復讐 For You partⅡ~オール・レイドウ・ニッポン・零~
R15にしました。暴力的な表現と性的な表現がありますので、苦手な方はご注意宜しくお願い致します。申し訳ございません。
駅からそれなりに離れていますが、それにしては格安なこの部屋は、案の定、人が寄り付かない物件で、深夜になるとキッチンに幽霊が現れます。
別に何かされる訳では無いのでほっといていましたが、よく観察をしてみると現れる幽霊は総て別人の様で、どうも我が家のキッチンは所謂、霊の通る道、霊道になっている様でした。
幽霊達はみんな何か物言いたげの様なので、試しに骨董品で買った古いラジオを置いてみたら、電源を入れていないのに陽気な音楽が流れ、まさに深夜放送みたいなノリのパーソナリティが喋り出しました。
あっ、このパーソナリティの男、知っているなと思い、記憶の底をこねくり回してみると、10年前、新人アイドルに刺殺された芸人でした。
深夜27時から始まるそれは、この世に想いを残した者達から、自身の無念の思いを紹介している番組で、「オール・レイドウ・ニッポン・零」と勝手に名付けて、楽しんでおりました。
今夜はどんな話しが聞けるだろうかとワクワクしていると、女性からの投稿が紹介されていました。
その内容を書き出しましたので、お楽しみ頂ければ幸いです。
私は地方の小さな街のメイド喫茶で働いていました。
お店は元々、何かの風俗店だったそうですが、うちの会社がそこをコスプレメイド喫茶に作り変え、東京まで通えないお客様に受けて、賑わっておりました。
私はみるきという名前でお店に出ていて、チェキの指名も沢山頂き、それなりに人気のあった方だと思います。
あの日は閉店まで働いており、お店を出ると厚い雲が月を飲み込んだ、そんな夜でした。
一緒にシフトに入っていた、まいむ、りる、あてなは、まいむの彼氏が男友達を連れていましたが車で迎えに来たので、三人一緒に帰っていきました。
私は一人、国道の沿いの道を歩き、駅へと向かいます。
途中のわき道から住宅街に入るとショートカットが出来ます。玄関灯がぽつりぽつりと照らすそんな暗い道ですが、いつもそちらを通ることにしています。
3階建てのビルを横切った時、視界の隅が、そこの一階の駐車場スペースから影が動いたのを捉えました。
何だろうと振り向くと、すぐそこにフードを被った長身の男が立っています。目を動かすと、その手にはナイフが握られていました。
悲鳴を上げるよりも早く男は、私の顔を正面から、鼻の下と顎を左手で固定して、口が開けない様にすると、左手に握っていたナイフを振り上げます。
何とか逃げようと手を動かしますが、男は怯みません。
左手で振り上げられた腕を掴もうと伸ばしましたが、身長差もあって届きません。ですが男は頭を低くしていたので、私の手がフードに当たり、一瞬、中の顔が玄関灯に照らされます。その顔は何処かの記憶に引っかかりましたが、それはすぐに消えて無くなりました。
男が私の頬にナイフを突き刺したからです。
そこで私は意識を失います。
気が付くと病院のベッドの上でした。私が目覚めたことに気が付かない、医師とコスプレメイド喫茶の店長との会話がぼんやりと流れて来ます。私の額と頬の傷は深く、このまま一生残るというのです。
抜糸が終わり鏡を見ると、頬の上に大きな醜いバツの字が刻まれ、そして額には“ビッチ”と読める縫い後が浮かんでおり、私の意識はまたショートします。
退院後、帽子を深く被り、大き目のマスクをして事務所に顔を出すと、この傷です。やんわりと廃業を促されました。退職金と見舞金を合わせた纏まったお金を頂きましたが、納得できません。
顔をこんなにしたヤツを許せない。復讐したい。
幸い、私の事務所はホワイトな企業ではなく、ブラックな組織と繋がっている職場なので、自分の所の商品を傷つけられたと、警察にパクられる前に確保することに懸命になっていました。
店長が何でもない風を装って、「お前、まいむと何かなかったか」と尋ねて来ます。
額にビッチと書くヤツです。当然、顔見知りの犯行です。
まいむと同じ時間に私がシフトに入ると、まいむの客を取ると言われているという噂を耳にしたことがあります。確かに一緒のシフトだと、私の方がチェキの依頼は多かったです。
「何にもなかったです」
気が付かないフリをして、店を後にしました。
まいむが妬んでこんなことを私に。あの日、彼女が載っていた車には、運転席に座る彼氏と助手に乗る男。その男の顔こそ、記憶が引っ掛かっていた顔で、その時、見たからだとハッとしました。
車に乗っていた時も、襲われた時も、一瞬だけしか見ていませんが間違いありません。
