酷いのは貴女
ちまちま書いてたのがやっと上がったので。よろしくお願いします。
王宮、大広間。
コールを受けて入場したルステアは、玉座に近い位置に立った。
なんせ女公爵になって初めてのパーティーなもんで、出たくなかったし緊張はするし面倒くせーしで心の中でコルセットに呪詛をはくくらいには、ルステアはグレていた。
銀髪に青い瞳のルステアは、菫色のシンプルなドレス姿だ。ただ、生地は上質なものだし、デザインも最新で、レースでふんわりと可愛らしさを補って、若いルステアのオシャレ心も満足させてくれる最高品である。
まぁ、ほら16歳だから、ルステアさん。
レースを貼った鉄扇を広げて、王族を待つかー、と気を抜いた時だった。
「酷いですわ、お姉さま!!」
わっ、と顔を手で覆って泣き出す少女。少女?
誰やん。
いや、知ってる。知ってるけど知り合いにもカウントしたくない赤の他人だ。
「……なんのお話ですの、ガジェス男爵令嬢」
「っ、酷いですわお姉さま!!」
酷い酷いとそれしか言えんのか阿呆と言いたいそのご令嬢は、まー上から下までゴージャスだった。
なんつーの、センスの欠片もない派手なデザインと派手な柄と真っピンクがマーブルに溶けた感じ。大きさだけが取り柄の宝石は重そうだし。肩凝りそうだよな、あれ。
てか、男爵令嬢なら立ち位置は後ろの後ろだ。公爵や侯爵たちのいる場所にいていい存在ではない。
案の定、大人たちの視線は厳しく冷たい。ルステアは申し訳ないと目礼するが、苦笑を返された。ルステアのせいではないと理解されてるらしい。お咎めはないな、ほっ。
「酷いですわお姉さま!!」
「わたくし、貴女の姉ではないのですけれど」
思わずため息をついたルステアは悪くない。なんか、会話にならんし話すだけで疲れそうな気がする。うん、めんどー。
「そんな……!? 酷いですわお姉さま!!」
「だから、姉ではないと」
「酷いですわ!!」
「…………」
あーうんわかった。売られた喧嘩は言い値で買ってやろうじゃないか。ルステアはちょっと短気だ。
ここで叩き潰してすりおろしておかないと後々面倒なことになるのもあるからね。ちっ、もうめんどーだからヤッチマイナーとかじゃないからね。多分。
「あの、申し訳ありませんが」
ルステアは近くにいた侯爵子息にお願いをした。この馬鹿の一つ覚え令嬢、イケメン高位貴族としかまともに話せない阿呆なのである。
侯爵子息は快く引き受けて、ガジェス男爵令嬢に声をかけてくれた。
「女公爵のなにが酷いのですか?」
「聞いてくださいませ!! お姉さまは酷いのですわ!!」
棒読みだったのに食いつきはえー。
「いつもわたくしの話を聞いてくれないばかりか、お屋敷に入れてくれませんし、ドレスも宝石もくれませんのよ! 酷いですわ!!」
「そんな義理ありませんもの」
「酷い!!」
「というか、わたくし宛に知らない仕立て屋から領収書が届きましたけれど、あれはそのドレスの?」
「だってわたくしお姉さまの妹ですもの! 公爵家が支払うものですわ!」
「支払いは拒否しましたので、貴女のお父様に支払っていただいてね」
「え? なっ、酷いですわ!!」
てか、そんなドレスに金払いたくねーわ。眼差しが語ってしまっているが許してほしい。本音を読み取ったおじ様お姉さま方はだよねーと頷いてらっしゃるがな。
「そもそも、根本的に間違ってらっしゃるのだけど」
時間稼ぎは大事だが、つき合いきれんし鬱陶しいしやかましいし。ルステアは実のない話が嫌いだ。
「貴女は公爵家の籍に入っていないの。だから男爵令嬢なのよ? 男爵の娘さんだから離れに住むのもやむ無しと許可したけれど、まさかご自分を公爵令嬢だと勘違いしたなんてないわよね?」
まさかそんな恥知らずな間違いしないわよねープーくすくす。周りのご令嬢方は淑女なので扇の下に本心ダダ漏れですやんあらまあおほほ、と笑顔だ。
「え、は? 公爵令嬢じゃ、ない?」
「男爵はご一緒ではなかったのかしら。貴女のお父様は子爵家の次男でいらっしゃるのよ。公爵令嬢だったわたくしの母に婿入りしたの。だから、公爵家の血筋はわたくしだけ。16になって後見がはずれたから、わたくし女公爵になったの。だから、貴女のお父様は子爵家の持つ男爵位を名乗ることになったのよ」
だから男爵令嬢。コールもそうされただろうに。両親と来たんじゃないのかい、どんだけおバカさんなのさ。
もともとルステアが成人したら、の予定通りだし、公爵家の仕事すらしないで愛人囲った穀潰しなんかいらないしな。
「っ、お父様は一緒でしょう!? なら!」
「ああ、貴女が男爵の実子かどうかは関係ないの。ただ、貴女とわたくしは無関係であり、姉と呼ばれる理由もないといい加減理解してくださらないかしら」
鬱陶しい。あ、つい本音がポロリと。しょうがない、ルステアはなにも言ってないよ、うん。
てか、ルステアの母と婚姻中に産まれた娘なんて不貞の証拠以外に使い道あるの? ないよね、なのにお花畑でスキップしちゃうお茶目さんたちったら、公爵家の籍に入れろだの王族の婚約者にしろだとか本宅に住まわせろとか贅沢した支払いしろだの、まぁホントふざけんな?
