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魔法使いに便利魔道具は無粋

やっと魔塔への出勤が許可されたのはイノセンシオが来た2日後だった。

お陰で我が家への2度目の襲撃は防げたのだが、朝からオフェリアの研究室にイノセンシオは我が物顔で居座っている。


「ギジェルモが会いたいと言って来たから断っておいたぞ」

「団長様ですよね?良いんですか、そんな簡単に断って」

「オフェリアは魔塔の子なのだから騎士団になんぞやる訳ないだろう」

「え、そういう話なんですか??」

「どうせ防御魔法を教えろという話だろう」

「あぁ。兄様にも教えましたから、兄様から習えば良いんじゃないですか。第一騎士団には教えたくなさそうでしたけど」


俺も教える気はない、とイノセンシオは視線を手元の書類を眺めながら言う。

自分の仕事を持ち込んで応接セットに書類を広げるくらいなら自室でやれば良いのにと思うのだが、ここ数日家にこもっていたので話し相手になってくれるのは嬉しい。


「イノセンシオ様、何かお手伝いしましょうか?」

「そうだな、何か新しい魔法を考えてくれ。家にこもっている間に何か考えたものはないのか?」


何か歌でも歌ってくれとでも言うように随分気軽に言ってくれる。

だが、オフェリアだってそれを見越して1つ考えてきたのだ。

テッテレー!


「たけ…プロペラ〜」

「なんだそれは?」

「これは魔道具です。こうやって頭にくっ付けて、飛べ!と思うと飛べます」


実際頭にくっ付けて浮かんでみせると、イノセンシオが大きなため息を吐く。

あれ、もう飛べるからお気に召さない??


「魔道具ということは、魔法が得意でない者でも使えるということか?」

「そうです。充電が必要ですし、1回に8時間が限界ですけど、念じるだけでいけます!」


そう言いながら、オフェリアは椅子に座ったままのイノセンシオの頭にもえいっと付けてしまう。

椅子に足を組んで座っていた格好のまま、ふわりとイノセンシオが浮かび上がった。

しかしいつもと違ってイノセンシオがあまり嬉しそうではない。

なんなら浮いたまま、額に手を置き大きなため息を吐く。


「お気に召しませんでした?」

「気に入ったに決まっている!」

「でも嬉しくはない?」

「個人的には嬉しい。だが…」

「だが?」


返事はまた大きなため息になった。

返事がないままイノセンシオは部屋の中をぐるぐると飛び回る。

気に入ってるじゃん…。

理不尽だと思っていると元の位置に戻ったイノセンシオが自分の隣を指差したので従って座る。


「これはいくつある?」

「5つです。私とイノセンシオ様とエセキアス様と兄様とテルセロ…婚約者の分です。まだイノセンシオ様にしか渡してません」

「存在は誰かに話したか?」

「いいえ、これが初めてです」

「宜しい。全て預かるので出しなさい。それから他言してはならない」

「何故ですか?」

「先日使った魔法の絨毯は魔導士の力量によるもので、多分この先も使える様になる魔導士は限られるだろう。それくらい難しい魔法だ。だがこれは誰でも使用することが出来る」

「悪用されると困ると言うことですよね?そう言うだろうと思って使用者限定の術式を組み込んでありますので、先ほどお伝えした5人しか使えません」


そう言って胸を張るとイノセンシオはまた微妙な顔をする。

そんな残念な子を見る様な顔をしないで欲しい…。


「存在が公になれば自分にも作って欲しいという輩が現れる。そして現状これを作れるのはオフェリアだけだ」

「私が作ったって言います?」

「誰が言わなくても予想はつく。オフェリアの才能を知っているものなら」


つまりはオフェリアの身を案じてくれているのだと言うことは良く分かったので、オフェリアは素直に5本共差し出した。

受け取った魔道具をイノセンシオはすぐにアイテムボックスにしまう。


「魔法だけかと思っていたら魔道具も作るのだな」

「最近はあまり作ってませんでしたけど、学校に入る前は私の魔法を取得出来ない家族のためにたまに作ってました」

「待て、今まで作ったものを出してみろ」

「ほとんどあげちゃったので残ってないですけど、残ってるのは糸なし糸電話とか、落とし物が返ってくるスプレーとか、どんな重いものでも軽く持ち上げられるようになる手袋とか、小さくなる光源とか…?」

