☆4話 だから少年は自分が嫌い
産業報告
・体調崩したりミニキャラ描いてました(pixivとTwitterに投稿)
・ちょっと、方向性を変えます。ちょっとだけ。
・しばらく新作の小説(完結したら投稿予定)に集中したいので更新頻度が遅くなります。なので一時的に片手間で二話分書けたら二日に一回の投稿形式。
無事に転生できたことを記したら、あとはまぁ略してしまってもいいだろう。
依然としてスキルは判明していないし、世界を見て回ってもいないし。
特にこれといって重要な、話さなければならないこともない。
せいぜい、無事に転生できたという、安否報告だけ。
それくらいで、それぐらいのことしかなくて。
そも泉緩影宵が異世界に来てから――あまり時間も経っていないのだ。
目を開いたらそこは地獄のような場所だった――ということも。
予め説明を受けていたとはいえ、心配だったが……そういう裏切りはなかった。
平和である。
平和的な野原である。
原っぱ。緑。自然。戦争とは無縁。
何なら白い星空模様が描かれている原っぱで、そこで少年は眼が覚めた。
意識が曖昧な彼の眼下に広がるは、夢心地を連想するほんわか大地である。
しかもしかも、予想外なことに。
影宵の前に現れたのは――グロっちいものなんかではなく。
可愛らしい、女の子であった。
それも幼い子供。
小学生くらいだろう、小さな女の子。
比較するのはどうかと思うけれど、と、前置きした上で。
天使ほどではないが、十分にキュートな子であった。
異世界ということもあって、少し“おかしな格好”をしていたけれど。
ともかくそれ以外に、人影はいない。
……と、まぁそんなわけで。
大してわざわざ報告するような、深刻あるいはびっくりニュースはないために。
ここまでのことを略し。
全て省いて省略と書いて。
――というわけで、前略。
【速報】泉緩影宵、吸血鬼の従者ができる。
「……あのさ」
「んー? なんだ、主?」
太陽を遮る大木の下、相変わらず他には誰もいない草原の上で。
赤髪が混ざった金髪を揺らし、眼の前にいる少女は首を傾げた。
彼を「主」と呼んで。
さらりと、当たり前の如く、昔からそうであったかのように「主」と呼んで。
主はなぜこんなにも困惑しているのだろう? 何を訊きたいのだろう? という。
そんな疑問を含めて、無邪気に首を傾げる。
いっそ背中に生やしてる翼ごと、斜めに倒していた。
……そんな態度を向けられた影宵は、ますます眉根にシワを寄せて。
というか、もはや寄せるに留まらずつまみながら、
「うーん……色々と、言いたいことはあるけれど……そりゃあもう多すぎるほどで、叫びたいほどだけれど……それでも一つ厳選して、ツッコんでいいかな?」
「おう、どうした? なんだって言ってくれ」
ふふーん、と、張り切った様子の女の子。何やら嬉しそうにしている。
それは――『主』からの最初の頼みを。
「ツッコんでいいか?」という“最初の頼み”に応えることができるから。
だから……こんなにも笑っているのだろうか?
