうだ。ダンジョンマスターの力で作っていたものは恐ろしく幅広い。それで気になったのだが、ダンジョンマスターは一体どれほどの種類のものを作り出すことが出来るんだ?」


「種類、ですか……」


 正直、自分でも把握しきれていないぐらいには多いとしか答えることが出来ない。ダンジョンの改装やオブジェクト、つまりダンジョン内でしか機能しないものを省いたとしてもそれは膨大な量に昇る。例えば一口に武器と言っても、剣、槍、斧、棍棒、鞭などなど大枠でもかなりの種類がある。その一種に絞っても形状などで更に細分化されて、素材や固有名を持つ武器でまた分けられる。


 しかもそれが、地球の物だけでなく恐らくこの世界に由来するであろうものまで含まれているのだ。もはや膨大という言葉ですら足りないぐらいの種類が一覧として表示される。


「答えにくいのなら答えなくても構わない。少し不躾な質問だっただろうか」


「ああ、いえ。そういうことじゃなくて……そうですね。他のダンジョンで宝箱に入っている武器やアイテム、それにこういう食材とか娯楽品までかなり幅広く作ることが出来る、といった感じです。具体的な種類はと言われると、私も把握しきれていないのでちょっと困っちゃうんですけど」


「それほどなのか……いや、教えてくれて感謝する」


「そういえば、そちらからの同盟の条件がダンジョンの産出物の購入権でしたけど、もう何が欲しいとかって決まってるんでしょうか? 何か希望とかがあれば、私も要望にあったものを見繕っておきたいです。何せ量が量なもので……」


「ああ、最初に頼もうと思っていたものは決まっている。これについては今国内で起こっている問題が関係するんだが。実は近頃、ヴルムリント王国の全土で作物の不作が続いているんだ。すぐに大きな影響が出るほどではないのだが、無視することも出来ない。それを鑑みて、アリサ殿には食料の援助をお願いしたいと思っていたんんだ。具体的には小麦などの作物だな」


「……っ」


 私は王女様の言葉を聞いて一瞬ドキリとした。近頃起こっている作物の不作……それが、ひょっとしたら廃棄物による土地の汚染の影響なんじゃないかと疑ったからだ。実際のところは調べてみないと分からないけど、可能性は無くもない。


「それで、アリサ殿。諸々の話し合いと同盟の締結の為に、王都に来てもらえないだろうか? 出来ればなるべく早めに。具体的には私達が王都に戻るときに共に同行してもらいたいんだ。急な話ですまないのだが、検討して貰えないだろうか?」


「そう、ですね。元々ダンジョンを設置する関係でお邪魔するつもりだったし、もちろん行くこと自体は構いません。ただ、遠出の準備とかを考えたいので。特に私がいなくなるってことは、このダンジョンが無防備になるってことですから。ちなみに出発ってどれぐらい先になりますか?」


「そうだな……遅くとも五日後までには出発したい。ここから王都までが馬で二日、往復で四日だな。それから向こうでの滞在日数が……うーん、どれぐらいになるだろうな。まあ事が事だから最優先で動いたとして、それでも最低一週間はみて貰いたい。場合によってはそれより長引く可能性は十分にある」


「ということは都合、半月以上はダンジョンを空けることになりそうですね……」


 まだ未完成な状態の私のダンジョンをそれだけの期間放置するのは非常に心配だ。仮に五日間いっぱいいっぱいまで待って貰ったとして、納得できる完成度まで持っていけるだろうか……

 

 この前までは滅多に人がやって来る立地じゃないと思っていたけど、こうして王女様たちがやって来てしまった訳だしそうとも限らないのだ。とは言え、完全にダンジョンを閉じるのはやりたくない。これは昨日の検証で分かったことだけど、ダンジョンというのは基本的に来るもの拒まずという性質を好んでいるようなのだ。


 例えば、表に設置した首飾りの仕掛けみたいに一度入った者を追い出すことは可能だった。けれど、入って来る者を拒むような仕掛けは作ることは出来なかった。正確には設計自体は可能だったけど実装出来なかったのである。これと同様に、ダンジョンの入り口を完全に閉じて外界との繋がりを断つと何故か維持に大量のDPを消費されることになる。普段の状態でもそれはあるのだが、本当に微々たる量で気にする程の量じゃ無かった。しかしこれが入り口を閉じた途端に無視できない量へと跳ね上がるのだ。


 そういう仕様だから仕方が無いとはいえ、ちょっとめんどくさい。


 そんな理由でダンジョンの入り口を閉じるのはやりたくない。


「…………」


 一旦整理しよう。私が心配なのは、この世界で唯一の私の拠点であるダンジョンを長期間空けてしまうこと。私が不在の間に、何者かがダンジョンに侵入して、暴れ回ってダンジョンを破壊するんじゃないかというところを最も懸念しているのだ。


 ――…………


「分かりました。やっぱり準備が必要なので三日、待って貰ってもいいですか? あと、王都までの道中についてちょっと相談したいことがあるんですけど」


「構わないぞ。それで相談とは――」


 こうして王女様たちと打ち合わせをして、少しだけ雑談何かもしてから解散となった。


 王女様たちは王都へ帰る準備をしつつ、私は遠出する準備とダンジョンマスターがダンジョンを留守にする間の動きについてスライムやスケルトン達と打ち合わせを行った。三日という猶予は貰ったけど、それでも忙しなく動き周り――――そして三日後がやって来た。

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