「・・・逆に何を渡したのだ」

「アイテムボックスの代わりになる収納鞄とか魔法制御用の杖とか?」

「魔法制御の杖?」

「子供の頃って魔力を上手く使えないじゃないですか?杖を握ると勝手に魔力が吸収されて少ない魔力でも効率よく魔法が使える様になる杖を作ったんですよ。魔力の使い方が分かってくると杖なしでも出来る様になるし、杖を使うと逆に威力が強くなり過ぎるんで最近は弟もほとんど使ってないんじゃないかな」


イノセンシオに手を差し出されたのでオフェリアは自分用の杖をアイテムボックスから取り出して渡す。

魔法使いには魔法の杖だと思って作ったんだよね。

外で使うと厨二病みたいだから今は使わないけどさ。

特に人指定の制御を掛けていなかったので、イノセンシオがテーブルの上のティーカップにひょいと杖を振るとビュッと凄い勢いで水が出て、ティーカップどころか机が大きな音を立てて半分に割れた。

机の上に広げていた書類が水浸しになったのは自業自得とはいえ、大惨事である。


「あぁっ!?なにするんですか!!」

「おまっ…」

「机もティーカップも気に入ってたのにぃ」

「どちらも俺が買ったものだろうが」

「ぐぬぬ」

「それより怪我はなかったか?」

「大丈夫ですけど、イノセンシオ様の書類は大惨事ですよ」

「それはいい」


心底どうでもいいようにイノセンシオは手を振る。

背もたれに身を預け仰け反るように天を仰ぐ。

オフェリアは仕方なく魔法で片付けをする。

しかし濡れた紙を乾かすことは出来てもレロレロだし、穴が空いた紙も机もティーカップも直らないのだが。


「この杖を持ってるのは弟だけか?」

「兄も持ってますし、婚約者も持ってますよ」

「またオルレアンか…オルレアンは他に何を持ってる?」

「うーん、まだ持ってるとしたら杖と動物クッキーくらいかな?」

「動物クッキーとは?」

「食べると5分くらい動物になれるクッキーです。兄様が屋敷から持ち出すのはダメって言うので他はあげてはないですよ」


そこにドアがノックされ、エセキアスが入って来た。

どうやらオフェリアの部屋から大きな爆発音がしたと報告が入ったらしい。

入って来たエセキアスが2人の座る長椅子の前にあった机が真っ二つになっているのを見て眉を顰める。


「どうしたらこの様な惨状になるのだ」

「エセキアス、色々問題が発生した」

「色々?」

「色々じゃないですよ、ただイノセンシオ様が杖をひゅってやってすごい勢いで水を出してかち割っただけの事じゃないですか!」

「俺が言ってるのはそこじゃない」

「杖とは?」

「これだ。絶対振るなよ」


イノセンシオから渡された杖をまじまじと見る。

コツコツと窓辺に寄ったと思うと窓を開け、裏の薬草畑の空に向かって水を撃ち出す。

結構な量の水が放出されたのを確認すると、なるほどと言って窓を閉めた。


「これをオルレアンの坊主が持っているそうだ」

「困りましたね」

「困るんですか?もう使ってないと思いますよ?」

「これを持ってるのはテルセロ・オルレアンだけですか?」

「兄と弟も持ってるらしい」

「他の問題とは?」

「だから色々だ」

「もう1つ事例を」

「これ」

「なんですこれ?」


受け取ったプロペラをマジマジと確認する。

オフェリアが使い方をレクチャーすると確認する様に頭につけて飛んだ。

元の位置に戻ってプロペラを自分のアイテムボックスにぽいと放り込むとにこりと笑う。


「なるほど。とりあえず、私の部屋に移動しませんか。これではお茶も飲めませんから」

「そうだな」


イノセンシオは立ち上がるとひょいとオフェリアを荷物でも持つ様に小脇に抱える。


「離して下さいませ!自分で歩けます!」

「移動するまで少し黙っていろ」


どうやら隠蔽の魔法をかけられて、見えなくされたのだと気づきオフェリアは仕方なく口を閉ざした。

エセキアスと連れ立ってオフェリアの部屋を出て、エセキアスの部屋に移動する。

