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ハカナキ引きこもりくんは異世界でも儚い  作者: 零眠れい
支えられてばかりの主
4/5

☆4話 だから少年は自分が嫌い

産業報告

・体調崩したりミニキャラ描いてました(pixivとTwitterに投稿)

・ちょっと、方向性を変えます。ちょっとだけ。

・しばらく新作の小説(完結したら投稿予定)に集中したいので更新頻度が遅くなります。なので一時的に片手間で二話分書けたら二日に一回の投稿形式。

 無事に転生できたことを記したら、あとはまぁ略してしまってもいいだろう。

 依然としてスキルは判明していないし、世界を見て回ってもいないし。

 特にこれといって重要な、話さなければならないこともない。

 せいぜい、無事に転生できたという、安否報告だけ。

 それくらいで、それぐらいのことしかなくて。

 そも泉緩影宵が異世界に来てから――あまり時間も経っていないのだ。

 目を開いたらそこは地獄のような場所だった――ということも。

 予め説明を受けていたとはいえ、心配だったが……そういう裏切りはなかった。

 平和である。

 平和的な野原である。

 原っぱ。緑。自然。戦争とは無縁。

 何なら白い星空模様が描かれている原っぱで、そこで少年は眼が覚めた。

 意識が曖昧な彼の眼下に広がるは、夢心地を連想するほんわか大地である。

 しかもしかも、予想外なことに。

 影宵の前に現れたのは――グロっちいものなんかではなく。

 可愛らしい、女の子であった。

 それも幼い子供。

 小学生くらいだろう、小さな女の子。

 比較するのはどうかと思うけれど、と、前置きした上で。

 天使ほどではないが、十分にキュートな子であった。

 異世界ということもあって、少し“おかしな格好”をしていたけれど。

 ともかくそれ以外に、人影はいない。

 ……と、まぁそんなわけで。

 大してわざわざ報告するような、深刻あるいはびっくりニュースはないために。

 ここまでのことを略し。

 全て省いて省略と書いて。


 ――というわけで、前略。

 【速報】泉緩影宵、吸血鬼の従者ができる。


「……あのさ」

「んー? なんだ、主?」


 太陽を遮る大木の下、相変わらず他には誰もいない草原の上で。

 赤髪が混ざった金髪を揺らし、眼の前にいる少女は首を傾げた。

 彼を「主」と呼んで。

 さらりと、当たり前の如く、昔からそうであったかのように「主」と呼んで。

 主はなぜこんなにも困惑しているのだろう? 何を訊きたいのだろう? という。

 そんな疑問を含めて、無邪気に首を傾げる。

 いっそ背中に生やしてる翼ごと、斜めに倒していた。

 ……そんな態度を向けられた影宵は、ますます眉根にシワを寄せて。

 というか、もはや寄せるに留まらずつまみながら、


「うーん……色々と、言いたいことはあるけれど……そりゃあもう多すぎるほどで、叫びたいほどだけれど……それでも一つ厳選して、ツッコんでいいかな?」

「おう、どうした? なんだって言ってくれ」


 ふふーん、と、張り切った様子の女の子。何やら嬉しそうにしている。

 それは――『主』からの最初の頼みを。

 「ツッコんでいいか?」という“最初の頼み”に応えることができるから。

 だから……こんなにも笑っているのだろうか?

 ならばその期待にこちらも応えようと。

 少年は意を決して、胸にある思いを口にした。


「じゃあ、お言葉に甘えて……そういう主従関係って、普通は逆だよな?」

「……? というと?」

「ほら、吸血鬼って人間より強いだろ。それに人間の血を吸うんだろ? その筋合いでいうなら、人間である俺があんたの従者になるのであって、吸血鬼であるあんたが俺の従者になるのは、おかしい……よな」


