表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Star Age ー星の世代ー  作者: 八城 主水
7/7

George

 春花台(はるなだい)の治安を守るため活動する自警団、”アズールドラゴン”の結成と同時に恋治(れんじ)がリーダーとなった経緯はおよそ1年前に遡る。


 高校に進学してある週末の休日、父の千悟(ちさと)からアルバイトをしないかと聞かれ、”面接”のために父が運転する外車で馴染みのある春花台へと向かった。


「母さんから聞いてたんだけどよ、バルナには結構行ってるんだって?」


「あー……うん、特典目当てでキャプテン・ドラゴンの漫画とか買いに行ってる」


「キャプテン・ドラゴンか!そういや小さい頃から好きだったよな、なるほどなるほど……」


 なにやら意味ありげに頷くその意図を察せぬまま春花台の街中にある大型駐車場に車を停めた父に連れられたのはステーキハウスの店、オシャレな雰囲気の店内を見渡しながらここがバイト先かと思いきやどうやら待ち合わせをしていたようで案内されたテーブルにはすでに体格のいい男性が座っていた。


「よぉ狭間(はざま)、遠路はるばるお疲れさん」


「おっす、相変わらず休日のバルナは混んでるな─────」


 父と一緒にソファーへ腰掛け、目が合った彼はニッと微笑んで石黒(いしぐろ) 譲治(じょうじ)と名乗った。NERO本部に勤務するエージェントで父とは同期の桜、妻と二人の子供がおり近々に設立される春花台支部の支部長に就任するのだとか。


「ココのステーキはデカいし美味い、好きなだけ食えよ!」


 と、豪快に笑いながら一番大きいサイズのサーロインステーキを注文する彼と同じのを注文し、コーラで乾杯して料理が来るのを待つ。


「最近、魔人どもの動きが活発になってきててな」


「ああ、だからバルナに支部を置いてお前に管轄を任せようとしてるのさ」


 その間、父と石黒はバルナの現状について話し始めた。複雑な内容に自分が隣で聞いてていいものなのかとなるべく話が耳に入らぬようにスマホでモノグラを眺めていると2人の視線がこちらに向くのを感じた。


「親父さんから聞いたんだが、恋治くんはこの街に詳しいんだって?」


「あー……『詳しい』とまで言えるかはわからないですけどある程度は」


「そうかそうか、今度俺が担当する春花台にひとつ、自警団を結成させようとしてるんだけどそのリーダーを君にやってもらおうと思っててな」


 突然の言葉に理解が追いつかず唖然としてしまい、その反応を見た彼が『話してなかったのか?』と気まずそうに訊ねると……


「アルバイトしてみるか聞いたら『やる』って言ったぞ」


 コーラを口に運びながらの父の言葉にほぼなにも説明していないようなものではないかと呆れ気味にため息をついた彼は話を続ける。


「あー……すまん、どうやらコイツの説明不足で混乱させてしまったようだね、あらためて俺から説明しよう。近頃春花台で魔人による事件が多くなっているのは知ってるかい?」


 たしかに最近、街の人が魔人に襲われた、もしくは攫われたという事を耳にすることが多くなった。噂程度ならと返答した恋治に石黒は『十分だ』と頷く。


「捕まえた犯人共を問い詰めてみるとな、全員揃って”レッドファミリー”の名前を口にするんだよ。聞いた事あったりする?」


「いえ、いま初めて聞きました」


「そうか、まあとりあえず魔人関連の事件ってNEROの管轄だから取り締まんなきゃならないんだけどさ、向こうは人数が多い上に春花台を拠点にしてるもんだからすぐ逃げられたりでこちらの対応が追いつかなくてね─────」


 年々増加する魔人の人口、それに比例するかのようにレッドファミリーのメンバーも増え、その中にはなんと小学生まで在籍しているという。当初は街中で言い争いや殴り合いを起こす程度だったが紅通(くれないどお)りという縄張りができてからは一般市民を攫って暴行を加えるなどその活動は激化、いよいよ対策をしなければならないとNEROは勇気ある人々を募って結成する自警団と協力体制でレッドファミリーに対抗しようと考えた。


 しかし魔人は人間よりも身体能力が高く、体内に宿している魔力から魔術も行使できる。街の事情と土地勘に明るい事くらいしか対抗手段がないであろう街の住人が自警団など務まるだろうかという恋治の疑問に石黒も同意しており、自分の部下に自警団の管理を任せようとしていたらしいがいきなり来たよそ者にあの癖の強い者たちを統括できるかも正直自信を持って頷けないところではあった。


 そこで毎年多くの魔人を迎え入れ、魔術や神秘を学ぶ事のできる珀皇(はくおう)学園にて優秀な成績を収めている恋治に白羽の矢が立ったのである。街の事情に詳しく土地勘があり、次期生徒会長候補で人望もある。なにより魔核がなくとも体内に魔力を宿していて魔人に対抗できる素質がある。同期の千悟からの推薦ではあったが石黒にとって恋治はまさに理想とも言える人材だった。


