悪役なのも貴女
完結です。よろしくお願いします。
ルステアさんの母君は、公爵家の一人娘だったので、婿をとって公爵家を継ぐことが決まっていた。
女公爵になるので、婿は誰でもいい、好きな者をつれてこいという言質もとっていた。
しかし、母君……ネスティさんの惚れた相手が不味かった。そらもう周りが頭を抱えて転げ回る程には。
国王陛下。当時は王太子殿下だった彼は、婚約者がいる身でありながら、ネスティさんと想いを通わせてしまったのだ。
まぁ、別に普通なら王太子が婚約者と婚姻後、側妃になれば済む話である。が、ネスティさんは一人娘で跡取り。側妃になんぞなれないしさせられない。
しかし障害があればあるほど燃えちゃうのが恋である。別れさせる前に、ネスティさんは身篭ってしまった。それがルステアさんである。
王族の御落胤だが、公爵家の跡取りの懐妊に祖父である公爵が折れた。
つまり、子の父親を用意してネスティさんの夫とし、体裁を保つことにしたのだ。
白羽の矢がスコーンと立ったのが、お花畑御一行の男爵、当時子爵家の次男である。
ネスティさんとは白い婚姻であるのだが、どうやらお花畑に事実を埋めてしまったらしく、自分はネスティさんに望まれて婿に入った身で、ネスティさんに愛されてるのでなにしても無問題、と盛大で壮大な勘違いをしたまま暴走。
愛人と娘とせっせとお花畑を拡大したものと思われる。
まぁ、そんな訳でルステアさんが成人した今、契約は終了したので男爵となった血の繋がらない父親とは無関係であるとルステアさんは宣言するのだ。
「………………」
猿轡を外されても、言う言葉がみつからない男爵は、必死に過去を遡っているようだ。記憶力無さすぎである。
「あ、貴方? 貴方公爵の実子ではなかったの? 私に嘘ついたの!?」
知らんかったんかーい。いや、貴族名鑑見たらわかるやろ一発やろ1ページ目にあるんだぞ見ろや!
「え、でも私公爵令嬢よね? お父様の娘だもの。お父様は公爵なんだし」
お花畑の花は、なかなか枯れないしぶとくて図々しい生命力に溢れたものらしい。
「男爵は公爵だったことは一度もないわ。公爵はわたくしのお母さまであり、男爵はその配偶者。わたくしが成人するまでの期間限定のお婿さんだもの」
当時のネスティさんはそらもう嫌がった。好みじゃない男と婚姻せねばならない事実も、愛する人と離れ離れになる辛さに、泣いて泣いてぶっ倒れて、そして立ち直った。母は強し。
そして条件てんこ盛りの婚姻が成立したわけだが、なぜに本人がキレイさっぱり忘れてるのか、謎。
「え、え、なら私公爵令嬢じゃないの? お姉さまばかりずるいわ!!」
「貴女の姉ではないわ」
「ずるいわ!!」
パチン、と鉄扇を畳む音が響く。
「ずるいのは、わたくしを悪者にしようとする貴女ではなくて?」
その美しい所作で微笑む(ただし視線は絶対零度)ルステアさんは、紛れもなく尊き血を頂く貴人であった。
怖えー。
さて、やらかしたお花畑御一行だが、男爵は男爵位を剥奪されて領地にて謹慎(という名の監禁)。夫人は騙されたと離縁を要求したが、同罪であると領地で下働き中。
不敬罪をこれでもかと積み上げたご令嬢は、最果ての修道院に収監された。矯正が終わらない限り出ることはできないので、今生で会うことはないだろう。
社交界の紳士淑女(という名のハンター)の皆さまは、案の定根掘り葉掘り聞きたがったが、国王陛下の名のもとに口外禁止を言い渡されて沈黙した。
代わりに王太子の婚姻と妃殿下の懐妊が伝えられ、フィーバー中。ルステアさんの話などポイッとされた。それはそれでモヤる。
「生まれるのは、甥かしら、それとも姪かしら」
楽しみね、と静かになった公爵邸で、ルステアさんは優雅に笑った。
結局、男爵令嬢はなにがしたかったんでしょうねー。