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第10話 王女達の目的

 王女様の話を理解する為には、まずこの異世界におけるダンジョンの価値というものを正しく認識しなければならなかった。


 私がケルビムから聞いたのは、ダンジョンには一攫千金を夢見る命知らず達が集まって来るとかその程度の話だった。しかしそれはダンジョンが持つ本質を指してはいても、その影響力までを正しく説明しきれてはいなかった。

 

 まずケルビムの説明からダンジョンは放っておいてもそれなりに人が集まって来るというのは間違いない。宝を求めるトレジャーハンターみたいな人達は何処の世界にもいるようで、その手の需要は存在している。地球にいた頃には映画の中やバラエティ番組なんかで見たことが無かったそういう人達が、この世界ではかなりの割合存在しているのだ。


 彼らはこっちの世界だと『冒険者』と呼ばれているらしい。そしてダンジョンがあると聞けば冒険者たちはそこに隠されている財宝やそれと同価値以上の何かを求めて集まって来る。人が集まるという事はそこには需要が生まれる。例えば武器やアイテムなどを補充する為に商人が出店を出したり、装備品の手入れの為に鍛冶屋が出張に来たり。他にも宿屋や飯屋、ダンジョンから出土した物を買い取る商人など、更に多くの人間が集まる。


 そうなって来ればもはやそれは小さなコミュニティを超えて一つの村のようになっていく。更に、もしそのダンジョンが人々にとってよりよい利益をもたらすものであればもっと人が集まる。それは村を超えて町となる。町は更に街となってより多くの人が集まる場所となり――そして一つの都市にさえ成長するのだ。それを証明するかのようにこの異世界には『ダンジョン都市』なるものが存在しているらしい。文字通りダンジョンが経済の中心となった都市である。


 つまりダンジョンが及ぼす影響とは、それが存在するだけで起こる人の移動や、商業の発展、そうして起こる都市規模の――いや、国家規模の多大なる影響のことを示しているのだ。


 ゆえに新しいダンジョンの出現とは、その国にとって途轍もない大ニュースなのである。地球風に例えると石油が出たとかレアメタルの鉱床が見つかったとか、埋蔵金が発掘されたとかそんなレベルの話。


 だから――


「自分達の国にダンジョンが出現したのならば、それはまたとないチャンスに繋がる。何せそのダンジョン一つで大国連中の仲間入りができるかもしれないんだからな。ウチのような弱小国家にとっては、特に喉から手が出るほどに欲しい代物だ」


 そういうことに繋がるのだ。もちろん全てのダンジョンが国を左右できるような力を持っている訳ではない。あくまでその可能性を秘めているというだけだ。もしそうだったなら、この世界全体がダンジョンを中心に廻っていることになってしまう。それはさすがに言い過ぎだ。


 王女様の言葉を聞いた副団長の人が、眉間に皺を寄せ溜息を吐きながら苦言を呈する。


「団長。間違ってもご自身の国を弱小国などと卑下する表現はお止めくだされ。そんなことを言われては陛下も先代様達も悲しまれますぞ?」


「はははっ、父様も爺様もそんなことぐらいどうとも思わんさ。ウチの国が小国なのは事実だからなっ」


「……」


 副団長の言葉なんて意にも介さずそれどころかあっけらかんと言い放つ。その様子を見て副団長の眉間の皺が深まった。

 

 上司天使から貰った知識の中には王女様たちの所属するヴルムリント王国についての情報もあった。といっても国の様子とかそんなのは無くて、あくまで地理的な話だけなんだけど。それによると、ヴルムリント王国は北海道と同じぐらいの大きさを持っているようだった。それでも十分に大きいと思うんだけど、周りの国を見てみるとそれよりも領土の大きい国が幾つも存在していた。中にはそれ以下の大きさの国も散見できたんだけど。  

 

 もちろん領土の大きさだけで判断すべきじゃないと思うけど、領土が大きいということはそれだけ力を持っていることと同義だと思う。そういった面で考えると、ヴルムリント王国はせいぜい中堅国ぐらいな気がする。弱小国家とまでは言わなくてもいい気がするんだけど、領土以上に中身が不味い状態だったりするのかな? その辺りの現況とか国の情勢などの情報は貰ってないからそこらへんの事情はいまいち分からない。どうせならこの世界の最新情報を余すところなく渡してくれればよかったのに、と上司天使には思わずにいられなかった。


 それにしても…………ここまで話を聞かされて、この人達の目的が何となく推測できた。


 つまりは、自分達の国を豊かにするためにこのダンジョンを利用したいとかそんな感じじゃないだろうかと思っている。


 例えば分かりやすいところで武器や防具などの装備品。仮にこの世界、というよりこの周辺が戦争とか普通にある世界だったなら、そういった品は喉から手が出る程に欲しいだろう。前に確認した時にはあまり興味が無かったからスルーしたけど、ダンジョンマスターの力で作成できる物品の中には異世界産の他にも地球産の武器も存在していた。刀剣の類や、銃などである。文明レベル的に考えれば銃なんて明らかなオーバーテクノロジーだろう。 