 クラスの学級委員長も務めてはいるが自警団のリーダーともなると規模が違う。しかも相手は人間に敵意を持つ魔人、正直自信はなかったがNEROからもサポートをするという父や石黒の心強い言葉に背中を押されて”アルバイト”を引き受けた。


 後日、都内にあるNEROの本部にやって来ると新設される春花台支部の面々との顔合わせが行われ、そこで初めて会った鎧旗(よろいはた)に一目惚れをする。いつもバルナで行動を共にする友人たちに声を掛けて回り、街を守ることに賛同した彼らと自警団”アズールドラゴン”を結成、その際にHALシステムを起動するためのアプリ、ゴツい手帳型のスマホケースにしか見えないアーカイブインデックス、そしてメモリカードキーがNEROから支給された。


 担当指導官である鎧旗の指導やNEROとの協力、なによりメンバーの高いモチベーションの甲斐あって僅か1年ほどでバルナの顔と言えるまでの組織に成長した。


「そういやお前さんも高校2年生か、進路とかは決めてるのか?」


 石黒と初めて会ったステーキハウス、そこで相変わらずデカい肉の塊を食っている彼から進路について聞かれた恋治がコーラを飲んで口の中の肉汁を胃に流し込みながら少し考えた末に答える。


「……まあ、このままNEROに就職したいなとか」


「はっはっは、そりゃ嬉しいね!」


 そうは言いながらも石黒はあまり感心しているような様子ではなかった。自警団の結成から約1年、レッドファミリーのメンバーや違法行為をする魔人の検挙、街の警護と春花台の平和に恋治の存在は欠かせないものになっている。


 しかしそれもNERO局員が日々行っている業務のほんの一部に過ぎず、アルバイトではなく本格的に就職するとなれば無論楽しいだけではない。なにより立場上、人々から疎まれる時もあり同期の息子がそのギャップに苦悩する様を見るのは実に忍びないものがあった。


「お前さんくらいの年頃ならもっと夢とかあるだろう?キャプテン・ドラゴンが好きなら映画俳優とか、せっかくあのダンテ=エヴァンスとの()()もできたんだしさ」


 春花台支部に所属するエージェントたちに支給されたメモリーカードキー、本来なら内蔵されているデータは過去に生きていた偉人の記録に基づいた能力なのだが恋治のだけは特別製でキャプテン・ドラゴンの熱烈なファンのためにとアメリカからやって来たダンテ本人の龍脈から抽出したデータが入力されている。


 老齢ながらも衰えている様子すら見せない若々しさ、そして龍脈の抽出が始まると彼の周囲に渦巻く龍脈の量となによりその熱量に春花台支部の局員たちは驚きを隠せなかった。そんな中、ただ一人憧憬の眼差しで見詰める恋治にサムズアップで応えたダンテはキャプテン・ドラゴン役を降りた自分が親友の息子の力になれる事を喜んだ。


「コネって言っても本気で龍脈を学ぶ気があるなら〜ってアメリカの自宅に招待されただけだよ……」


「いいじゃないか、大学に進学しないで付き人からスタートってのもありだぞ?なんにせよ、若者が選択肢を狭める事はないんだ。思う存分悩んだ末にそれでもNEROに来るってんなら、そん時は俺に言え。高校2年生なんて進路の事は『まだ考えてない』くらいがちょうどいいんだよ。うちの子供たちもそうだったしさ─────」


 そう気軽に言って石黒は再びステーキを食べ始め、彼の言葉に少し気が楽になった恋治も『はい』と頷いて切った肉を頬張った。


 親友の悠月(ゆづき)と同じく偉大な父を持つ恋治も幼い頃から父と接する機会は決して多くはなかった。石黒はそんな恋治を気に掛け、当初は『支部長』や『石黒さん』だった呼び方がいつしか『おやっさん』へと変わり、まるで父親のように慕われるようになっていた。


 夕食後、石黒と別れて自宅に帰った恋治は部屋のベッドに寝転ぶと瞼を閉じ、深呼吸をしながら頭のスイッチを切り替える。


 先日、珀皇学園に通う女子生徒数名が紅通りにてNERO局員に保護された。その中には佐隈(さくま)の名前もあり、事件に巻き込まれた被害者である彼女は事情聴取が終わるとそのまま帰宅したらしい。同じ日に悠月も紅通りにいた事から現場で拘束された魔人に関連性を訊ねてみても情報屋の(たちばな)と一緒にいた”Newbie(ニュービー)”と名乗る謎の白い人影の目撃情報しか得られなかった。


 学生としての日常も愛おしく感じていた恋治は自身がアズールドラゴンのリーダーである事は悠月や佐隈に話していない。しかしつぎ再びレッドファミリーの魔の手が2人に及ぶのであればその時は街を守るヒーロー、”キャプテン”として駆けつけて親友を守らねばならないとそう決意した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