それから彼女に復讐することばかりを考えておりました。まいむのSNSに上げられている写真を一枚一枚保存し、ネットで特定のやり方を学んで、彼女の住まいを見つけました。
私は彼女に復讐した後、自分の人生も閉じるつもりでいましたので、何故こんなことをしたのか、理解して貰えるように、動画投稿サイトにチャンネルを作り、自分の身に起きた不幸を嘆く動画をUPいたしました。
恨みを語っているだけの動画ですから、メンヘラ女痛いと喜ぶような人間が数人登録いるだけのチャンネルでしたが、二ユースになった時、騒いでくれればそれでいいので、まったく構いません。
ただ、話題を作らないと気が付いて貰えません。わたしはまいむのアパートの前でこれから犯行を行うことを話した動画を撮ってその場でUPします。
ヒモ男の彼氏も養わなければならないまいむは、セキュリティーの高い部屋に住めるほど稼ぎはありません。
ポストに隠してある合い鍵を取り、ドアを開け、L字型の器具を使ってチェーンに引っ掛けると簡単に外れましたが、チェーンがドアに当たる音が大きく響きます。
目が覚めるかと思い恐れましたが、誰も出て来ません。そっと室内に侵入すると寝室の方から激しめの声が聞こえてきます。
開いている部屋の扉から覗くと、月明かりしか入ってこない部屋で、裸のまいむが座っている裸の彼の上にまたがって、激しく揺れていました。
あっけに囚われて見ていると、まいむと目が合います。
見開かれたその目を見た瞬間、今しかないと決意し、部屋に押し入ります。
声を上げられるよりも早く、手にしたアイスピックでまいむの肩を突き刺すと、悲鳴を上げ、ついでに彼も痛みで悶え始めます。
突然の襲撃と痛みに驚いたまいむの体内が、きつく締め付けをしたうえ、痙攣までも起こしたので、彼のを握りつぶしそうな勢いで包み込んでいる様でした。
もちろん、二人は離れることが出来ません。
動けなくなった二人をチャンスと思い、腕を振り上げると、その手を誰かが止めます。
見ると店長がそこに立っていました。
つぎつぎと男達が部屋に入っていきます。おそらくブラックな事務所の方々でしょう。
男達はパニックになっているまいむの顔を殴ると、彼女はすぐに大人しくなっていました。彼の方は閉め落とされています。
繋がったままの二人を外に出すと、店長はスマホを取り出し、私がさっきUPした動画を流し出して見せます。
フォロワーの一人は店長でした。私が何かをする様に仕向け、思い通りになったと笑っています。
「アイツら俺が片付けておくから、お前ここで責任を取れや」といって店長はアイスピックを私の手に握らすと、喉元に腕を誘導させます。
もちろん後悔はありません。復讐が出来ればそれでいいのです。私は二、三度頷き、言われた通りのことを致しました。
その後のことは身体を失ったので、詳しくは判りません。
店長が約束を守ってくれていることを願うばかりです。
これで私のお話しは終わりです。ただ、まいむのことばかり考えていたので、私を襲った男のことをうっかり忘れ、その復讐出来なかったことが心残りです。
この話を読み終わった、パーソナリティの男は感想を手短に述べると、
「それではここで、ラジオの前にキミに世界初解禁。君の家に届けちゃうよ。ペンネーム“コスプレメイドの冥土みあげ”ちゃんで『復讐 For You partⅡ』です。チャンネルはそのままステイチューン」
と言うと、ラジオの前にメイド服姿の女が現れました。頬にはバツ印。額には“ビッチ”の文字。あの女です。あの夜、私が襲い、まいむとかいうヤツの家で命を絶った、あの女です。
月並みな表現ですが、女の顔を見た瞬間、動けなくなりました。金縛りです。
女は音もなく私に近付くと、これが呪いなのでしょう。私の右手で自らの首をぐいぐいと絞め付けていきます。この女を何とかしない。途切れそうな意識を何とか保って、タンスの奥に隠したナイフを取り出すと女の腹に突き立てます。
と ころがナイフは何故か私の腹に刺さっていました。食道を駆け上がって来た血が、自分の手で喉を絞めているので詰まっていきます。
とうとう意識が遠のいていき、女は復讐を果たしました。
でも聞いてください。私はネットで求人があったか乗っただけで、頼まれた仕事をしただけです。
なので、こんな仕打ちを受けるのはお門違いではないでしょうか。どう思いますか?
「ペンネーム コバンザメ・コンプライアンスさんからのお便りでした。人の人生滅茶苦茶にして、なにがコンプライアンスだよ、図々しい。長いしさ、もうちょっと纏めてね。えぇっと、まぁ、人に酷いことをしたんだから、しょうがないよね。因果応報だよ。諦めてね。では次のお便りは、おっ、ペンネーム“復讐できたコスプレメイド”ちゃんからです。皆さん、丑三つ時は。」