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成功報酬の使い道

翌日、父親に連れられ王城へと向かう。

昨夜一通り泣いてパンパンだった瞼は、見かねた兄様が今朝ヒールで直してくれた。

王の御前で父親を挟みテルセロと並んで婚約破棄を告げられ、お互いの新しい婚約者をあてがわれる。

なんて理不尽なんだと思いながら心にもない

「謹んでお受け致します」

を発しながら、心底冷めている自分がいた。

テルセロと目も合わせる事なく御前を後にし、其々の婚約者と会う為の部屋へと分かれた。


素敵な応接室で待っていると、先ほど王の横に立っていたいつもと違う王太子然としたエセキアスが入ってくる。


「オフェリア、怒っているのか」

「怒る?私が何に怒っていると?」

「新しい婚約者を勝手に決められたことに」

「お相手がエセキアス様ですし、そこは特に気にしていません。エセキアス様が王太子だなんてことは全然知りませんでしたけど」

「仮初の王太子だからな。では何に怒っているのだ?」

「別に怒ってません」

「他のよく知らぬ者に良いようにされるよりは私の方がマシだと受け入れてくれると思ったのだが、他に嫁ぎたい者がいるならばなるべく意に沿うように対処しようか?」


怒っていないと言っていたが、自分の中のモヤモヤの正体にオフェリアは気づいた。

隣国のお姫様に振り回された人間がここにももう1人居たのだと。


「逆にエセキアス様は私で良いのですか?」

「オフェリアには王家に縁付いて欲しいとずっと思っていたし、こちらの都合で破談となったのだから当然ではないか」

「そうじゃなくて!エセキアス様自身は私なんかと結婚する事になって嫌じゃないのですかと聞いているんです!」


オフェリアの主張に一瞬思いがけなかった風に目を丸くしたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべる。

いつもの魔塔の制服じゃないせいか、レオン殿下なんかよりも一層王太子が板についてる感じで、色気にやられてしまいそうだ。


「嫌なものか。これは私が掴み取った結婚だからな」

「隣国のお姫様に振り回された結果ではなく?」

「このタイミングは有り難かった。もしも王太子を辞した後ではレオンに取られていたかもしれない。君がイノセンシオに再度私との結婚について前向きな発言をしてくれていて助かった。イノセンシオもかなり君と結婚したがっていたからな」


なにやら前向きな様子にオフェリアは内心驚く。

まさかオフェリア争奪戦にエセキアスまで参戦したがっていたとは思っていなかったからだ。

少し嬉しそうに話すエセキアスはオフェリアの好みドンピシャの顔なだけに眩しい。


「エセキアス様がそんな事言うなんて意外でした。エセキアス様も私の魔法とか第四騎士団との繋がりが欲しかったのですか?」

「まさか。どちらも王太子であり、魔塔長である私には必要ないものだ。オフェリアは自分自身の魅力をもう少し理解した方がいいね。そんな鈍感なところも可愛いと思うが」


エセキアスが手を伸ばし、オフェリアの手を取るとその指先にキスをする。

オフェリアは手を取られたまま固まった。

急な甘い雰囲気に砂を吐きそうだ。


「エセキアス様、キャラ崩壊してます・・そんなナンパな方じゃないでしょう」

「いやいや、今までは継承権がややこしくなるから自重していただけだ。自分で相手を選べるとは思っていなかったから余計嬉しくてね」

「その割にさっき私の望みが違うなら手放すと仰ったじゃないですか」

「君を不幸にしてまで自分の望みを叶えたいとは思わないよ。そもそも成功報酬として望まれれば叶えないわけにいかない」


諦めることに慣れているのだろう。

オフェリアとの結婚がそんなエセキアスが望む数少ない我が儘なら叶えてあげたい。

そもそもオフェリアもエセキアスとの結婚は嫌ではないのだ。

なんなら精神的年齢も近いし、顔も超好みだし、普段の紳士な人柄も好きだし、キャラ崩壊したエセキアスも恥ずかしいけど可愛いと思う。


「使徒様なのに自由にならないものなのですね」

「いや、今思えば私の運命の乙女として君を自由に選んだのだ」

「そもそも使徒様の役割って何なのですか?」

「王宮の宝物庫で古い魔導書を見つけてね。なんだか気になって手に取った。魔塔の部屋に持ち帰って本を開くと、君と転生する前に話したあの場所に移動していて、見知らぬ男に言われたのだ。其方に運命の鍵を握る事になる人間の魂の選定をさせてあげよう、と。君以外にも何人かの魂と話をしたけれど、自分が不幸になる事にアッサリ了承してくれたのは君だけだったし、私が任せたいと思えたのも君だけだった。君の魂を選び終えると自分の部屋に戻っていて、認識した魔法は使えるようになっていて、オリルエニヤ内であれば見たいものが見れるようになっている事を理解していた。それだけだよ」


その魔導書をオフェリアが開けば成功報酬として望みを叶えてもらえるらしい。

自分の傍に置いていたその魔導書をエセキアスがオフェリアに手渡した。


「テルセロを取り返すことだって、他の男に嫁ぐことだって、君の望みのままだ。さぁ、本を開いて」


オフェリアは促されるままに魔導書を開く。

気がつけば転生する前にエセキアスと会話をしたあの空間に立っている。


「やぁ、きたね」

「神様、ですか?」

「まぁそのようなものだ。さぁ、君の願いを教えてくれ」


今日聞かれると思ってなかったのだが、オフェリアにはすぐ願いが思いついた。


「テルセロが幸せに過ごせる様にしてください」


今回の婚約破棄で一番痛い目を見たのはテルセロだ。

今まで頑張って守ってきた婚約者と王命で無理矢理破局させられ、会って間もない隣国のお姫様と国の為の犠牲になる。

お姫様は自分の願いを押し通したのだから政略結婚の為に他国に嫁に出されるとは言えあまり同情の余地はないし、テルセロの事だから義務だろうがお姫様をきっと大切に扱うだろう。

エセキアスも自分で選んだと言ってくれた言葉に嘘はないと思う。

正直、テルセロに対して破棄が決まっていたからオフェリアが不誠実だった部分がかなりあると思う。

自分は婚約破棄された時に傷つかない為に好きにならないようにしていたけど、エセキアスに対してはそんなブレーキは必要ないと思うと浮かれる部分がある。

だからせめてテルセロを幸せにしてあげられなかった罪滅ぼしをしたいのだ。


「自分に対する願いではないのだな」

「自分がしてしまった不誠実な行いに対する願いなのです」

「分かった、叶えよう」


そう男が微笑むとオフェリアは先程までのエセキアスとの向かい合って座る空間に戻っている。

エセキアスが心配そうにオフェリアを見つめていた。


「エセキアス様?」

「願いは叶えられたのか?」

「叶えると言われはしましたけど、効果の程は分かりませんね」

「何を望んだのか聞いても?」

「うーん、秘密です。心配しなくてもエセキアス様は私が幸せにして差し上げますから大丈夫ですよ!」

「オフェリアが?」

「神様にお願いしなくったって夫を幸せにするのは妻の仕事ですから!」


胸を張ってドンと胸を叩いてみせる。

エセキアスは安心した様に微笑んだ。


「ではオフェリアを幸せにするのは夫である私の仕事だな」

「そうですよ。お願いしますね」


エセキアスは嬉しそうに頷いた。

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