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第1話 世界を救えと天使が告げる

 ある日、私の目の前に天使が現れた。

 可愛くて可憐な女の子とか、可愛い系男子の比喩とかでも何でも無く文字通りの、言葉が示す通りの天使だった。だってそうとしか表現のしようがない姿形をしていたのだ。

 それは何の前触れもなく、文字通り突然私の前に舞い降りた。



 学校からの帰り道――目の前に真っ白な鳥の羽が舞ったかと思った次の瞬間、私が立っていた場所からほんの数mぐらい先。そこに何もかもが真っ白な存在が降り立った。まず視界に飛び込んできたのは人間にはついているはずもない純白の鳥のような羽。狭い通路だと大きすぎるのか、自分の身体を包み込むように丸くなっている。

 その羽による囲いの上部から覗くのは、髪色も眉毛も全てが白い毛で覆われた顔だった。恐ろしい程に整った顔の造形はその存在にどこか人間味というものを感じさせなかった。羽に包まれているせいで顔以外の身体部分については見ることは出来ないけれど、その存在を言葉で表現するとしたら――『天使』。それ以外に見つからなかった。男なのか女なのかも分からない、分かるのは羽の生えた白い存在が突然そこに現れたということだけ。きっと百人がこの光景を見れば間違いなく全員がアレは天使である、とそう答えるだろう。もしそれ以外の答えをいう奴がいれば、そいつは相当な捻くれ者か、その正体を知る者のみだと思う。


 突如として私の前に舞い降りた天使は閉じていた瞼を開くと、そこだけ金色をした瞳が私を捉える。


清水有紗(きよみず ありさ)さん――あなたをお迎えにあがりました」


「はい? えっと、何を言ってるんですか?」


「申し訳ありませんが詳しい話は後程、向こうでするといたしましょう。まずは案内を優先させていただきます」


「ちょ、私の話を――」


「では行きましょう」


 天使は一度も崩さなかった表情をニコリと微笑みに変える。あれほどの美貌で微笑まれてドキッとしない人間はそういないだろう。あの笑みを見てしまえば老若男女関係なく心臓が跳ね上がる感覚を味わうはずだ。自分では自分のことをアイドルとかに現を抜かすミーハーな奴だとは思っていなかったけど天使の微笑みを見た瞬間、顔が熱くなるのを感じた。



 思わずその笑顔に見惚れてしまった次の瞬間、私の視界が大きく変化する。天使の姿が掻き消え、同時に向こう側の景色が目に入ったのだが……それは信じられない光景だった。

 私はついさっきまで学校から家に帰るいつもの帰り道に立っていたはずだ。だというのに今、私の眼前に広るのは――ただただ真っ白な空間。どこにも目印というか、基準にするものがないから距離間が全く掴めない。すぐそこに壁があるのかもしれないし、ずっと遠くにあるようにも感じる。そんな視界のせいなのか得も言われぬ息苦しさのようなものを感じた。


「あぁ!!? 何なんだよ、コレはっ!!!」


 その怒鳴り声のあまりの剣幕に身体をビクリと震わせる。結構な至近距離で聞こえてきた大声に思わず心臓が跳ね上がったような感覚を覚えた。

 恐る恐る声がした方に視線を向けたところでまた驚く。そこには声の主だろう一人だけではなく他にも三人、合計四人の人がいた。


「ここは一体……私はどこに連れてこられたんだ?」


「ここはぁ……どこなのぉ?」


「ひひ……やっと来た。僕の時代が……!」


 まず、さっき怒鳴り声を上げたであろうちょっとガラの悪そうな不良っぽい男子学生が一人。見るからに学園の王子様とか女子人気がトンデモなさそうなキラキラした雰囲気のブレザーの女子学生が一人。終始おどおどしており女子学生とは逆に庇護欲をそそられるタイプの小動物系の男子学生が一人。そしてこの状況を何故か一人だけ喜んでいるみたいな反応をしている男子学生が一人。


 怒鳴り声をあげていた男子学生から若干距離を取りつつ各々が自分の現状を把握しようとしていたり、嘆いていたり、喜んだりしていた。

 あまりジロジロ見ていると思われたくなかったので、少し観察してから視線を外して辺りを見渡す。けれどもこの場所には私達以外には人間はもちろん建造物らしきもら無かった。ただひたすらに白が広がるのみ。引っ越しの時とか何も物が無くなった部屋で感じるのとは比べ物にならない不安感を感じた。

