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夫々の新しい道

それからまた日常が何事もなかったかのように戻ってきた。

3日に1回は会っていたテルセロとはあれ以来会っていない。

それだけ彼が努力して自分との時間を大切にしていてくれたことを思い知った。

代わりにその時間はエセキアスとの時間となり、仕事帰りにデートを楽しんだりしている。

3か月してレオン殿下が学校を卒業し成人すると、エセキアスは王太子の座を下りて大公となった。

代わりにレオン殿下が王太子に立つ。

その3か月後にはテルセロは隣国のお姫様と結婚をした。

王城で行われたパーティでオフェリアはエセキアスの婚約者として挨拶をしたが、王女様はオフェリアに敵意剥き出しでテルセロの腕にぎゅっとしがみつく姿はなんだか可愛らしく思える。

久しぶりのテルセロとも穏やかな気持ちで向かい合えた。


「エルミラ・オルレアンよ!貴方がオフェリアね!」

「初めまして。オフェリア・アングレームと申します。この度はおめでとうございます」


元テルセロの婚約者であったオフェリアに牽制する様にエルミラがオルレアンの名を強調する。

その横でテルセロがやや苦笑した。

オフェリアをエスコートするエセキアスもオフェリアも涼しい顔をして挨拶をする。

そもそもオルレアン家は侯爵だ。

そしてエルミラは隣国から友好の証として嫁いできた人質のようなものである。

元王太子で大公であるエセキアスに嫁ぐオフェリアの方が将来的には立場が上になるのを理解していない様な振る舞いにむしろオフェリアは心配になった。

本当にテルセロは幸せになれるのか?


「エルミラ、大公の婚約者であるオフェリア嬢にその様な態度をとってはいけない。貴方はもう降嫁したのだから」

「ごっ、ごめんなさい」


テルセロの嗜めに案外素直に謝ったエルミラにオフェリアは微笑んだ。


「可愛らしい奥様ですね、テルセロ様。お元気そうで安心致しました」

「オフェリア嬢もお変わりなく。お二人の結婚式はいつされるのですか」

「オフェリアが成人したらすぐにするつもりだ」

「それは楽しみですね」

「あぁ。何故か周りの方が盛り上がってるのが心配になるが、私は純粋に楽しみにしている」

「イノセンシオ様が余計な魔法を仕掛けないことを祈るばかりですね」

「陛下も何か企んでいそうで怖い」


顔を見て笑い合うとその仲睦まじい雰囲気に負けじとエルミラが張り合うようにテルセロに顔を向ける。


「わたくし達も陛下に色々お気遣い頂いたのよね、テルセロ。お陰で誰よりも素敵な結婚式になったと思うわ」

「過分な配慮を頂きました」


国同士の政略結婚なのだから配慮するのは当然なのだが、まだオリルエニヤに来たばかりのエルミラには張り合うネタが乏しいようだ。

テルセロの為にも意地悪はこれくらいにしておこう。


「今日はエルミラ様のお国のお料理も出ているようですね。私、楽しみにしていたのですよ」

「料理?えぇ、そうね。陛下がわざわざ料理人を呼んでくださったそうよ」

「エルミラ様の国の料理はどの様な特色があるのですか?」

「特色?そうね・・・豆とかチーズをよく食べるかしら。こちらの国より煮込みが多いかもしれないわね」

「なるほど。豆と煮込みですね」

「チーズもよ」

「エルミラ様、今度我が家へ遊びにいらっしゃいませんか」


急なオフェリアの誘いにエルミラはたじろぐ。

だがオフェリアはにこりと笑ってみせる。

婚約破棄前、なかなか会えない日が続いたけれどオフェリアは大量のマフィンやクッキーを収納魔法を施した袋に詰めてオルレアン家に差し入れていた。

そして2人だけのお別れした日も散々泣いた後に3か月分くらいのテルセロの好物を作って王城に向かう前にオルレアン家に届けさせた。

テルセロがそれらを食べたかは分からない。

けれど少しあの頃より痩せたテルセロがオフェリアは気掛かりだ。


「テルセロ様が好きなチーズとベーコンのマフィンを一緒に作りませんか?」

「まぁ、自ら料理を作るんですの?レシピだけ教えて下さればうちの料理人に作らせますわ」

「まぁ、エルミラ様は愛する旦那様に何かして差し上げたいとは思いませんの?私は大切な方には気持ちを込めて作りたいので多少不恰好でも自分の手で作りたいのですけど。エセキアス様、私が作った物を食べるのは嫌かしら?」

「私は君が作ってくれたものは何でも嬉しいよ。とても美味しいしね。またマフィンも作ってくれると嬉しいな。テルセロ殿もそう思うだろう?」

「令嬢には珍しい趣味ではありますが、自分の為に作ってもらえるというのは特別感がありますね」


多分オフェリアの意図を汲んでエセキアスがテルセロに話を振る。

上位の者の言葉を否定も出来ず、テルセロはエルミラに配慮しつつも同意した。

その言葉にエルミラが負けず嫌いを発動する。


「もちろん私はテルセロの事を特別だと思ってますから、一度くらいなら付き合って差し上げても宜しくてよ」

「それでは後日、お手紙で日程調整を致しましょう」


約束を取り付けたのでエセキアスに視線を向けると承知している様に小さく頷く。

エセキアスはオフェリアの意図を読み取るのが上手い。

今日の主役をあまり長くお引き止めするのも申し訳ないと挨拶をする。


「どうぞ、お幸せに」


その言葉にテルセロがあの日のように胸に手を当てオフェリアに僅かに会釈しエルミラを伴って立ち去った。


「優しいですね、オフェリアは」

「かなり意地悪を言ったと思いますが?」

「孤立するだろう彼女を受け入れてやろうと言うのですからあれくらいは許されるでしょう。ただその優しさがテルセロ殿には少し辛いかもしれませんが」

「大丈夫だと思いますよ」

「その信頼が少し妬けますね」

「家族、ですから。もちろんエセキアス様も信頼してますよ」

「超えられる様に努力します」

「もう誰よりも信頼してますよ」


オフェリアは本心からそう言ったのだが、この時のエセキアスの少し寂しそうな笑顔に気づかなかった事を後に後悔するのである。

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