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俺の女神様は一人だけ

 俺は佐々本大地(ささもとだいち)。H大学4年。ただいま春休み真っ只中だ。そして俺にとって、最後の春休みである。


――2月初旬――


「ねえ、大地。卒業旅行さ……お互いの友達も呼ぼうよ。人数多い方が楽しいと思うんだ」


「どうして? 俺たちだけでいいじゃん」


「ほら、大地は大学生活最後なんだし。大地の友達に会う事、少くなるじゃない」


 俺は、現在の彼女『朝比奈(あさひな) ユカリ』と自分の部屋のベッドに、裸で横たわっていた。


 ユカリは香澄によく似ている。見た目はもちろんだが、本好きなところまで同じだ。初めて見た時は本当に驚いた。去年のGW以降、優一によって香澄と強制的に別れさせられて以降、香澄にもう一度会いたいと考えていたその時――ユカリが突然現れた。ユカリから猛アタックを受け、付き合うようになった。

 ユカリは料理上手で、自分の事を素直に話してくれる、健気でいじらしい女性である。香澄のダメなところを全て完璧にカバーしている。



 ――しかし、俺は最初から知っている。ユカリは俺の女神様じゃない。



 俺はユカリに視線を送った――鋭い視線を。


「本当は、優一を呼んで欲しいんだろ?」


 ユカリは表情を強張らせる。

 俺はゆっくりと起き上がると、枕の横に置いた自分のスマホを操作する――


――


『ねえ、ユカリって本当に彼氏の事、好きなん? 彼氏できる前は医学部の柳木さんが好きとか言ってなかった?』


『そうなんだけどー、柳木さんってライバル多いし、柳木さんを惚れさせるのって難しいみたいじゃない? だから、柳木さんに近い人間を利用して、柳木さんに近づくのが一番いいと思ったのよ』


『へぇ、それがユカリの彼氏なんだ?』


『そ。今年の5月のゴールデンウィーク明けにね、大学近くの喫茶店で二人でいるのを見かけたのよ。大地は地味だし、落とすのは簡単そうだと思ったけど、実際苦労したわ。まったく、地味男のくせに調子乗ってんじゃないわよ』


 ……


――


「気づかなかった? ユカリのカバンにこっそり盗聴器仕掛けてたの――ブフ!」


 俺はおかしさを堪えきれず、思わず吹き出した。音声を聞いたユカリは、一瞬動揺したものの、ニヤッと笑う。


「バレていたんなら、話は早いわ。ねえ、大地は柳木さんの友人なんでしょ? だったら……」


「残念だったな。今、俺は優一と絶交中だよ。だからホイホイと優一を紹介できねぇな」


「は? どうして!? 早く仲直りしなさいよ! この役立たず!」


 ユカリは形相を変えて起き上がると、俺に詰め寄る。『役立たず』だなんてひどい……香澄は『役立たず』なんて言わないし、むしろ仲直りする方法を一緒に考えてくれるんだけどなぁ。ユカリは女神様と大違いだ。


「どうしてって言われても……優一は、俺と香澄を引き離した張本人なんだぜ? 今までのように『元気?』なんて挨拶できるかよ」


 俺は面倒くさい気持ちを醸し出しながら、ユカリを見つめる。

 ユカリは、目を大きく開かせていた。俺の言葉で――優一の彼女の正体に気づいたようだな。俺は笑顔をユカリに向ける。


「俺さ、ユカリに感謝してるんだよ。俺に彼女ができたと思わせる事で優一は油断してるね。その証拠に、優一は彼女の存在を示した」


 俺は気づいていた。『金田』が俺を見張っていた事。恐らく優一に指示されたんだろうな。ごくろうなこった。


 それに、香澄の居場所も特定できそうだ。まず、候補を大雑把にわけると――実家、親戚の家、県外、もしくは優一の家のどれかだ。


 まず、実家。俺は香澄と別れたあと、大学で忙しくしながらも免許を取った。そして、友人の車を借り、お義父さんの経営するレストランを訪ねた。そしたら――店長がお義父さんではなくなっていた。前の店長だったお義父さんは既に亡くなっており、実家も売り払ったとの事。だから実家の線は消える。

 次に親戚の家。これは香澄と付き合っていた時、香澄に聞いたんだが……香澄の両親は親戚と疎遠だったらしい。だから、親戚を簡単に頼る事は難しいだろう。

 そうなれば、香澄は県外か、優一の家の2択だ。

 俺が優一なら……天涯孤独となった愛しの彼女をたった一人で県外へ住まわせる事なんてできないね。むしろ、自分の手の届く範囲に置いておく。ここから先は俺の推測だが、香澄は優一の家にいる可能性が非常に高いと思う。まあ……いてくれないと困るよ。県外へ行かれたら――俺、お手上げだよ。


 あと、高校にも行ってみた。だけど、香澄は休職中の一点張りで、そこから先は何ひとつ教えてもらえなかった。あんまりしつこいと、警察に通報されるから諦めた。


「なあ、ユカリ。優一の家調べて来いよ。優一は春休みでも勉強や実験で大学に行ってるみたいだぜ。ユカリは優一と付き合いたいんだろ? ちょうどいいじゃん」


 油断しているとはいっても、優一は非常に用心深い。尾行したくても、簡単にさせてくれない。ユカリなら……まあ、期待はできないかなぁ。下手すりゃ、優一に俺の考え、読まれちゃうかも。


「柳木さんの家を調べて……どうするつもりなの?」


「どうするも何も……俺は香澄を迎えに行くだけだよ? まあ、それでも優一が邪魔してくるつもりなら――どうしようかなぁ。これ以上邪魔できないようにしてやりたいね」


 俺は香澄に会えるかもしれない、と思うと――満面の笑みがこぼれた。香澄、元気だといいな。


「……嫌よ! 大地が柳木さんの家を調べればいいじゃない! 私を巻き込まないで!」


 ユカリは小刻みに震えているようだ。何もそんなに怯えなくても……

 俺は『やれやれ』と思いながら、ベッドから離れると、テーブルの横に置いてある収納ケースをゴソゴソと探る。



「これ、何だと思う?」


 俺は、笑顔でユカリに細長い袋を見せつけた。


「それは……注射器……?」


 ユカリは、真っ青な顔で答えた。ユカリのこめかみから頬へ、汗がつたう。


「実はさ……ユカリがグースカ寝てる間に爆破作用のある注射を打っておいたんだ。そんで――起爆剤になるこの注射を打つと、化学反応を起こして、爆発するんだとよ。ユカリには少量だけ打ったから殺傷能力はほとんど無いんだろうけど。でもな……液体がユカリの全身に回ってたら……どうなるんだろうな」


 俺の話を聞いたユカリは、自分の体を手で探る。そして、顔を醜く歪ませ、俺の腕にしがみつく。


「お願いします! 何でも言う事聞きますから! 注射だけは! やめてください!!」


「じゃあ、優一の家、調べてきて。そしたら……爆発しなくなる液体を注射してあげるからさ」


 俺は、無様なユカリの耳元で囁いた。

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