ならばその期待にこちらも応えようと。
少年は意を決して、胸にある思いを口にした。
「じゃあ、お言葉に甘えて……そういう主従関係って、普通は逆だよな?」
「……? というと?」
「ほら、吸血鬼って人間より強いだろ。それに人間の血を吸うんだろ? その筋合いでいうなら、人間である俺があんたの従者になるのであって、吸血鬼であるあんたが俺の従者になるのは、おかしい……よな」
……まぁ、今並べた理由は、単なる後付けであって。
内情は――彼が見聞きしてきた創作物。
吸血鬼が人間を眷属にする設定が多いから……という、それだけなのだが。
ともかく。
少女はそれでも――わからなかったようで。
はてなマークを浮かべたままで。顔がはてなマークになっていて。
「別におかしくないだろ。強いからって、そいつに従うわけじゃないし――血を吸うのが目的なら、従わせずに飲んでるぞ?」
「あ、一滴残らずってこと?」
「それか、従わせずに奴隷にしてる」
「昔はそういうことしてる奴がいたって、親戚のじーちゃんが言ってた」……と。
もしその『じーちゃん』が、少女と同じ吸血鬼ならば。
長寿が使う『昔』って、一体いつの時代を指しているのか――。
ほとほとに気になったが、とりあえずはいいかと後回しにする影宵。
困ったように髪をかきながら、こう返す。
「うーん……でも、俺が主っていうのは……ちょっと。そういう柄じゃないっていうか、そういうの引き受けられるほどの器でもないっていうか……」
それに人間の方が主人っていうのも、やっぱり違和感あるし。
――陰りを生みながらそう付け足すと。
少女は花を咲かせるように笑って、元気よく親指を立てた。
「問題ない、だいじょーぶだっ! 今は人間と主従関係を築いてる奴なんて時々いるし、主には主の貫禄があるっ! ヒナナの吸血鬼としての本能が疼くほどだ!」
「じゃあその本能が間違ってるんじゃないかな」
「むっ、ヒナナに流れる血を舐めるなよっ! 父も母もこーけつな吸血鬼だぞっ!」
「そうは言ってもなヒナナ……本当に俺は上に立てるほどに出来上がった人間ではないんだよ。俺より資格がある奴、適してる奴は他にも山ほどいる。……ああ……語れば語るほどに嫌になってきた……」
周囲に蔓延る青く瑞々しい草とは打って変わって、少年の表情は鬱を深める。
青を深める。
純粋なほどに降りたがってる顔色だ。
一切の責任を負いたくない、という色をしている。
「そ、そんなにしょげるなよ……ちゃ、ちゃんとした“りくつ”があるんだぞっ……本当だぞっ!」
「ん……なら、一応聞くけど……」
ヒナナという名の少女の、焦ったような弁護に。
『なんでそんなに必死なのか……』なんて、そんな簡単な疑問さえわからないまま。
けど、そこまで言うなら信用しようと。
半信半疑……いや、本音としては少し楽しみにしながら。
だけれど曖昧で、感情の境界線が混ざった口端と目つきで、少年はそう答えた。
すると少女は、ここが正念場だと言わんばかりのくっきりした口調で、ビシッと。
「いいか? まず第一に、主が“いい人”に見える! それだけでもこれ以上ない適任者だっ! だからヒナナはこの人となら主従関係を作ってもいいと――」
「…………ははっ、いい人……ね」
「なんでっ!? なんで一気に悲観的になるんだよ主っ! ここは素直に喜ぶところだろっ!?」
予想外の主の反応――薄笑いして、黒い瞳を更に黒くして、しかも伏せる彼に。
ヒナナは動転する。
あわあわなって、目が回り始める。
――それほどまでにどうやら、先程の発言で影宵が喜ぶと確信していたらしい。
少年は呆れ返ると同時に、“罪悪感”で己の喉を焼いた。
薄く笑うほどに――苦笑するほどに。
そのままの造形で、影宵は仕方がなさそうに口を開く。
「さっきはなんで、ヒナナが必死になって俺をおだてていたのか、理解できなかったけれど……ヒナナは“いい子”なんだな。“いい子”だから、こんな俺を持ち上げようとした。優しいから」
乾いていて、けれど情の帯びた眼差しを向けられて。
やにわに綴られた言葉に、ヒナナの心は鎮まった。
その――彼の、並々ならぬ様子に。あまりに暗すぎる瞳に。
静まり返って、彼の一つ一つの言動が染み込む。
……痛々しいそれが、深く染み込んだ。
だけど影宵は――影宵はそれに、気付かずに、
「――けど、ヒナナと違って俺は“いい人”じゃない。むしろダメ側だよ。その優しさを受け取るだけの資格なんてない」
『ダメ側』である理由は……察しろと。
暗にそう、強く込められていて。
きつく締め付けるように、彼は哀しみを懐きながら。
――少年は想う。自らを“こんなの”と称し、想う。
(こんなのはただの、お荷物だ――足枷でしかない、迷惑ばかりをかける存在)
それが“いい人”? 馬鹿馬鹿しい。世迷い言にも程がある。
自らをそう卑下し、卑下して――泥のような水に浸っても、まだ卑下を重ねた。
覚えているはずの辛さでさえも、そうやって押し殺すのだ。
「俺はヒナナの想像しているような人間じゃないんだ。主人としての条件に合致しないよ」