 ……まぁ、今並べた理由は、単なる後付けであって。

 内情は――彼が見聞きしてきた創作物。

 吸血鬼が人間を眷属にする設定が多いから……という、それだけなのだが。

 ともかく。

 少女はそれでも――わからなかったようで。

 はてなマークを浮かべたままで。顔がはてなマークになっていて。


「別におかしくないだろ。強いからって、そいつに従うわけじゃないし――血を吸うのが目的なら、従わせずに飲んでるぞ?」

「あ、一滴残らずってこと?」

「それか、従わせずに奴隷にしてる」


 「昔はそういうことしてる奴がいたって、親戚のじーちゃんが言ってた」……と。

 もしその『じーちゃん』が、少女と同じ吸血鬼ならば。

 長寿が使う『昔』って、一体いつの時代を指しているのか――。

 ほとほとに気になったが、とりあえずはいいかと後回しにする影宵。

 困ったように髪をかきながら、こう返す。


「うーん……でも、俺が主っていうのは……ちょっと。そういう柄じゃないっていうか、そういうの引き受けられるほどの器でもないっていうか……」


 それに人間の方が主人っていうのも、やっぱり違和感あるし。

 ――陰りを生みながらそう付け足すと。

 少女は花を咲かせるように笑って、元気よく親指を立てた。


「問題ない、だいじょーぶだっ! 今は人間と主従関係を築いてる奴なんて時々いるし、主には主の貫禄があるっ! ヒナナの吸血鬼としての本能が疼くほどだ!」

「じゃあその本能が間違ってるんじゃないかな」

「むっ、ヒナナに流れる血を舐めるなよっ! 父も母もこーけつな吸血鬼だぞっ!」

「そうは言ってもなヒナナ……本当に俺は上に立てるほどに出来上がった人間ではないんだよ。俺より資格がある奴、適してる奴は他にも山ほどいる。……ああ……語れば語るほどに嫌になってきた……」


 周囲に蔓延る青く瑞々しい草とは打って変わって、少年の表情は鬱を深める。

 青を深める。

 純粋なほどに降りたがってる顔色だ。

 一切の責任を負いたくない、という色をしている。


「そ、そんなにしょげるなよ……ちゃ、ちゃんとした“りくつ”があるんだぞっ……本当だぞっ!」

「ん……なら、一応聞くけど……」


 ヒナナという名の少女の、焦ったような弁護に。

 『なんでそんなに必死なのか……』なんて、そんな簡単な疑問さえわからないまま。

 けど、そこまで言うなら信用しようと。

 半信半疑……いや、本音としては少し楽しみにしながら。

 だけれど曖昧で、感情の境界線が混ざった口端と目つきで、少年はそう答えた。

 すると少女は、ここが正念場だと言わんばかりのくっきりした口調で、ビシッと。


「いいか? まず第一に、主が“いい人”に見える! それだけでもこれ以上ない適任者だっ! だからヒナナはこの人となら主従関係を作ってもいいと――」

「…………ははっ、いい人……ね」

「なんでっ!? なんで一気に悲観的になるんだよ主っ! ここは素直に喜ぶところだろっ!?」


 予想外の主の反応――薄笑いして、黒い瞳を更に黒くして、しかも伏せる彼に。

 ヒナナは動転する。

 あわあわなって、目が回り始める。

 ――それほどまでにどうやら、先程の発言で影宵が喜ぶと確信していたらしい。

 少年は呆れ返ると同時に、“罪悪感”で己の喉を焼いた。

 薄く笑うほどに――苦笑するほどに。

 そのままの造形で、影宵は仕方がなさそうに口を開く。


「さっきはなんで、ヒナナが必死になって俺をおだてていたのか、理解できなかったけれど……ヒナナは“いい子”なんだな。“いい子”だから、こんな俺を持ち上げようとした。優しいから」


 乾いていて、けれど情の帯びた眼差しを向けられて。

 やにわに綴られた言葉に、ヒナナの心は鎮まった。

 その――彼の、並々ならぬ様子に。あまりに暗すぎる瞳に。

 静まり返って、彼の一つ一つの言動が染み込む。

 ……痛々しいそれが、深く染み込んだ。

 だけど影宵は――影宵はそれに、気付かずに、


「――けど、ヒナナと違って俺は“いい人”じゃない。むしろダメ側だよ。その優しさを受け取るだけの資格なんてない」


 『ダメ側』である理由は……察しろと。

 暗にそう、強く込められていて。

 きつく締め付けるように、彼は哀しみを懐きながら。

 ――少年は想う。自らを“こんなの”と称し、想う。


(こんなのはただの、お荷物だ――足枷でしかない、迷惑ばかりをかける存在)


 それが“いい人”? 馬鹿馬鹿しい。世迷い言にも程がある。

 自らをそう卑下し、卑下して――泥のような水に浸っても、まだ卑下を重ねた。

 覚えているはずの辛さでさえも、そうやって押し殺すのだ。


「俺はヒナナの想像しているような人間じゃないんだ。主人としての条件に合致しないよ」

影宵くん挿絵(By みてみん)

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