エセキアスの部屋の長椅子に下ろされ、またイノセンシオの隣に座らされた。

エセキアスは少し離れた執務机に向かって何かを書くと侍従を呼ぶ紐を引く。

同じ階の従者の部屋でベルが鳴り、侍従が来てくれる仕組みらしい。

部屋に来た従者に2通の手紙を託すと、2人の前の席に座った。


「さて。オフェリアは魔道具作りも得意なのですね」

「エセキアス様も同じ様なこと言うんですね」

「魔道具で空を飛べるなら箒なんて使うと思わないでしょう?」

「いやいや、わたし的には魔法使いは箒で飛ぶものなのですよ。さっきの頭にくっつけるやつは確かに便利なんですけど、一回の充電で8時間しか使えませんし」

「じゃあ何で魔道具を作ったんです?」

「今回の戦闘で飛びながら攻撃が出来ませんでしたし、絨毯は嵩張るし、箒もイノセンシオ様達が持つと違和感があるというか…」

「最後は良く分かりませんけど、利便性や安全性を考えてくれたわけですね?私達の」

「両手が空いてた方が良いでしょ?」


まぁそうですねと言いながらどこか呆れている。

泣きつかれてもいないのに便利魔道具を出してはいけなかったらしい。

イノセンシオの期待に応えただけなのだが理不尽だ。

そうこうしている間にドアがノックされ、アメリオが現れた。


「あまり気軽に呼ばないで頂けませんか」

「君の妹君が問題ばかり起こすのだ」

「はぁ、貴方方がひっぱり出したのではありませんか」

「私じゃないですよ!イノセンシオ様が私の研究室の机を破壊したのです!」


とりあえず座る様に促されるが、オフェリアの隣には既にイノセンシオが陣取っている為、アメリオは仕方なくエセキアスの隣に座る。

ちょうどオフェリアの前に座ったアメリオがオフェリアの訴えを拾う。


「どうやって破壊したって?」

「私の杖をお貸ししたら水を凄い勢いで出してお気に入りのカップと机を壊したんです」

「あぁ、杖ね…それで、何故私が呼ばれたんです?」

「同じモノを君たち兄弟と婚約者が持っていると聞いたからだ」

「心配には及びません、我が家以外では使用禁止にしてますから」

「君はまだしもまだ若い弟君や婚約者が漏らすかもしれないだろう」

「テルセロはないですよ。一番オフェリアを隠蔽してきたのは彼ですから」


オフェリアも知らなかったが、本来王子の側近であるテルセロの婚約者なら未成年と言えどもっとお茶会などに同席させられているハズだったらしい。

しかしオフェリアを囲っていたかったテルセロがそれをヨシとせず、勝手に断っていたそうだ。

テルセロの父親であるオルレアン侯爵にしてみれば、息子が語るオフェリアの優秀さが本当かどうかなんて事はどうでも良い。

婚約者の屋敷に入り浸る息子が勉学も魔術も自宅で学ぶより遥かに高度であろう事を学んで帰ってくるのは、そもそも婚約させた理由である第四を担う家系であるアングレーム家の知識と信頼を得ているからだと思っての事だ。

ただそれによってレオン殿下が、テルセロの婚約者であるオフェリアの能力を疑い、親切心から王命によって婚約破棄をさせようかと言い出してテルセロの隠蔽が破綻し始めた。

テルセロがどんなに否定しても正義を信じて疑わないレオン殿下を止める為、テルセロはオフェリアの優秀さを示さねばならなくなったのである。

それが聖女に勉強を教えることだった。

しかしそれがキッカケに却ってレオン殿下のオフェリアに対する興味を惹き過ぎてしまったのは言うまでもない。

レオン殿下だけでなく、その婚約者であるグラシア公爵令嬢、聖女であるファティマ、そしてレオン殿下の側近たちが次々にオフェリアに夢中になっていく。

結局魔塔にオフェリアを隠すことでそれらから隔離でき、婚約も確固たるものになったとテルセロは信じているだろう。

と言うのが、アメリオから語られた真実だ。


「ただアークウェイラとの戦争にオフェリアが関わっている事はオルレアン侯も知らないはずですから、隠蔽のしようがない。もう彼らには力不足なのかもしれませんね、可哀想ですが」