「男爵家の生活費その他もろもろは、男爵に支払い義務がありますので、わたくしには関係ありませんの。催促にくる商家には説明済ですから、早々にそのドレスを売りに出して返済に充てることをお勧めするわ」
「ひ、酷いですわお姉さま!!」
「話、聞いてらして?」
ここまで言えば、無関係の方々ですら理解できるのにこのおバカさんはよぅ。
「自分の娘の不始末になにをのんびりしてるんだ、ガジェス男爵は」
後ろから少し低めの声がする。なにこのイケボ。色っペー。
味方の到着に、ルステアは少しだけ気を抜いた。緊張状態ってマジ疲れるよね。
「あら、意外とお早いですわね」
「もう少しゆっくり来た方がよかったか」
「いえ、いらしたのが殿下で大変有り難く存じますわ」
「ふっ、心にも無いことを」
このいらん色気をふりまく金髪のイケメン、この国の第一王子殿下である。ちなみに婚約者有り。側室はいらんと宣言されとるので無駄な足掻きはマジ無駄。ハイエナ共が悪足掻きをしてたりするけど、知られてないと思ってるのか? 隅々まで調査済みだぞ? 誰から行こうかなーとかアミダして楽しそうだぞ殿下。
ルステアさんと殿下は幼なじみであるので、妹のように可愛がってもらっている。もちろん殿下の婚約者であるご令嬢とも仲良しだ。
「でんかぁ! 聞いてくださいませ!! お姉さまが酷いのですわ!!」
「断る」
「おね、え、え?」
殿下にもルステアの酷さを訴えようとしたみたいだが、一刀両断にスパンとぶった切られた。甘いのなー。
そもそも、殿下と面識ないだろう男爵令嬢。挨拶しない時点で不敬だが、許可なく声掛けしたことですでにアウトだ。身分社会に例外はない。
「ガジェス男爵夫妻、いるならこちらへ」
殿下のイケボがホールに響く。絶妙に低くて腰にくるんだよね、ヤローのくせに艶っぽいとかこれ如何に。あちこちで免疫のないお嬢さんたちが腰を抜かしてるが、本人はガン無視である。憐れ。
「いないのか、ジューロ・ガジェス」
「は、はいこちらに! 第一王子殿下! ですが、わたしは男爵では……!?」
マナーもへったくれもなく、周りの高位貴族を押しのけて、男女が転がり出てきた。お花畑の住人勢揃いである。
「ほ、本日は、」
「御託はいい」
挨拶をスパーンと切り捨てて、殿下はガジェス男爵親娘を見た。本日は鋭いナイフをお持ちでいらっしゃる。流し目をうっかり見てしまったご令嬢が眩暈を起こして倒れてるが、誰も気にしない。いつものことなので。
「男爵令嬢がわたしと女公爵へと不敬を働いた。如何する」
問いかけてませんが殿下。ヤるつもりですか面倒ですよ話進みませんよお花畑ですからね。
「娘は男爵令嬢ではございませ」
「黙れ」
ほら、話通じないじゃん面倒。
男爵令嬢は酷いずるいしか言えないんかーい。(セルフツッコミ)