 つまりここには私を含めて五人の人間しかいないということだ。それ以外には本当に誰もいないし何も無い。


 全く見覚えの無い他人に急に話しかけるのはキツイので、私は私でこの状況について考えてみることにした。 

 この状況の原因……その考えられる可能性として最も高いのは――まずあの天使だろう。名乗ってもいないのに私の名前を知っていたあの天使、彼か彼女か分からないけどあの存在がこの現象に関係しているのはほぼ間違いないとみていい。何せ自分で「迎えに来た」とか「案内する」とか言ってたし。それに何か白い人って部分がこの白い空間と共通点っぽいし。


 しかしだとしたら何故、あの天使はここにいないのか? 私が何らかの手段でここに移動させられた時にはその姿は掻き消えるようにしていなくなってしまった。案内するというからにはせめて案内人らしくちゃんと説明もして欲しい。

 そんなことを考えた矢先のことだった。私の眼前をあの時のように、白い羽が舞った。それを見た瞬間、私は慌てて視線を上に向ける。


 すると――見つけた。私達の上、つまり上空に浮かぶ天使の姿がそこにあった。


「――皆さん、どうか落ち着いて下さい」


 通学路の時とは異なりその大きな翼を広々を広げている。そのお陰で天使の全体像が見えた。

 まず翼は私の想像以上の大きかった。一枚一枚が人一人を包み込めるんじゃないかというぐらいの大きさを誇り、加えてそれが左右に二枚ずつ、計四枚存在していた。まるで聖書で語られるような智天使のような姿形だった。 

 ただし……身に纏う衣装が黒のパンツスーツという限りなく現代の働く人のソレだった。天使とスーツというミスマッチが若干ではあるが「これじゃ無い感」を漂わせる。天使ならばもっと古代ローマ風の服を着ていると想像していたけど、ひょっとすると天使も時代に合わせてその価値観をアップデートしているのかもしれない。


 いや、服装なんて今はどうでもいい。もっと凄いのは服装が醸し出すこれじゃない感を吹き飛ばすほどの圧倒的な神秘性だった。上空にいた天使は翼をはためかせながらゆっくりと私達と同じ高さまで降りてくる。その姿はまるで教会のステンドグラスにでも描かれていそうな光景で、信仰というものにさほど興味が無かった私でも何かしらの宗教心に目覚めてしまいそうだった。それほど絵になる光景だったと言えるだろう。


 そうして地面に降り立った天使は私達を見渡して、遂にその口を開き言葉を紡ぐ――


「さて……まずは突然ここにお連れしたことを謝罪いたします――ですけどこれ、私の責任じゃないんですよ。私は上司から皆さんをここに連れてくるように言われただけなんです。だから、もし文句があるならこの後やって来る上司にお願いします。もう好きなだけ罵ってくれて構わないので」


「「「……」」」


 ――絶句した。もちろん悪い意味で。


 謝罪から始まったかと思いきや、そこから唐突に始まる自己弁護と自らの上司への責任のなすりつけ。もはや自分可愛さに上司を売っていると言っても過言ではない。

 それをしたのが先程まで超絶神秘的な雰囲気を作っていたあの天使だというのだから、もはや言葉も無かった。故に絶句した。本当にただただ呆気に取られてしまって何も反応することが出来なかった。驚きとか呆れとか他にも何か色々な感情が混ざって何を言えばいいのか分からなくなってしまった。


 そんな最初の印象をセルフで破壊した天使は何事も無かったかのようの話を続けようとする……も、開いた口が塞がらない状態の私達を見て首を傾げる。


「あれ? 皆さんどうかしましたか? 鳩が豆鉄砲でもくらったような顔をしてますよ?」


「ええっと、ちょっと色々なことが起こり過ぎて感情の整理に時間が掛かっているだけですから……それで、その……あなたは一体……?」


 最初に再起動を果たしたのはキラキラオーラの王子様系女子学生だった。彼女は私達が最も気になっていたお前は誰なんだ?という質問を天使にぶつける。


「自己紹介がまだでしたね。ただ私には固有名というものが存在しなくてですね。基本的には思念伝達で情報のやり取りが済んでしまうので固有名がほとんど必要無いんですよね。だから時々普通に喋る時は上司からは「君」とか「ちょっと」とか呼ばれるんですよ。だから、そうですね……私のことは『ケルビム』とでも呼んでください。ただしこちらを貶すような呼び方は無しでお願いします。例えババアとかですね。もし言われたら思わず天罰的なものを落とすかもしれません」