 もっとも、こっちの世界には向こうには無かった魔法という技術がある。だから一概に地球の武器がこっちの世界の戦争を一変させるとは言えないかもしれないけど。別に私は現代の戦争に詳しい訳でも、歴史に詳しい訳でも、魔法に詳しい訳でも無い。何がどう影響するかなんて、結局は素人考え程度しか出てこないんだけど。


 だって異世界の武器って滅茶苦茶凄そうだったんだよ。軽く見た程度だけど、何か山一つを超えて届かせる弓とか、海を割る槍とか、炎を操る剣とか――――本当に想像上、空想上の武器がわんさか管理画面の中を流れていった。とは言え、当然そんなヤバそうな武器は消費するDPもトンでもなかったんだけどね。危ないのは嫌だし、DPも無駄遣い出来ないけど……正直、興味はある。


 ……考えが脱線してしまった。

  

 とにかく、この人達が望んでいるのはそういったダンジョンマスターの力で作り出すことが出来る凄い力を持った品なんじゃないか、ということだ。というか、それぐらいしかダンジョンマスターと交渉する理由なんて思いつかない。

 

 この場合、問題なのはこの人達、もっと言えばこの人達の国が私をどう扱うかという部分だと思う。


 最悪の可能性としては、無理矢理言う事を聞かせられて有用なアイテムを作り続ける奴隷にされることだろうか。それだけは絶対に御免被る。ただ、さっきからの態度を見ていると、そんなことをする人達じゃないように思われる。もしかしたら最初だけ友好的に接して後から――という可能性もあるけど、不思議と目の前の王女様からはそんな雰囲気を感じられなかった。本当にその通りなのか、それとも単に私の見る目が無いのかは分からないけど。


「――と、ここまでが前置きだな。分かりやすくまとめると……副団長、頼む」


「そうですな。例えるなら、とても希少価値の高い鉱石の鉱脈が国内で見つかったぞ、さあ大変だ!どうする!?……といったところですかな」


「おおっ、その例えは分かりやすいな! つまりだアリサ殿、そんな鉱脈が貴方のダンジョンだという訳だ。さっきも言ったが、そんな多大な利益を生むだろう鉱脈はこの国にも、そして周辺各国にも影響を与えてしまう。ゆえに放置することは出来ないのだ……ここまではいいか?」


「あ、はい。何とかついて来れてます」


「うむ――――そこで、だ。我が国はそんな鉱脈をどう扱うか話し合ったのだ。その結果というのが、いよいよこの話の本題になる」


 ――来た


 さて、その国の話し合いとやらでどんな結果が出たのか……

 場合によっては即座にこの人達をダンジョンの外に放り出した方がいい状況になるかもしれない。ダンジョンの中では万能に近い力を振るうことが出来るダンジョンマスターだ。今ダンジョン内にいる生物を外に排出するぐらい簡単に出来る――というのは最近知った。


 使い方は知識としてあるけど、それを使う気にならないと引き出す事は出来ないのだ。使えることと、使いこなすこととは違うのである。


 スケルトンの影に隠しながらこっそり縮小化した管理画面を開きその為の準備をしておく。

 そうして王女様の続く言葉に備えながら、その言葉を聞く。





「アリサ殿…………我らの国と、『同盟』を結ばないか?」





 王女様の口から飛び出したのは、思いがけない単語だった。想定外だったその言葉を変換することが出来ずにオウム返しのように同じ言葉を繰り返してしまった。


「…………ドウメイを、結ぶ?」


「そうだ。ヴルムリント王国は、貴方と貴方のダンジョンを対等な相手として協力関係を築きたいと考えている。つまりは、同盟を結びたいということだ」


「っ…………!」


 国と私とで同盟を結ぶ? それも対等な相手として…………? 


 正直、全くつり合いが取れていない。だって同盟といえば、社会の授業で習うような幾つかの国が同じ敵に対抗して結んだりするものだったはず。だから普通に考えれば国同士で結ぶものだと私は認識している。


 だというのに、この王女様はそれを私という一個人とヴルムリント王国で結びたいと言っているのだ。本当にそれが国で会議した結果出た結論なのだろうか? でも王女様以外の騎士の人達も特にその発言にツッコんだり変な顔はしていない。ということは、この話は王女様が勝手にした話じゃなくて本当に国の方針だっていうこと? とうかそもそも、同盟とか組む必要ってある? 別に売り手と買い手みたいに商売上の関係でもよくない?


 そんな疑問が次々と頭の中を駆け巡っていた。


 一方、私がその想像を超えた申し出に混乱している中、言いたかったことを言い切ったであろう王女様は愉快そうに口の端を釣り上げて笑っていた。その姿はまるで新しい獲物に狙いを定めた狩人のようでもあり、どこか玩具を買ってもらった子どものようにも見えた。

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