視線
ガチャ…―
俺達は恐る恐る部屋に入った。
部屋の中は白を基調とした家具で統一され、キレイに整理整頓されている。
しかし、あいつの姿は見当たらない。
部屋の真ん中にあるテーブルの上には、これから出迎える客人のために作ったのであろう生クリームたっぷりのホールケーキと皿などが置かれている。
トンッ!
ケーキに気を取られていた俺は何かに躓いた。
「!」
「ね、ねぇ、こんな所に大量の錠剤が…!もしかして、睡眠薬かしら…って、聞いてる?ねぇってば―…っ!?」
「おいっ!高橋!?高橋っ!!」
「…高橋さん、…もしかしてこの睡眠薬で自殺したんじゃないかしら…。」
「自殺?!」
「…だって…ストーカーしてることバレて、もう言い逃れできないって思ったんじゃないかな…。とりあえず、警察に連絡しない…?」
「あ、あぁ…」
…―事の始まりは一週間前。
嫌な視線を感じていた俺はそれを見て確信した―ストーカーがいると―。
ポストの中にバイト中や帰宅途中、部屋で寝ている時の寝顔等の隠し撮り写真が入れられていたのだ。
俺はこのことを彼女に話すと、多分高橋ではないかと言った。
高橋は大学の学科が一緒で、大人しい感じの子だ。
いつも一人でいるのを見かける。
彼女が言うには、よく高橋は俺の方を見ているらしく、女子の間で高橋は俺に気があると噂になっているらしい。
そこで、俺は高橋にストーカー行為は止めてくれと言ったんだが、高橋はストーカーなんかしてないと認めなかった。
それからすぐにまた隠し撮り写真が送られてきた。 しかも俺はついに、バイト帰りに後をついて来る高橋を見てしまった。
だから、俺はもう一度高橋に声をかけると、
「ストーカーの件について話がしたいから明日、彼女と一緒に部屋まで来てほしい」
と言われて、来た結果がこの有様だ―…
ふと、高橋の上着のポケットからはみ出ていた紙が目についた。
*******
かんけいなんてしってるわ
このみじゃないのしょうがなかったのにしんじゃうし
6時になったら分けて
時計回りに進んだら角を見て
*******
…―その時、俺はまたあの視線を感じた―…
【解説】
まず、"高橋"の上着から見つけた紙の暗号についてです。
最後の"6時で分けて"と"時計回りに進んだら角を見る"がキーワードとなります。
"6時で分ける"→6字に分ける
ことを示しており、その通りに分けると、
かんけいなん
てしってるわ
このみじゃな
いのしょうが
なかったのに
しんじゃうし
となります。
次に、"時計回りに進んだら角を見る"ですが、ほぼそのままの意味で、上記の並び替えたものを
"かんけい~"から順に、下記の矢印の通り"時計回り"に進んで、その"角"にある文字を見ると、
か→→→→ん
て→→→る↓
↑の→じ↓↓
↑↑←ょ↓↓
↑か←←の↓
し←←←←し
"かんししてるのかのじょ"→『監視してるの彼女』
となります。
以下、話の全貌です。
"俺"のストーカーは"彼女"でした。
"部屋で寝てる寝顔"なんて、部屋に入らなきゃ撮れないですし、部屋に誰かが入った痕跡などについても"俺"は考えていませんでした。
彼女なら合い鍵とか持ってるだろうし、簡単に撮れると思います。
何故、彼女はこんなことをしたのか?
それは"俺"に好意を寄せている"高橋"さんを遠ざけるためでした。
しかし、そんなことをした覚えのない高橋さんはもちろん否定します。
この後から彼女の計画は狂いだしました。
高橋さんはストーカーの真犯人を見つけて、無実を晴らそうとしたのです。
"俺"が一度だけ見た"ついて来ている高橋"さんは、実際は真犯人をつけていたのです。そして、真犯人は"彼女"であることを知ってしまいます。
事実を知った高橋さんは、俺に真相を話すために、彼女と一緒に部屋まで来てほしいと言いました。
しかし、バレることを恐れた彼女は予定の時間より早く行き、高橋さんを睡眠薬で殺害し、ストーカーの証拠も隠滅。
第一発見者となることで、指紋などの証拠を曖昧に。 しかし、睡眠薬をいつ飲んだのかも分からないのに、"自殺"だと言い、警察に"しか"連絡しなかったことが、既に死んでいることを知っている=犯人であることを示しています。
高橋さんも、あんな暗号を用意してたなんて、もしかしたらこうなることを予測していたのかもしれませんね…
ちなみに、最後に俺が感じた"視線"はもちろん、"彼女"の視線でした。