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婚約者はオヤツが目当て

与えられた役割は攻略対象の婚約者である。

特に悪役令嬢という訳でもないので、断罪されることもないらしい。

単に婚約者に婚約破棄されたという不名誉が残るだけだ。

それさえ受け入れてくれたら、あとは自由にして良いし、願いを1つ叶えてくれるというのでその役割を引き受けて私は転生した。


「オフェリア、また魔法の勉強かい?」

「お兄様、または余計だわ。それに刺繍をしていたところよ(魔法でだけど)」

「それは結構…しかしテルセロと約束があったんじゃないかな?」

「まぁ、お兄様、それを早く言って!」


オフェリアは慌てて全部投げ出すと部屋を飛び出す。

テルセロは今のところオフェリアの婚約者であり、まだ学園に入学していない2人の関係は単なる幼馴染といったところで良好だ。

応接室の前までバタバタと走ってきたけれど、立ち止まってオフェリアは自らに魔法を掛ける。

呪文を唱えれば、さっきまでのやる気のない格好から客人を迎えるのに相応しい格好に大変身だ。


「ごめんなさい、待たせてしまったかしら」

「もう新作のお菓子を出してもらったから大丈夫」

「テルセロはお菓子の為に私に会いに来ているだけだものね」


オフェリアはテルセロが座る真向かいに腰を下ろして肩をすくめた。

政略結婚の為に結ばれた婚約者の為、本人達の意思は関係ない。

リスみたいにお菓子を頬張るテルセロは1歳歳上だが、前世の記憶を持つオフェリアにとっては可愛い弟の様なものだ。

親達に月に2度親睦を深める様にとお茶会を設定されているが、オフェリアが作るお菓子が気に入ってからは呼んでないのに毎週の様に通ってきている。


「来週、入学でしょう?楽しみね」

「何が楽しみなんだよ。俺は全然行きたくない」

「まぁなんで?お友達が増えたりとか、新しい事を学べるじゃない」

「そんな事より毎週オフェリアに会いに来れなくなりそうなことの方が問題だよ」


テルセロはそう言って鼻息を荒くするが、ここは感動するところではない。

お菓子が食べられなくなるとか、前世の記憶を活用したオフェリア考案の遊びができなくなるとかそんな理由だろう。

不登校にならない事を祈るばかりである。



そんな事を思っていた事が私にもありました。

結論から言うと、テルセロはちゃんと毎日学校に通っている。

しかし家がそう遠くないこともあって学園に入る前よりも何故か我が家に入り浸っているのだ。


「クラスにファティマ嬢っていう男爵令嬢がいるんだけどさ、聖魔法が得意なんだ」


聖属性魔法はお約束通り希少属性だ。

つまりヒロイン登場ですね。


「だけど、ファティマ嬢はその聖魔法が使えるってんで最近男爵令嬢の養女になったばかりの元平民で、勉強もマナーもイマイチでさ。レオン殿下が見かねて勉強を教えてるんだよ」

「その勉強会は他に誰が出てるの?」

「2人で図書館でやってる。だからやっかんだ他の令嬢達がファティマ嬢を虐めてるんだって」


悪役令嬢あるあるの展開。

しかし待って欲しい。

悪役令嬢のとりまきが勝手に空気を読んで犯行に及んでいるパターンと、むしろヒロインがでっち上げて王子の関心を引きたいパターン、そして本当に普通に虐められている王道パターン。

そこを先に見極める必要がある。


「レオン殿下には婚約者がいらっしゃるでしょう?なのに他の令嬢と2人きりというのは外聞が悪いのでは?」

「殿下にもそう言ってるんだけど、やましい事がないのだから堂々としているべきだって聞かないんだよ」

「さっきの虐めってそのご令嬢に同様に忠告して下さってるだけなのでは?」

「そうかも。虐めって言ってんのは殿下だけだしね」


テルセロも侯爵家の嫡男で、殿下の側近なのだが、特にヒロインのことも殿下のことも擁護する気はないらしい。

あたかも面倒だと言わんばかりにお菓子に手を伸ばす速度が上がる。


「殿下の婚約者であるグラシア様はどうなの?」

「事情は分かってるから今はまだ傍観してるって感じかな」

「それでテルセロはどうしたいの?」


そう質問を投げかけられてテルセロはうーん、と唸って腕を組む。


「俺は早く帰りたい」

「は?」

「早く帰ってここに来たいんだよ。なのに殿下が帰らずに図書館で勉強をするとなると先に帰る訳にもいかないだろ?」


まぁ側近だからね。

やる気のない側近だけど、テルセロも攻略対象なのかスペックは良い。

勉強も魔法も剣術も平均点以上だ。


「だったら一緒に勉強したら良いんじゃない?」

「俺まで常識はずれだと思われたらどうするんだ?俺はオフェリアの婚約者だって忘れてないだろうな?」


なんて常識的な事を言うのだろう。

将来的には貴方、私に婚約破棄をつきつけるのよ?と言ってやりたいところだ。


「忘れてないわよ。でも2人きりよりは殿下の外聞を守れるんじゃない?そもそも他の側近の方達はどうしてるの?」

「俺と一緒に少し離れた所で勉強してる」

「誰も殿下を咎められないし、泥を被る気がないのね」

「否定はしない」


オフェリアの苦言をテルセロは肩をすくめてあっさり受け入れる。

大量に作ってあったマドレーヌとクッキーはもう半分ほど姿を消していた。


「グラシア様に勉強会に参加して頂いたら?」

「頼んだけど、王妃教育があるから無理だって」

「グラシア様も大変ねぇ。他の側近の方の婚約者の方に協力頂いたら?」

「皆、年下でまだ入学してない」

「じゃあ、お姉様がいらっしゃる方はいないの?」

「卒業してる」

「八方塞がりね」

「いや、一個だけ方法がある」


クッキーを摘んだ指を掲げてテルセロはその案を披露する。


「オフェリアが教えれば良いんだよ、学校の外で」

「はぁ?私もまだ入学してないんだから学校の勉強なんて教えられる訳がないじゃない」


そう呆れてみせるが、テルセロの言いたいことは分かった。

前世では大学院出であり、その記憶もある。

受験戦争を勝ち抜いてきたオフェリアにはこの世界の低い基準の勉強など楽勝なのだ。

その為、兄の教科書はもとより専門書の類まで興味のあるものは読破して理解している。


「俺に勉強を教えたのはオフェリアじゃないか。お陰で俺は授業を聞いていなくてもテストで合格点を取れる自信がある」

「そこはちゃんと聴きなさいね」


はぁ、とため息を吐くオフェリアをよそに結局全てのお菓子を1人で平らげたテルセロは2日後ヒロインを我が家に連れてくると言い残して帰って行った。

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