 ここまでの話しっぷりから分かったけど意外とこの天使は気さくな人なのかもしれない。何というか話し方にあまり嫌な感じが無いというか、表情はそこまで変わらないんだけど不思議とひょうきんに感じるというか。ああでもだからと言って絶対にババアとかは呼ばない。好き好んでそんな目に見える地雷を踏みに行く理由も無い。

 それにしてもケルビムってまんま智天使を言い換えただけなんだけど。安直にも程がある――と思ったけど一応口に出さないでおく。


「さて、私の役割は皆さんをここにお出迎えすることと、上司がやって来るまでに諸々の説明を済ませておくことなんですね。という訳でお出迎えは終わったので、次に現状の説明とかをしたいんですが……よろしいですか?」


「「「……」」」


 場の空気を完全に持っていった天使に対して、私達は特に反論もせずにただ首肯で答える。この状況を説明してくれるというのであれば願ったり叶ったりな話だ。それを分かっているからなのか、最初はあんなに怒鳴っていたあの男子学生も大人しくしている。

 

「そうですね。まず既に分かっているかもしれませんが、皆さんをここにお連れしたのは私です。ちなみにですけどこの空間については特に説明はしません。どうせ長居する場所でもありませんし、皆さん的にもその辺のことはどうでもいいですよね? それよりも知りたいのは『ここに連れてこられた理由』でしょうし」


「「「っ……!」」」


「素直な反応ですね。では単刀直入に……皆さんにはとある場所でやっていただきたいことがありま「そのとある場所っていうのは異世界なのかっ!?」――す」


 ケルビムの言葉を遮ったのはこの状況を一人だけ喜んでいる様子だった男子学生。自分が話そうとしたところで話を遮られたケルビムはあまり表情の見られなかった顔を、目を細めながらその男子学生に視線を向ける。

 するとその眼光の鋭さと纏う剣呑な空気に気圧されたのか男子学生が短く「ひっ」という悲鳴を漏らす。直接睨まれている訳では無い私でさえ若干背筋を冷たいものが流れるのを感じたのだ。直接見られている男子学生の感じた悪寒はもっと凄かったのだろう。

 けれどもケルビムはそれ以上何かすることはなく、数秒男子学生に視線を向け続けた後そのピリついた空気をしまって男子学生の問いに答える。


「先にその疑問に答えるならば――仰る通り。とある場所というのは皆さんがこれまでに住んでいた世界とは異なる世界……つまり異世界ということになります」


 異世界、という言葉にも十分驚いたがその続く言葉に、私は更に別の意味で驚愕させられた。


「ああ、加えてですがこれは決定事項となります。ですので皆さんには異世界に行くという以外に選択肢はありません。またその間は地球にある家には帰れなくなるのでご了承ください」



 ……は? 決定事項? 帰れない?



 何で私達がそれに従わなくちゃならないのか。何で勝手にそんなことを決められなくちゃいけないのか。ケルビムの言っていることを理解する気になれない。

 しかしそれを言い放った当の本人は淡々と、それが何でもないことのようにしれっとした顔をしている。それを見ると無性に腹が立った。ケルビムはそんな私達に様子に気付いているのかいないのか……きっと気付いてないんだろう。話を続けようとする。私はそこでちょっと物申してやろうと思った。


「場所については感じで、それからやってもらうことなん「おい、ちょっと待てよ」――はぁ、またですか。と、今度はあなたですか。何ですか人が話している最中に割り込んできて」


 次の話に進もうとするケルビムの言葉を再度遮ったのは私――ではなく、あの不良っぽい男子学生だった。私が声をあげるよりも早くその男子学生がケルビムの話に口を挟んだのだ。

 その声には見なくても分かるほどの怒気が滲み出ており、顔を見れば案の定怒りの形相が浮かんでいた。

 私は喉元まで出かかっていた言葉を一旦呑み込み二人のやり取りを見守ることにした。


「何でそんなことをお前に決められなくちゃならねえんだ? そんなもん俺には関係ねえだろうが! こんなつまんねえ妄想ごっこに付き合ってる暇はねえんだよ! さっさと俺達を元の場所に帰しやがれ!!」