「力不足って?」


質問をしたオフェリアに3人の視線が向けられる。

テルセロがそんなに自分の存在に気を遣ってくれていたとは。オフェリアが魔塔に入る直前に聞いたのより隠蔽は大掛かりだった様だ。

しかし個人の能力値も高く、家も侯爵家で、侯爵は法務大臣なのだから力不足と言うことはないだろう。


「オフェリア、結婚するなら私とエセキアスどちらがよい?」

「なんで今その話なんですか?ご存知の通り婚約者いますよ」

「もしもの話だ。いいからどっちなのだ」


急かされてイノセンシオとエセキアスの顔を見比べる。

どちらもイケメンで魔塔所属。

エセキアスの家のことはよく知らないが、イノセンシオは公爵家。

エセキアスは使徒。

多分イノセンシオの方が年上。

イノセンシオは妹の様に可愛がってくれるが暴走気味。

そもそも理由も説明せずにこういう質問をするのがムカつく。

よって答えは


「じゃあ、エセキアス様で」

「じゃあって何だ!こんなに可愛がってるのに何で私を選ばないのだ」

「そういう所ですよ」


憤慨するイノセンシオにアメリオが残念でしたねと肩をすくめる。

兄様だってイノセンシオが義理の兄になるのは嫌だろう。

どこか安心して茶化している気がする。

エセキアスが呆れて話題を変えようと口をひらく。


「オフェリアが作った魔道具を渡したことがあるのは家族とテルセロだけですね?」

「えーと・・・あ、レオン殿下に解毒の指輪を渡しましたね。入学前にテルセロ経由でですけど」

「解毒の指輪?」

「毒を仕込まれそうになったとご相談を受けて、装備しておけば毒耐性効果が得られる指輪を作ったのですよ」


確かにレオン殿下毒殺未遂があったな、と3人が頷き合う。

しかしそんな指輪の話は知らなかったらしい。


「オフェリア、今後自分で作った魔道具を他人に渡すことを禁じます」

「えっ家族にもですか?」

「アメリオが許可したものなら良しとしましょう」

「テルセロは?」

「ダメです」

「俺とエセキアスには良いぞ。というか何か作ったら提出しろ」

「イノセンシオ様にはもうあげませんから大丈夫です」

「おい」

「テーブルとカップ買い直してくれるならあげても良いですよ」

「もとよりそのつもりだ」


こっちも元よりそのつもりだけどね。

一応言質は取った。

今まで作った魔道具のレシピを全部出す様にと言われて嫌な顔をしたが、特許申請の為だそうなのでオフェリアはとりあえず請け負う。

面倒だがそれを誰かが活用してくれるなら良い事だ。

あんまり役に立ちそうなものはないけど。


ちなみにこの日オフェリアが退勤した後、テルセロも魔塔に呼ばれたらしい。

オフェリアが作った杖を提出する様にと言われたそうだが、思い出の品なのでどうしても手放せないと拒んだそうだ。

結果、絶対にオフェリアが作ったと口外しない事や人前で使用しない事など誓約魔法書にまでサインさせられたらしい。

誓約魔法書は約束を破った時にとても酷い制裁を受ける事になるのでテルセロにとても不利なものだ。

だから誓約魔法なんてそう簡単に使われるものじゃない。

どうせ杖なんて使ってないんだから提出すれば良かったのに、とオフェリアは呆れたが、テルセロはお前が初めて俺の為に作ってくれたものだろうと昔を懐かしむ様に手元の杖を優しく撫でた。

前世を24歳で終えたから、どうしてもテルセロの事は弟としてしか見ることが出来ない。

現世の年齢がそこに加算される感じでもなくて、ずっと24歳を更新している感覚。

だから20代後半のイノセンシオや20代中盤であろうエセキアスの方がしっくりくる。

顔はエセキアスが好みのドンピシャなんだよね、実は。

大事にしてくれるのは嬉しいけれど、テルセロの想いに応えられない自分が申し訳ないと思うオフェリアだった。

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