「あの……人の話聞いてましたか? 決定事項だって言ってるじゃありませんか。それに決めたのは私じゃなくて上司の更に上の方々なんです。下っ端の私がどうこう出来る話じゃありませんから。兎に角今はさっさと仕事を済ませたいので、黙って聞いてて貰えますか?」


「だったらその上司って奴をさっさと呼んで来いよ! お前じゃ決めらんねえならそれが出来る奴を連れてこい! 俺はそんな訳分からねえところに行く気は微塵もねえ!」


茨木(いばらき)龍一郎(りゅういちろう)さん、でしたね。あなたがそれ程までに帰りたがっている理由も理解しているつもりです」


「っ!? お前、何を――」


「それを踏まえた上で、先にこの件に関する報酬の話をしておきましょうか。その方が皆さんが少しでも前向きな気持ちで取り組んでくれるでしょうし。そうですね、最初からそっちを先に言えば良かった」


 ケルビムは混乱する男子学生、茨木龍一郎と呼ばれた彼を無視して何かに納得したように手をポンと叩く。

 報酬? 強制的にやらせるとか言うものだから奴隷よろしく無報酬での強制労働かと思っていたけど、そんな物を用意していたんだ。あの自信から察するに余程私達を納得できる報酬なんだろうけど……一体何なんだ?


「報酬の内容は至ってシンプルです。この仕事を達成したあかつきには――あなた方の願い、どんな願いだろうと必ず一つだけ実現しましょう。それがどんな荒唐無稽であり得ない願いだろうと必ず、です」


「「「っ!?」」」


「どうですか? これなら少しはやる気が出ましたか? もちろんこれは口から出まかせなんかじゃありませんよ。この報酬については最初から設定されていましたから」


 ケルビムが語った報酬の話。それが嘘か本当なのか、そもそもそんなことが可能なのか?――そんな疑問が当然頭の中に浮かんできた。今の自分が置かれている状況があまりにも現実離れし過ぎていて実感が湧かないのだ。これが有名配信者が通りすがりのチャンネル登録者に好きなものを買ってくれるだとかそんな話ならまだ受け入れやすかったかもしれない。

 だけどケルビムが言ったことはもし私がそれを望めば世界一の大金持ちになることも、世界征服すら出来てしまうという内容だった。それをすんなり受け入れるという方がどうかしているのかもしれない。


 ただ、私はそれを迷いなく嘘だと言い切ることが出来なかった。


 もしケルビムが本当に人間を超越したような存在で、私達人間の世界なんて指先一つで自由に引っ掻き回せるような力を持っているとしたら……そんな万が一、億が一の可能性を目の前の存在から感じているからだろう。

 何せ一瞬でこんな真っ白な空間に連れてこられて挙句の果てには異世界に行ってこいなんて言い出すんだ。ドッキリにしたって手が込み過ぎだろうし、そんな宗教関係に喧嘩を売りそうなドッキリ見たこと無い。


 ――じゃあやっぱり、ケルビムの言っていることは真実……なの?


 ――本当に異世界でやることをやれば何でも好きな願い事が叶うの……?


 ケルビムの放った言葉は少なくとも私を、この話に対して前向きな気持ちにさせる程度の威力を持っていた。

 一方で面と向かってそれを言われた茨城さん?くん?はやはり今の話に対して懐疑的なようでケルビムの言葉を鼻で笑う。


「それを信じろってのか? 今時出来の悪い詐欺師でももっとマシな嘘をつくぜ?」


 そう言った茨木くんだったが、その声には先程までの威勢の良さは無くなっている。きっと内心ではケルビムの言葉を完全に否定しきれていないんだろう。

 ケルビムが言っていた茨城くんの事情云々は全く知らないけど、彼もまたその報酬に魅力を感じているようだ。


 まあ、そりゃあそうだろう。もし本当だったのなら何でも願いが叶うんだ。例えそれが一つだけだろうと、よほど欲を捨て去った人間でもない限り興味を示すだろう。


「そうですね。確かにこちらがそれを本当に実現することが出来るのは証明するのは難しい。もはやそれをすると報酬の先払いになっちゃいますからね。ですがこの後実際に異世界に行ってもらえたらその実感も少しは湧くと思いますよ? 少なくともそれで皆さんを異世界に連れていけるだけの力があることは証明できますからね」


「っ……」


「それで、どうしますか? といっても選択肢は一つしか無いんですけど。選べるのはそのまま反抗し続けて力づくで黙らされた後に強制的に放り込まれるか、もう一つは黙って私の話を聞いてその上で異世界に放り込まれるか、です」


 ……理不尽過ぎる。


 そもそも報酬の話をしたところで、最初から私達に選択肢なんて与えられていないのだ。ケルビムが言っていたように少しでも私達が前向きに取り込めるかどうかという気持ちの問題。異世界に行くか行かないか、その選択肢は既に無くあるのは送り込まれた後提示される条件を達成するかしないかのみ。


「……」


 ――茨木くんは沈黙することを選択した。


「よろしい。では改めまして……皆さんが気になっているのは、なぜ別世界に行かなければならないのか。またその役割を担うのがなぜ自分たちなのか。この二点だと思います。ですのでまずはそこを説明しましょう。ただ後者については答えは至ってシンプルです。異世界に行けるのが皆さんしかいないから、です」


 どういうことだ?


「異世界とは文字通り今いるのとは全く別の世界です。そして別の世界で生きる為にはその世界に適応しなければならない。その土地で暮らす生物が環境に適応して様々な進化を遂げる……それを世界規模に拡大したものが、皆さんの持つ異世界に適応可能だという特性です」


 ふむ……それって北極とか南極の生物をいきなり熱帯だの砂漠だのに持ってきて飼育するみたいな話なんだろうか? 普通に考えて生きていけるとは思えないんだけど……ん? そもそもとして――


「……あの、ケルビムさん。そういうのってあなた達の力で強引にどうにか出来たりしないんですか? わざわざ適正のある人物を探してこなくても、もっと協力的で能力のある人間を連れて来てそっちの世界で生きられるように改造?とかした方が効率的なんじゃ……?」


 何でも願いを叶えるとか言っちゃうような存在がわざわざそんな制限に囚われるのか?という疑問を抱いた。何でもできるなら人体改造というか、適性?の無い人間を異世界仕様に出来るんじゃないの?

 そう聞いた私の全員の視線が集まる。何か変なことでも聞いたかと思っているとケルビムが若干引いたような表情で答える。


「え……さすがに人体改造はちょっと。倫理観的にダメじゃないですか?」


 お ま え が 言 う な!


 何でただの善良な学生を強制的に拉致しようとしている天使に倫理観云々を問われなくちゃいけない!? これって私が変なの!?   

 よく見れば他の四人からの視線も確かにその手があったなみたいな感心もあれば、ケルビムのように若干引いているような感じもある。私はその視線にうっとなりながらも言葉を続ける。


「で、でも希望者が行った方が効率良いと思うんですけど……」


「まあ確かに意欲は大事ですね。そうなんですけど……人みたいな小さい存在に手を加えるのって結構大変なんですよ。その在り方の根本から手を加えるようなものは特に。ああ力が足りないって訳じゃなくて、その逆で加減が難しいって意味ですよ? それで下手に失敗とかすると何やかんやで頭がパーンしちゃうかもしれないんですよ」


 ……なるほど。そりゃあダメだ。


「――まあ上司の上司ぐらいになってくるとそこら辺も片手間でこなすんですけどね」


「あの、ケルビムさん? 何か言いましたか?」


「いいえ、何でもありません。ともかくそんな理由で人体改造の方向は無しで行きたいという訳です。ご理解いただけましたか?」


「はい……」


 もちろんケルビムの言葉を全て真に受ける気は無い。無いけど――少なくとも私達五人以外の誰かにするという選択肢もやっぱり無いようだった。これ以上聞いても無駄だと思ったので一先ずはそこで納得いったことにしておく。


「これが皆さんでなくてはいけない理由になります。次にもう一つの方、なぜ異世界に行かなければならないのか?についてですが……それを説明すると少々長い話になります。ですので重要な部分をかいつまんで説明していきます」


 そうしてようやくと言ってもいいのか、ケルビムの口から私達が異世界に送り込まれることになった原因とその理由についてが語られ始めた。

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